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感傷

作者: ひつじ

うわあ・・・、恥ずかしい。

さむい。ありえない。きもい。


そんな風に聴こえていた音楽ですら、

思い出補正でセンチメンタル。


これは、鈍感になったってことなんだろうか。

感受性がセンシティブになったんだろうか。


IT系のベンチャー企業などに勤める高学歴の男のせいで、

中途半端にカタカナ言葉が脳みそを犯す。


昔は日本文学が好きだった。

国文学科、略して国文は、国際文化学科だと勘違いされる。


黴臭い図書室の、誰も使わない旧字体の詰め込まれた倉庫は、

たまに老いぼれた誰かに思い出される以外は

誰からも忘れられて、ただそこに保存されていた。


忘れ去られたようでいて、それらは守られていた。

アドレスを与えられるということは、存在の承認だ。


私は読めもしないくせに文学少女を気取ってそれらを借りた。

でも、それは司書の人や国語の先生に褒められたいからではなくて、

本であるくせに、読まれる役割を失ったことに対して、

単純に同情のつもりだった。


同情だった。

それは、侮辱でもあった。


存在が承認されているその場所に対して。

マウントを取ることで、ちっぽけな承認欲求を満たしたかったのだ。


そういうこじれた性格の私は、

こじれて文学少女を気取ったまま大学に進学した。


それで、文学というものには大して興味がなかったことに気がついた。

時は既に遅かったし、

あまり生きることへの熱量もなかったので、

夢も追いかけずに流されて生きた。


流された果てのどこかでこの男に出会った。

いまでも好きなのかは分からない。


大してセックスもうまくないくせに、

人懐こいチャラい性格と程よいルックスと収入で女をひっかけることを自慢する。

それが長く続かないことを私は知っている。


虚しさを埋めるために男に呼ばれると私は出かける。

酒をおごらせて言い訳を作って、

虚しさの象徴のようなセックスをする。


かしこまったデートは面倒臭い。

着飾るのはお金がかかる。

待ち合わせの前には何百回も帰りたいと思う。


私はこの男とは、

数えるくらいしかデートというものをしたことがない。


だからこの男でいい。


性欲はある。

でも誰でもいいわけではない。


いつか好きになった人のことを思い出しながら男とする。

こいつは何を考えているんだろう。


ちょうどいい。

それがよく当てはまる言葉だ。


男がさっさと朽ち果てる。

年々、男の体力が衰えていくのを感じる。

健康診断も芳しくはないらしい。


それとも、これは私に女としての魅力がないことが問題だろうか。


ふと、この男に狂ったように好きな奴が出来て、

二度と自分を呼ばない未来を想像した。


なぜだろう。

音楽のせいで、バカバカしい感傷に襲われた。


こぼれた涙を男の指が拭う。

めずらしいこともあるものだと顔を見ると、

それはやはり程よく崩れていない。


顔を背けると、男は結婚しようと言った。

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