ち〇びを引き換えに異世界行ってきます。
俺はもっと出来る奴、俺はもっと凄い奴。
過大評価とかじゃなくて本気でそう思っていた。
だけど実際は、3流高校に入学という体たらく。クラスでは、空気のように扱われ、友達0人、テストの成績も下の下。
運動だけは人並み以上にできたが、ただそれだけ。
部活に入っていたわけでもないので、当然運動部には太刀打ちなどできず、
体育祭などのイベントも特に目立った活躍はできなかったので、邪魔にならないようにするだけで必死だった。
そんな糞みたいな高校生活を終え、三流大学に進学した俺は、
友達は相変わらず0人、空気のように学内をさまよい、やっぱり成績は下の下。
さらにはアニメにはまり、どんどんドロップアウトしていった。
いろんなオタク知識を揃え、アルバイトで貯めた金を、すべてアニ〇イトに費やし、家には数多くのアニメグッズが並んでいる。
ちなみに、今のマイブームは異世界モノだった。
現代にも多くの異世界作品が有名になり、名をはせている。
そんな俺も異世界ブームにはまり、ただひたすらに毎日を、どうしたら異世界に行けるのか、異世界に行ったら何をしようか、
そんなことばかりに頭を使いながら生活をしていた。
そして気づけば21歳になり、大学生活も残り1年となっていた。
そんなある日、大学からの帰路の途中、不思議な店を発見した。
いつも通っていた道のはずなのに知らないうちにその店は建てられていた。
それなのに造りはとても古く、妙な雰囲気を醸し出している。
「異世界ショップ?なんだこの店?」
明らかに怪しい。
普通の人間なら見向きもせずに通り過ぎるのだろう。
しかし、異世界病をこじらせていた俺は通り過ぎることなど出来なかった。
ただの好奇心で入っただけのこの店で、あんな事をさせられるなんて知らなかった俺は、吸い込まれるように店内へ入っていくのだった。
店内は、薄暗くぼやけた光が灯っていた。古い西洋の建物を意識しているのか、
趣のあるレンガの作りで、そこには見たことの無い骨董品や、甲冑、
そのほかにも現代にそぐわない代物がたくさん揃えてあった。
「なんだこの店・・・・?」
一つ一つの品物の雰囲気が明らかにこの世のものではない。そう思っていて矢先の出来事だった。
「うちには、初めていらしたんですか?」
「うわぁっ!?」
リアクション的にはばっちりな反応だったはずだ。
なんせ、人っ子一人いなかった店から突如、目の前に老婆が現れたのだ。
驚かない方がおかしい。老婆は、ニタァっと不敵な笑みを浮かべる。
「異世界に興味がおありなんですか?」
「あ、ありますけど・・・・・」
なんだこのおばあさん、気味が悪いな・・・。
それに、もしかしてこのおばあさん、異世界通なのか?
こんなお店開いているぐらいだし、よっぽど異世界について詳しいんだろうな。
「恐らく、貴方様よりは詳しいと思いますよ」
「!?」
いま、思考が読まれてた?!
「うちの店に来る方は、同じような考えを持った方が多いんですよねぇ」
「もしかして、おばあさん。俺の考えてること分ってる?」
「そりゃあ、もちろん」
「じゃあ・・・」
「異世界に行きたいのでございましょう?」
どストライクで正解をついてくる。
そんなイタいことを考えてるのがばれたと思うと、恥ずかしくて死にそうだった。もういっそ、殺してくれ・・・。
「おばあさん、今日はもう帰るからさ・・・」
「おや、異世界に行かなくてよろしいのですか?」
何を言っているんだこいつは?本当にイタい奴はこいつなのかもしれない。
「半信半疑と言ったかんじですねぇ」
いや、半信もしてねぇよ。今のところ疑いしか持ってないわ。
「とりあえず、部屋へ移動しましょうか」
「部屋?」
「こちらでございます」
あんな簡単について行ってしまったのが運の尽きだったのかもしれない。
「部屋」という言葉に何か秘めたものを感じてしまった俺は、おばあさんの後について行ってしまうのだった。
店の奥には、黒い頑丈なドアのついた殺風景な個室が並び、
先ほどの店内とは打って変わって緊張感が漂う。
ドアの小窓から見える部屋の中にはなぜか、はさみ、ペンチ、カッターなど工具がたくさんおいてある。
なにか、工作でもするのだろうか・・・?
「おばあさん、ここは?」
「ここは、異世界へ行くための儀式を行う場所でございます。」
儀式という言葉に惹かれた俺は、食い気味で質問した。
「儀式ってどんなことするの?」
すると、耳を疑うような答えが返ってくる
「貴方様の右側に付いてらっしゃる、乳首をご自分で引き千切ってください」
は・・・・・・・・・?
今なんて言ったこいつ?
右側に付いてるなんて言った?乳首?
そもそも、なぜ乳首?しかもなぜ右側?
「おやりになられますか?」
「いやいやいや、いきなり乳首引き千切れって言われて『はい、やります。』とはならないでしょ!?」
「そうなんですか?皆様なかなか乗り気でございましたよ?」
皆様・・・?
俺以外にこの店に来て乳首引き千切ってる奴らがいるってこと!?
「ちょっと待って、おばあさん。今までに何人異世界行ってるわけ!?」
「うちのお店では、5~6人ぐらいですが、全国にチェーン展開しているので40~50人ぐらいの方が行ってるのではないでしょうか。」
「え、そんなに!?」
「行く気になられましたか?」
「いや、まだ心の準備が…」
はっきり言って、怪しすぎるし胡散臭い。
いいまでのやりとりにおいて、現実味のある会話が一ミリもない。
というか、チェーン展開って…。
コンビニ作るような感覚でこういう店って作れるものなの?
「あのさあ、おばあさん」
「はい、なんでございましょう?」
「そもそもなんで乳首取らないと行けないわけ?」
誰もが抱くであろう疑問だし、それにそんな痛そうな思いしたくない。
「貴方様の心臓は左側によってらっしゃいますよね?」
「え、あぁそうだけど」
「異世界は現世とは気の流れが逆なのです。異世界の住民は皆心臓が右によっているのです」
「は、はぁ」
「本来、少し左側によっている気の流れ、それを歪ませるために、気の流れを保っている乳首を片方なくすことで存在を現世が拒み、異世界へと転送させるのです」
「・・・・・・・・・。」
いよいよ言ってることが別次元すぎて、
今まで自分がしっかり勉強してこなかったから理解できないのかと思ってしまいそうだった。
この話は俺の頭が悪いから、終始言ってる事が理解できない。
なんて、そういう話ではないと思いたい。
というか、痛い思いをしたくない。
「なんのリスクもなしに異世界に行けると思っていたら大間違いでございますよ」
相変わらず人の心読むのが上手い。
「わかったよ、おばあさん。言ってることよくわかんないけど、とりあえず俺やってみるよ」
「本当によろしいんですか?」
ここまで来て、そんな事言われちゃったら断りたくなるじゃないか…。
かといって、今更帰れるはずもないので、
「うん、やるよ」
「かしこまりました。では、こちらのお部屋をお使い下さい」
重そうなドアをおばあさんが開き、殺風景な部屋へと俺を案内する。
テレビでみた刑務所で囚人を監禁するための部屋のようで、背筋に寒気を感じてしまう。
今からここで、自分の乳首を千切るのか。
自分でも何を考えているのかよくわからなくなりそうなので、
深く考えることは止めることにしよう。
さすがに、乳首とったぐらいじゃ人間死にはしないだろう。
「では、こちらの部屋にあるものは全てご自由に使ってよろしいので、上手にお使い下さい」
「わかりました、ありがとうございます」
この異様な状況に順応してしまってる俺が信じられない…。
「では、ご健闘をお祈りしています」
そう一言添えると、おばあさんはドア閉め、姿が見えなくなった。
「さて、どうするか…」
部屋には、ペンチ、カッター、ノコギリ、プレス、ライターなどなど。
見たことある道具ばかりだか、どれも乳首をとる為に作られたものではない。
そもそも、乳首をとるための道具など存在するのだろうか。
「いや、マジで、どうすればいいかわかんねぇよ…」
とりあえず、カッターを試してみようかと思っていた時だった。
突然、ドアが開きまたあのおばあさんがまた姿を表したのだ。
半裸で乳首にカッターを当てている状態を見られた俺は、
今すぐ乳首を切って異世界に飛んでいってしまいたいと思った。
「言い忘れていた事がございました」
「はい…。なんですか?」
「乳首をとる時に生じた痛みは異世界での貴方様の強さに比例します。」
「は?」
「つまり、より痛い方法を用いた方が貴方様は強い戦士となれるのです」
いちいち発想が斜め上を行ってしまうのはどうにかならないのか?
それにしても、なぜこんなに痛い目に合わせようとしてくるんだ・・・。
「それと、異世界で命を落としてしまうとこちらの世界に戻ってくることになります」
「なるほど」
それは頭の悪い俺でもなんとなく理解できそうだ。よくある設定な気がするし。
「しかし、戻ってくることの代償として身体が7年分巻き戻ってしまうのです」
「えーと、つまり?」
「貴方様の身体は、異世界で命を落とすたびに幼くなっていくということでございます」
これは、ちょっとまた話が飛びすぎて理解に苦しむ…。
巻き戻るということは0歳未満の存在になると消えてしまうということだろうか?
「死んだら戻ってこれるけど人によって限度があるよってこと?」
「左様でございます」
今、21歳の俺にとってコンテニューはあと3回か。
異世界に行って3回死んだら俺は消えてしまうらしい。異世界に行けるなら思い残すことなどないだろう。
「ご理解いただけましたか?」
「今更、理解できないことなんてないですよ」
というか、嫌でも理解しないといけないし。
「かしこまりました。では、行ってらっしゃいませ」
ドアを閉め、老婆は再び俺の前から姿を消した。
「あぁ、びっくりした」
毎度毎度、あのおばあさんの登場の仕方は心臓に悪い。
もはや狙っているとしか思えないタイミングだ。
ここでふと、ある都市伝説をおもいだす。
過去に友人から教えてもらった話なのだが、どうにも、乳首は三回転半ひねると千切れる。という噂だった。
あの時は馬鹿な話だと思い笑い飛ばしたが、今この状況においては笑えない冗談だ。
「やってみるしかないよな…」
殺風景な独房で、友達の冗談を試すという悪夢のような状況。
さも当たり前のように、俺はペンチを手に取り、乳首を挟んでいた。
この時はもう、正常な思考など持っていなかった。
そもそも、そんなもの最初から持っていなかったのかも知れない。
そして、ペンチを左回りで回し始める。
一回転、少し痛いがまだ我慢できる。
一回転半、この時点でかなり痛い。多分泣いてた。
二回転、この辺りから意識が朦朧とし、痛みが麻痺してくる。
三回転、もはや笑ってた。
三回転半、ビチュッ・・・。
気味の悪い音と共に俺は意識を失った。
そして、ここから夢の異世界ライフは始まるのである。