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そして人はいなくなっちゃいました(12話)

作者: 日下部良介

これはリレー小説の第12話です。

今後の執筆者さまなど詳細は、発案者の聖魔光闇さま宛お問い合わせください。

これまでの11話は、タイトル名で検索頂くか、聖魔光闇さんのページから辿って読んで頂けます。



娘の笑顔を見て僕は彼女の頭を撫でた。 サラサラの髪の毛の感触が確実に娘の存在を実感させた。

「さあ、行こうか!」

「うん」

パパは怒ってない…。 パパならきっとみんなを助けてくれる。 そう確信すると、今まで抱き続けて来た罪悪感は薄れ、気持ちが楽になっていくのを感じた。 彼女はゲーム機をポーチにしまうと父親の背中にしっかりつかまった。

僕は鎖で繋がれた娘の手の間に体を入れて娘が落ちないようにした。 見た見は薄れている鎖だったが、ずっしりと腹に食い込んできた。 すると、娘は僕の背中にぴったりくっついて腹に手をまわした。

「大きい背中…」 そう呟いた娘の願いを何としてでも叶えてやろう。 僕の心の中に、そんな決意が溢れてきた。


コンビニを出てしばらく走るとバイクショップがあった。 僕は一旦、バイクを止めた。 そして、無人の店の中を見渡した。 子供用のヘルメットを一つ借用し、娘にかぶせた。

「どうだ? きつくないか?」娘は親指を差し出し“ピッタリ”と合図した。 娘の手を繋いでいる鎖がチャリっと音をたてたが、鎖そのものは先程より薄くなっているように感じた。

「よしっ! すっ飛ばしていくぞ」

「うん」


 大通りに入ると、すぐに名神高速道路の吹田ICがあった。 誰もいない料金所を素通りすると、本線へ入り京都を目指し北上した。

 路上の至る所に主人をなくした車が置き去りにされている。 僕は背中に娘のぬくもりを感じながら、見通しの利く側道を進んでいく。 

やがて、天王山トンネルに差し掛かる。 トンネルを抜けると、阪急京都線と東海道本線の上を通過するはずだ。 そこで、少し休憩しながら電車が走っているか確認しよう。 通常この時間、阪急なら5分~10分の間に2~3本、の電車が通るはずだ。

トンネルの中には、不思議と1台の車も止まっていなかった。 それが余計に不気味に感じた。 進めば進むほど、胸を締め付けられるような不安が襲ってきた。

もうすぐ大阪府と京都府の境がある。 いよいよ京都に入る。 前方に『京都府』と書かれた標識が見えて来た。 その標識を確認した瞬間、急に目の前がまぶしくなり、周りが真っ白になった。 僕は構わずにスピードを上げた。 風邪に包まれ、空気の壁を突き破るような感覚に陥った。


 僕と娘を乗せたバイクは真っ白い宇宙を彷徨うように浮かんでいる。

「ねえ、パパ。 どうなっちゃったの? 私たちも誰かに転送されちゃったのかなあ…」不安そうな娘の声。 

「そんなはずはないさ。 パパはともかく、少なくともお前はこのゲームをやっている本人なんだから」

 ブレーキをかけても、アクセルをふかしても、バイクはただ宙を彷徨うように浮かんでいるだけだ。

「でも、もし…。 もし、そうだとしたら、私たちママに会えるかもしれない…」

「バカなことを言うな! たとえママに会えたとしても、今までみたいに暮らせるとは限らないんだぞ」

「だって…」

「心配するな! パパが必ず元に戻してや… うわっ!」その瞬間、何かに叩きつけられたような衝撃を受けた。 一瞬、目の前が真っ暗になって、それから徐々に周りの景色が見えて来た。


 僕は愕然とした。 そこは天王山トンネルの入り口だった。

「なんてこった! 大阪から出られないということか…。 他の方法を探さなくては…」 やはり、ヒントはあのゲームにあるはずだ。

「なあ、沙羅…。 沙羅?」

僕はハッとした。 ついさっきまで僕の腹を締め付けていた鎖の感触が無くなっている。 鎖が完全に消えてしまったのか…。 そう言えば、いつの間にか背中のぬくもりが消えている。 僕は恐る恐る後ろを振り返った。 娘がいない…。 さっきの衝撃でどこかに吹き飛ばされたのだろうか? 辺りを探しても沙羅はどこにもいなかった。

「沙羅ー! どこに行ったんだー」僕は力なくその場に座り込んだ。




 真っ白な広い部屋の中で沙羅は寝そべりながらゲームをしている。 部屋なのかどこか違う世界なのか分からない。 どこが壁でどこが天井なのかも区別がつかない空間。 そんな部屋で沙羅は一人でゲームをしている。 そこへ一人の男が近づいてきた。

「ちゃんと戻って来たな」そう言ってその男は沙羅の脇に腰を下ろした。 沙羅がちらっと男を見る。 そして、すぐにゲームの画面に目を戻す。 そして、口を開いた。

「だから言ったでしょう? あんな鎖なんかつけなくても逃げたりしないって」

「それでうまくいったのか?」苦笑いしながら男が聞いた。

「うん、ちゃんとパパを阻止したわ。 でも、いつかきっと京都にやって来るわ」

「それはなかなか手ごわいな」

「当たり前でしょう! 私のパパなんだから」

 男は、ゲームにのめり込む沙羅を見て満足そうにほほ笑んだ。





勝手ながら“娘”の名前を『沙羅』にさせていただきました。

次話(13話)、ココロ様、よろしくお願いします。

それから、第14話執筆予定の別天地のウルフクイーン様に確認が取れていないとのことで、第14話を代筆して下さる方を【聖魔光闇】さんが募集しています。引き受けて下さる方は【聖魔光闇】さんまでご一報願います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 娘の名前発覚!! やはり、どちらがバーチャルな世界なのかがわからない状態ですね。 気が付けば、どんどんSFになっていきますね。 今後の展開が楽しみです。 この度は、執筆ありがとうござ…
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