本編第12話〜似て非なる能力(ちから)〜
12話です。設定が色々と難しい(汗)。たまにあらすじを入れることにしました。
ではどうぞ
−あらすじ−
蒼龍を直すために雪国<ヴェニキア>へと向かっていた龍達。途中の<カブル連山>において鉤爪悪魔との戦闘になるが、見事勝利し、山を越えるのであった。
「な、なんじゃこりゃあー!」
大虎が大声をあげるが、無理もない。<カブル連山>を越え、天馬に変身したメビウスに乗って<ヴェニキア>へ来たのは良いのだが、メビウスが言うその場所には、雪が在るばかりで町が何処にあるのか全く認識出来ないのだ。
「おいメビウス!これはどういう事だ!辺り一面真っ白じゃねぇか!なーんも無いぞ!?」
「ん?ああ、言ってなかったけど<ヴェニキア>は雪の下にある地下国家なんだ。魔物を警戒したお偉いさん方が地面の下に国を築いたんだよ」
「また地下かよ」
と大虎。
「でも、<ヴェニキア>は人間と小人に妖精、そして竜人の4つの種族が共生していると聞いたことがあるわ。小人や妖精はともかく、竜人は人に危害を加えかねない魔物よね?」
麗裟の質問に大虎とサクヤが頷くが、龍だけは眼を閉じて黙っていた。
「そう。なにせ、その計画を発案したお偉いさんは当時の竜人族の長だったんだから」
「どういう事ですか?」
サクヤが首を傾げると、龍が補足説明を付け足した。
「つまり、人間や小人、妖精と共に住ませてもらう代わりに、町を守る役目を背負った、というところか……大方人間に助けられた竜人が恩返しを買って出たんだろう」
「そうだったんですか」
「竜人の中にも穏健派ってのが居るんだな」
「気性が荒い奴らばかりではないという事だな。さ、早く入ろう。このままじゃ氷付けになって愛地博に移送される」
「でも、どうやって入るんですか?」
「まず入口を見つけなくちゃね。火炎舞闘!」
桜火の刀身から炎が迸り、周囲の雪を溶かし始めた。
暫くして、雪が溶けた地面に鉄の扉が出現し、メビウスは扉を開けて中へと入って行く。
「此処が入口だよ」
「どうりで見つからないわけだ」
延々と続く階段を下りた一行を待っていたのは、地下とは思えない程明るく、活気のある街だった。全体的にレンガ造りの建物が目立つ洋式の街並みで、あちこちに小人や妖精の姿が見受けられる。
「こいつぁすげぇ」
「地面の下にあるからもっと暗いと思ったけど、そうじゃないみたいね」
街の様子に感心しながら歩いていると、2体の竜人が立場たかった。竜の顔に、人の身体を持つ少数派種族である。
「外から来た者達だな……<ヴェニキア>に何の用だ?」
2体の竜人は自分の持つ斧を交差させて行く手を阻んでいる。
「勝手に入って申し訳ない。首都<オルウェーダ>の鍛冶屋に用がありまして。前に一度来たことがあるから、オルウェーダ市長に確認してもらえれば分かります」
「分かった。それでは確認をとる。しばし待っていてくれ」
−それから−
首都<オルウェーダ>の外れにある小さな建物。見た目はお化け屋敷に見えなくもない其処が、鍛冶屋らしい。市長に確認もとれ、竜人達の検問を抜けた龍達は、メビウスの案内で<オルウェーダ>へ来ていた。
「凜さーん、居るー?」
メビウスは、何の躊躇いもなくその建物の中へ入って行き、それにつられて龍達もメビウスの後を追う。
建物の中には沢山の刀や盾が所狭しと立て掛けてあり、鉄を叩く金槌が散乱している。熱せられて赤くなっている鉄が在るのを見ると、少し前まで誰かが此処に居たことが分かる。
「相変わらずの散らかりようだな……」
「あら、お客さん?」
メビウスの声に応えるように建物の奥から出て来たのは、女性だった。長い黒髪に翡翠の瞳をしていて、歳は20代後半といったところか。
「あら、メビウスじゃな〜い。久し振り」
「うん、久し振り。みんな紹介するよ。この人が僕の知り合いの……」
「泡沫凜よ。宜しく」
「覇道龍です」
「春風サクヤと言います」
「私は銀麗裟」
「黒斬大虎ってんだ。それにしても、鍛冶屋って女だったのか」
「あ〜違う違う。鍛冶屋は私の父、泡沫鎗鬼の事。私は只の刀好きよ」
「見るからに怖そうな名前ですね。って泡沫鎗鬼といえば[伝説の剣士]の1人ですよね!?」
サクヤがまた1人で暴走し、周りの反応に気付いて縮こまる。どうやら知らなかったのはサクヤだけらしい。といっても、斬風終夜(改め春風終夜)がサクヤの兄であることは誰も知らないわけだが。
「父に用なら遅かったわね。たった今[伝説の剣士]の召集会議に行ってしまったわ」
「いや、今日は凜さんに用があって」
「私に?」
「うん。この刀を“直して”ほしくて……折れてるんだ。いや、正確には折られたんだけど」
メビウスが龍の手にある蒼龍を指差す。すると、凜は眼の色を変えた。
「それって、まさか……蒼龍!?」
「そうですが……それがどうかしましたか?」
「此が蒼龍……一度見てみたかったのよねぇ〜!!」
凜は龍の手に握られている蒼龍に、眼を輝かせている。
「よく鍔の装飾だけで分かりましたね」
そう、メビウスは凜に“この刀”と言っただけで、蒼龍とは一言も言ってはいないのだ。にもかかわらず、鞘に収めたままの刀を鍔の装飾だけで蒼龍と判断してしまうのだから大したものだ。因みに、蒼龍の鍔はひし形の4つの先端が欠けたような形をしている。
「そりゃ有名な刀だもの。刀好きのくせに知らない方がどうかしてるわ……で、これを“直せば”良いのね?それなら“私に”ではなくて私の“不規則な力”に用があるって言わなきゃ駄目よ?」
「バレてたか。とにかく、お願い」
「分かったわ……じゃあ蒼龍を抜いて。巻き戻し(ロール・リバース)!」
凜が言うと、蒼龍の刀身が淡く輝きだし次の瞬間には元の、刃が折れる前の蒼龍へ戻っていた。
「これでどうかしら」
「完璧に直ってる……ありがとう」
「どう致しまして」
「凜さんの“不規則な力”って何なんですか?」
サクヤが先程から訊きたくてしょうがなかった疑問を口にした。
「私のは『巻き戻し(ロール・リバース)』……“形状変化した物を本来の形状に戻す事が出来る”の。詳しく言うと、その物体の時間軸を形状変化する前に戻すの。系統は事象干渉系よ」
麗裟の『時喰』と少しだけ似てはいるが、此方は破壊ではなく“復元する”能力。というところが、麗裟の『時喰』との大きな違いだろう。さらに、発動条件が少なく、形状変化した物ならどれだけ時間が経っていようと復元出来る。“所有者の頭の中に元の形状の映像が残っている”というのが唯一の発動条件である。裏を返すと、所有者が死んだり、記憶喪失に成るなどして映像が消えれば、この能力は無意味なものと成ってしまう。それに、元から所有者が居ない物など論外である。
また、人に使うことが出来ないという事も、『時喰』との違いとして挙げられる。麗裟の『時喰』は対象物を“人”としているが、凜の『巻き戻し(ロール・リバース)』は“形状変化した物”のみを対象物としている。つまり、この2つの“不規則な力”は似て非なるものなのだ。
「私の『時喰』と似てる……」
「でも、この2つは似て非なる能力……ということは分かるわよね?」
「ええ……まぁ」
凜の言葉には他者を寄せ付けない棘が、少なからずも含まれているように麗裟は思えた。
「そういえば、この前も刀を直してほしいって頼みに来た人がいたわね。名前は確か……ゴル…ゴラ…」
「まさか…ゴルディールでは!?」
「そうそう、其れよ。知り合い?」
「敵……ですね」
場にしばしの沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、意外にも大虎だった。
「で、これからどうするよ?ゴルディールを追うか?」
「いや、そっちも心配だけど、今は<オルウェーダ>市長の所へ行って五元の竜について聞こう」
鍛冶屋を後にした龍達は凜を連れ、<オルウェーダ>の中心にある市長の屋敷へと向かっていた。市長の屋敷までは鍛冶屋から長い長い一本道となっており、滞りなく辿り着ける……筈だった。
「チィ……此処には魔物は入らねぇんじゃなかったのか!?」
大虎が舌を打ち、鋼虎を抜いた。市長の屋敷へと続く一本道には、巨大な体をした狼が3匹。肉食獣、大狼である。
「地下に在るだけだから全く入らないって訳じゃない。大狼の鼻は誤魔化せないのよ……これが<ヴェニキア>の問題点なの」
凜が悔しそうな表情を浮かべて唇を噛む。問題点と言ったということは、これが初めてではないのだろう。
「とにかく、此奴らを蹴散らして市長の屋敷へ急ぐぞ」
そう言って、龍が直ったばかりの蒼龍を抜刀した。龍の手に握られた蒼龍が、まるで主人の呼びかけに応える様に鼓動を打っているのが、大虎には分かった。
「(やっと龍と共に戦えるんだな。蒼龍……思う存分暴れてこいよ。俺と鋼虎も暴れるからな)」
「サクヤ、麗裟さん、凜さんを連れて屋敷へ向かえ!突破口は俺達3人で切り開く!」
「分かりました!」
「了解!」
この後戦闘になるので、中途半端なところで切りました。
考えてみたら、龍達って殆ど休みなく戦ってますよね。
これ読んで面白いと思った方がいらっしゃれば、他の方へ紹介して頂ければ幸いです。
では、また13話で会いましょう。