本編第15話〜捜し求めていた安息〜
メビウスの話が中心の15話です。ではどうぞ
−皆さんこんにちは。
シリウス・ザ・シュラークの子息、メビウス・ザ・シュラークです。
今日は僕の事についでお話しますね。
そうだなぁ〜、皆さんは僕の“不規則な力”はご存知ですよね?
いやぁ、この『突然変異』、中々に便利でして。
“相手を騙す”事に関しては他に類を見ない強さなんです。
例えば、例えばですよ?今僕は大虎と終夜さんから追われているんですが…そう、もうお分かりでしょう?僕がどちらかに化けて出ていったら……どうなると思いますか?−
−<ヴェニキア>郊外−
「チィ!何処行きやがったんだ?メビウスの野郎…」
終夜と共にメビウスを追って屋敷を飛び出した大虎だったが、入り組んだ住宅街に逃げ込まれ、メビウスを見失ってしまっていた。
−まさか、あいつが裏切るとはな…龍の奴、落ち込んでなけりゃいいが…メビウス、真実を話してもらうぜ…−
考えながら走っていると、路地裏の角に怪しい人影が1つ。
「!」
抜いた鋼虎を、その影の首筋へ持って行き寸止めする。その影も自分と同じ動き(モーション)をとる。この影正体とは……
「大虎…」
「な、何だ終夜かよ。驚かせやがって」
この時、大虎は気付かなかった。終夜の持っていた刀が天龍では無い事に。
「大虎、メビウスは見つかったか?」
「今捜してる」
「そうか、なら挟み撃ちが効率的だ。俺は西から回り込むから、お前は東から行ってくれ」
「分かった」
大虎が身を翻し終夜に背を向けた瞬間、刃が大虎の背中を一閃した。鮮血がしぶき、そのしぶいた鮮血がレンガにべったりと付着し、流れ落ちる。
「が……!て、てめぇ……」
必死に手を伸ばしその足を掴もうとするが、今少し足りない。遠ざかる意識の中、大虎が見たもの。それは…返り血を浴びて赤い斑点がいくつも出来ているメビウスの顔だった。
「先ずは1人……」
−どうでしょうか?『突然変異』にはこんな使い方も在るんですよ。これが“相手を騙す”つまり“欺く”という事ですよね。でも、鋭い人なら話し方とか癖で直ぐバレちゃいますから、そこのところは慎重に。あ、良い子は決してマネをしないで下さい。僕みたいな歪んだ人間に成りたくなければ、ね。それから……−
−ドスッ−
「…え…?ドスッ?」
瞬間、メビウスの口の中には血の味が広がり、目線を下に落とすと、心臓の辺りから突き出ている蒼い刃。
メビウスはゆっくりと後ろを振り返る。
「へへ……見つかったか…流石は…龍だね」
藍色の髪をした青年は、無表情でメビウスの眼を見つめ、視線を外そうとはしない。
「お前のやりそうな事くらい分かる。それよりも、何故手を抜いた?あの時なら大虎を殺す事も出来た筈だ」
「見られてたのか…さぁ…何で…だろう……ねぇ」
「答えに成ってないぞ」
龍の眼からは、涙が一筋。メビウスにはその理由がどことなく理解できていた。
たった5年だけの付き合いだったとしても、例え偽りでも、友達だった者を殺す時の罪悪感に苛まれている眼だ。
−あぁ、知っているよ、龍、その眼。
僕も何度そんな人を殺して来たんだろう。
あの馬鹿親父から命じられるがままに意味のない殺戮を繰り返して……僕は生まれながらにして戦闘兵器として育てられた。でもそんな僕にも、友達が出来たんだ。
そう、それが龍。兵器として見られていた僕をあっさりと受け入れてくれた。やっと、本当に仲良くなれると思ったのになぁ……−
「そう…だね…僕が此処で…死ねば、あの馬鹿親父の…計画に…少しでも……障害が…生まれると…思ったから…かな」
「そんな事ために、お前は」
「早く…行くんだ、龍。僕なんか…放っておいて」
「仲間の不始末は俺が点ける」
尚も強い口調で話す龍に、メビウスは笑顔を崩さない。薄れゆく意識の中で精一杯の笑顔である。
「此処まできてまだ“仲間”だなんて…甘いな君は」
「その甘さもひっくるめて、全てが俺の強さだ」
「やっぱり…君には…か…なわな…い…なぁ」
−7年前−
僕は龍達が剣術学校に通っている間、戦闘の訓練をさせられていた。
休む事は許されず、倒れれば鞭を打たれ、朝から晩までひたすら
訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練訓練。
一度は死ぬことも考えた。だが、死のうとした時に、自分が強くなるため……お父さんの役に立つためだと思うと、どうしても死にきれなかった。
父の事は…シリウスの事は、嫌いでは無かった。むしろ[伝説の剣士]である父を尊敬さえしていた。あんな糞親父をだ。
「良く頑張ったなメビウス…今日はゆっくり休みなさい」
「ありがとう…父さん」
夜は好きだ。少なくとも、辛い訓練の事を忘れられたから。でも次の朝にはまた訓練。
そんな日常を送っている中、あの事件が起きた。
『死の制裁事件』
[伝説の剣士]と、魔物の全面対決。その対決に当時14歳だった僕も駆り出され、戦う事となる。
この戦いで功績を上げれば、きっと父さんに認めてもらえる。そう思っていた。
これは余談だが、この時僕の『突然変異』は既に開花していた。その能力で父へと変身し、前もって鍛えられた戦闘力もあって[伝説の剣士]側が勝利を収めた。
「このくらいでのぼせ上がるなよ。まだお前は強くならなければならない」
それが父、シリウスの言葉。突き放した様な言い方だったが、その時は何故か納得がいっていた。
それから2年が過ぎて16歳になり、戦場に赴いての殺しが当たり前になっていたある日の夜、僕はベッドで魘されていた。
魔物の血で溢れかえる戦場。響く断末魔。斬り裂かれて真っ二つになる
魔物…魔物…魔物…魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物。
「うわぁぁぁぁぁああ嗚呼ああアアァァああ亜あ!」
ベッドから飛び起きて周りを確認する。
どうやら戦場では無いらしい。汗でぐっしょりとなっている額。その額を拭い、洗面所で顔を洗う。
自分の服を羽織り、家の外へと走り出す。逃げ出したかった。
とにかく此処が嫌だった。
もうあんな事は、殺しはしたくなかった。
夜が更けて行く道を、無我夢中で走り続ける。
一心不乱に、後ろを振り向かず。
一体どれほどの距離を走ったことか。故郷<ワーミスト>から、随分と離れた気がしていた。
元々訓練で鍛えられていた体力が幸いして、そこまで疲れてはいない。
見上げた空には、太陽光の反射が終わって白くなった月が出ていた。
そして前方には、藍色の髪に濃紺の瞳をした少年が……。
その少年は、僕を<刀>の城へ招き、好きなものを好きなだけ与えてくれた。
更には住む場所まで提供する始末で、これが本当に15歳のする事か、と疑問に思ってしまう程。
そして僕が20歳になった頃、父がソードハンターを復活させた事を知り、<ワーミスト>を訪ねるが、父の姿は無く<ワーミスト>は壊滅させられた後だった。
その後1年間、僕はソードハンターの情報を集めて周り、父との接触に成功した。だが父は、またもや僕に命令を下す。
「覇道龍を監視せよ」
逆らえなかった。
幼い時より身体に染み込んでいた軍人思考に適う筈も無く、仕方なしに龍を追って父の元から離れた事が記憶に新しい。
*
−思えば、あの『死の制裁事件』が終わった時から、僕は死に場所を求めていたのかもしれない。得られる筈もない無形の安息、幸せを求めていただけかもしれない。
それが、漸く手に入るんだ。
思い残す事は……沢山あるなぁ〜。
シリウスを、あの馬鹿親父の顔をぶん殴ってやりたかったし、計画を邪魔したかった。
あの親父が悔しがる姿を見たかった。
あ、ユーリにも誤らなくちゃ。でも、それは龍に任せよう−
「大虎には…ごめん…って…言って…おいて。自分で…言えそうに…ないから。それから……ハァ…ユーリに会ったら…騙してて…悪かったって…言ってね。君達を…騙してたけれど…ハァ…ハァ…親父の計画を…止めたいのは……本当だったんだ。後は……任せたよ」
「ああ…ああ…分かったよ。最高の仲間として、最高の友達としての最後の挨拶だ。さようなら…安らかに、な」
言って龍は蒼龍を引き抜く。今まで立っていた事が嘘のよう、糸が切れた操り人形の様に地に倒れ伏すメビウス。
−さようなら龍……次に会うときは……もっと、良い人間に成ってるから、さ……ハハ、そんな顔しないでよ龍…こっちまで泣きたくなるじゃないか…僕は今から旅立つんだから、祝ってよ。
やっと……初めて命令違反が出来たんだからね。逆らえなかったあの親父に命令違反を犯すなんて、命がいくつあっても足りないよ。
おっと、そろそろ時間切れ、かな…でも、もう少しだけ、この世界で生きたかったなぁ−
なんか書いてて感動しました。龍の、全てを許す発言はかっこよかったです。メビウスよ安らかに…




