番外編(後編)〜悲しみの卒業式〜
いよいよ後編です。
やっぱり短い様な気もしますが、どうぞ
龍は一足先に学校へ到着し、激しく燃えている校舎の前で色々と考えを巡らせていた。
「今日は学校には誰も居なかった。先生は全て闘技場に来ていたし…生徒にこんなまねは出来ない。こうなると、部外者の犯行とみて間違いなさそうだな」
「グアアアォォ」
急にうなり声がしたので、龍は振り返った。その目線の先に居たのは真っ黒な身体をした竜。その距離はほぼ密着に近い状態。竜が振り下ろした爪を、龍は避けることが出来ず左眼を斬り裂かれ、後退する。
「く……(左眼をやられたか…しかし、あの距離で俺が気付かないなんて、どんな竜だよコイツ!)厄介な奴が出てきたもんだな」
龍の持つ木刀では、竜に傷を付ける事は出来ないだろう。しかし、ここで逃げれば闘技場のみんなが危ない。龍は木刀で竜に斬りかかる。しかし、その強靭な鱗の前に木刀は一撃で折れ、龍にはなす術が無くなってしまった。
「チッ、ここまでか…」
立ち尽くした龍に巨大な爪が迫る。龍はこれからくるであろう痛みに眼を瞑り、歯を食いしばった。
「……?」
ところが、その痛みは何時まで経ってもやってはこず、代わりに龍の目の前には木刀ではなく真剣で竜の爪を受け止めた雷光が立っていた。
「間に合ったね……大丈夫かい?龍」
「ったく、余計な事を」
「あ、そういう事言う?君の命の恩人だよ?」
「……ありがとう。助かったよ」
「君からその言葉を聞くことになるなんてね」
「バカ…お前が言わせたんだろうが」
龍は不機嫌そうに横を向いてしまった。
「龍は下がってて。此処は僕が」
「ま‥」
「おっと、反論は認めないよ?今の君は“役立たず”と言っても過言ではないからね」
「何だと!?」
「じゃあ逆に聞くよ‥‥素手であの黒竜と戦うつもりかい?」
「ぐ‥」
どうやら雷光の方が口が回るらしい。龍は何も言えず黙りこくってしまい、拳を握り締めた。
「行くよ‥‥“蒼龍”」
雷光は蒼龍を構え、突っ込む。黒竜は容赦なしに攻撃を仕掛けてくるが、華麗ともいえる動きで全てかわし黒竜の腹に到達した。そして、
「必殺剣・蒼天波!」
例のごとく、蒼龍の刀身が蒼い光に覆われた。
蒼天波の当たった黒竜の腹が裂け、真紅の血が吹き出した。雷光は返り血を浴びながらも更にもう一発蒼天波を放つ。
「ギギャアァァ‥グ‥‥オォ‥オ」
「いくら鱗が堅くても内側に入れば脆いものだなぁ」
「俺はまだお前より弱いが、来年こそは追い付いてみせる」
「待ってるよ」
力無く倒れた黒竜へと視線を移した雷光はあることに気付く。黒竜の口に何かが集まっている‥‥そして、その照準は龍であった。まだ黒竜は死んでおらず、抵抗を試みているようだ。龍は後ろを向いている。次の瞬間、黒竜の口からドス黒い炎が迸り、龍を襲った。
「龍!」
とっさに雷光は龍を庇い黒竜に背を向けた。
雷光の背中に黒い炎が突き刺さる。龍は何が起こったか分からずに唖然としていたが、血まみれになった雷光を見て事の重大さを理解した。
「雷‥‥光?」
「君が‥‥無事で‥良かった‥よ‥」
雷光はその場に倒れ込んだ。
「おい!雷光!」
「へへ‥‥僕の勝ち逃げ‥かな?結局、君は僕を超えられなかったね‥」
「逝くな!お前が居なくなったら俺はまた‥‥‥もう、俺を1人に‥‥しないで‥くれ‥‥!」
「大丈夫‥‥コイツを僕と思って‥持ってて」
そう言って雷光は血に染まった手で蒼龍を龍に渡した。
「少し早いけど、これが‥‥僕から‥‥君への‥卒業‥証書だよ‥」
「死ぬな!死ぬな雷光!治療すればまだ」
「僕の分まで‥‥生きて。僕は先に“人生を”‥‥卒業するよ」
「おい!」
「さよなら‥‥龍」
雷光の瞳がゆっくりと閉じ、笑顔でこの世を去った。
「雷光?冗談はやめろ‥眼を開けてくれ!」
いくら揺すっても雷光の眼が開くことは無く、龍の頬は大量の涙で濡れた。
「う‥‥う‥雷光‥雷光ぉぉぉ!」
叫ぶ龍の後ろでは、黒竜がちょうど起き上がっていた。龍の眼は黒竜を捕らえ離さなかった。
「お前は‥‥お前だけは、許さない!」
龍は猛然と黒竜に向かって歩く。黒竜が爪を振り下ろしてくるが、龍はそれを刀ではなく片手で、素手で受け止めた。雷光に「素手で戦うつもりかい?」訊かれた時は答えられなかったが、今なら答えられる。
「ああ、そのつもりだ!」
掴んだ黒竜の腕を蒼龍で斬り落とし、それを踏み台に黒竜の頭までジャンプ。
黒竜は来させまいともう片方の腕で殴りかかるが、龍は止まらない。もう片方の腕も斬り飛ばし、最後の一撃を放つ。
「これは親友の命を奪った報いだ!!必殺剣・蒼天波ぁぁぁ!」
蒼く光り輝く刀身で黒竜の頭を身体から切断。首から血が噴水の様に吹き出し、今度こそ黒竜は息絶えた。その時、蒼龍の刀身には破壊の竜、つまり、黒竜の“力”が宿ったという。
「雷光‥‥お前の願い、俺が受け継ぐ。お前の分まで生きて、そして必ずお前に会いに逝くからな」
−2年後−
剣術学校の卒業式。龍を含め卒業式には生徒全員が参列した。ただ1人を除いて……
覇道龍は他の誰にも追撃を許さない成績で学校を卒業。しかし、この場に居る者達は忘れていた。かつて覇道龍よりも強かった少年が居たことを‥‥疾風雷光の存在を。
皆が忘れても龍は卒業するまでの2年間、片時も雷光の事を忘れなかった。いや、忘れてはいけなかった。
雷光によって自分は生かされているのだということ‥‥その意味を考える為に。
卒業式が終わり、龍は雷光の墓へと歩みを進める。
墓に自分の花束を置く。
「雷光‥見てるか?俺、卒業‥‥したぞ。なのに、お前が‥居ない」
龍の横顔はどことなく寂しそうだった。これから龍はこの傷を胸に抱いたまま今後を生きてゆく。自分で命を絶つことも考えたが、どうしても出来なかった。
龍に「自分の分まで生きて」と願いを託し、死んでいった雷光の為にも、龍は生きなければならない。
龍は雷光の墓を後にし、向かうのは模擬戦を行っていた闘技場。いつもなら人の出入りは多いのだが、今日は何故か人1人居ない静かな闘技場だった。
「なんか気味が悪いな」
そう言いつつ、観客席の椅子に腰掛ける龍。龍の脳裏に雷光との模擬戦の思い出が鮮明に蘇ってくる。
「懐かしいな、雷光‥‥ん?これは‥‥」
急に濡れた頬を拭うと、その手には一滴の涙。
そして龍は自分の身体が震えている事に気付く。
「フ‥‥ここまでくると、もう呆れるよ」
今まで何度泣いたことだろう‥‥たった1人の親友を無くした少年の泣いた数は計り知れない。もう雷光は居ない。そんな事分かっていた‥‥だから
「生きてみせるさ‥‥雷光‥お前の為に‥‥‥俺は死なない」
龍の見上げた空は雲1つ無い晴れ渡った空だったという。
番外編終わりです。
最後は龍の視点になってしまいました。黒竜を倒したから龍皇破が使えるようになったんですね。
次から本編に戻ります。では、また会いましょう。




