本編第9話〜痛み〜
最近、本人視点じゃなくなっていますね。
まぁ良いでしょう。
では本文をどうぞ
龍達の避難後、メビウスとユーリはしばしの間、無言で見つめ合っていた。
「手合わせするのは初めてかな?」
「かもね。楽しくなりそ〜」
「油断してると足元掬われると思うけど?」
2人の両脚に力が入る。
「それなら…心配ないわよ!」
「どうかな!」
風をきって走り出すユーリとメビウス。先に仕掛けたのは、ユーリだ。刀身の短い連刃を片手に持ち、 確実にメビウスの急所へ突きを繰り出す。だが、メビウスはそれを全て紙一重でかわし、一瞬の隙をついて自分の刀を抜き、ユーリの肩を斬りつける。
「……」
ユーリの肩から紅い液体が廃り、手をつたって地面にパタパタと落ちていく。だがユーリは傷口を抑えようとはせず、顔色1つ変えない。
「(えらくあっさり一撃を加える事が出来た……でも)」
「やるじゃん」
「どうも」
「でも、これはどうかな?連刃乱槍!」
ユーリが連刃を前へ突き出す。すると、連刃の刀身が増えていき、勢いよくメビウスに向かって伸びてきた。
「成る程これは凄い……じゃあ僕もこの刀、『桜火』を使わせてもらおうかな」
メビウスが桜火と呼ばれた刀を両手で持つ。
「火炎舞闘!」
桜火の刀身から無数の炎の触手が現れ、連刃乱槍に走っていった。触手と連刃乱槍がぶつかり合い、相殺。この結果にユーリは納得いかない様子で顔をしかめた。
「私の連刃乱槍が相殺、か……ちょっと、悔しい。じゃあ今度はこれ!連刃乱槍・跳遠拡!」
先程の連刃乱槍が伸びる。そして刀身がメビウスの周りで屈折を繰り返し、メビウスを刃が取り囲む形になる。
「これは、マズイ……かも」
「どう処理する?」
メビウスを取り囲んでいた刃が迫り、地面に突き刺さる。
「あらら……もしかして、死んだ?」
ユーリが少々心配気味に言うが、
「いや、まだだよ」
メビウスの声。その声はユーリの後ろから聞こえてきた。
「!」
反応出来なかったユーリはメビウスの攻撃を避けられず、横腹を桜火で貫かれてしまった。
「いつの間に、後ろに……?」
「君が連刃乱槍を放った時あたりかな」
「え?……だってさっきまで私と話してたでしょ?」
ユーリは横腹に刀が刺さったまま、淡々と質問をする。
「僕の“不規則な力”は『突然変異』。でも、この『突然変異』にはもう1つ能力があってね。」
「もう1つ?」
「“分身変異”……自分の分身を突然変異で創る事が出来て、その分身には僕の意思が反映されている。君は連刃乱槍を使うと、刃数の多さで僕の姿を捉える事が出来なくなる。違うかい?」
「確かに……その通りだけど」
「だから僕は、火炎舞闘で連刃乱槍を相殺しているときに地面に変異して、機会を伺ってたってわけ」
「それでさっき、跳遠拡を見ても微動だにしなかったわけ。頭いいわね」
「(さっきから、横腹を刺されているのに、この子は痛くないのか?)」
「ねぇメビウス?」
「何だい?」
「私の“不規則な力”……知ってるぅ?」
ニヤリと不適に笑うユーリ。その瞬間、メビウスの横腹から血が吹き出した。
「が……あ!?(コレは、何だ)」
メビウスは、一旦ユーリから離れ、状況を確認する。別に攻撃を加えられた訳でもない。しかし、横腹から血が出ている。
「(何が起こった?全く分からなかった!)」
「キャハハ、何が起こったか分からないって顔してるね」
見事に考えを読まれた。しかし、何もしないままではユーリを倒すことなど不可能。
「(だったら)」
メビウスは走り出し、桜火で今度はユーリの腕を斬り裂く。すると、
−ブシィ−
という音と共に、ユーリの腕から鮮血が迸るが、メビウスの腕からも血が出る。
「な!」
「何やってるの〜?自滅ぅ〜?」
「(僕が斬った所と血の出る箇所が同じ……彼女の“不規則な力”ってまさか!?)」
「そろそろ教えてあげようかな。私の“不規則な力”は『痛みの操者』……痛みを操るの」
「痛みを……操る、か…やっぱり」
「説明すると難しいから、実際にやってみよう。同等の痛み(トレース・オブ・ペイン)!」
言ってユーリは自分の腹を連刃で斬り裂く。ユーリが口から血を吐き、その場にゆっくりと倒れた。
「おい、何をやって……!」
メビウスの腹も同時に斬れ、力無く倒れ込んだ。
「かはっ!」
「どう?これが同等の痛み(トレース・オブ・ペイン)……あなたの“身体の状態”を私と同じにする」
「くっ…!しかし、君は痛く…ないのか!?」
「ぜ〜んぜん。『痛みの操者』のもう1つの能力、消す痛み(キルペイン)で“私の痛みだけ”を消してるからね〜」
「なんて性悪な……能力だ…ハァ…ハァ」
痛む腹を抑えながら必死に立ち上がるメビウスとは裏腹に、ケロッとして立ち上がるユーリ。
「私を攻撃すれば貴方も傷付く。これをどうやって覆す?地面と同化したり、痛みを感じない身体に変身したって、攻撃の時は元に戻るんでしょ?意味ないよ」
「(さっきの一撃だけで、そこまで分かっていたのか!?)へぇ、よく見てるじゃないか」
「見直した?」
「見下してたつもりはないけど…」
「あらそう?まぁ良いや。此処で貴方は終わりだかんね」
「勝負は最後まで分からないものだよ」
「負け惜しみを!」
「可能性と言ってほしいね!」
また2人は対峙する。ユーリの突きを桜火で受け流したメビウスは、足払いをかけてユーリを転ばせる。“身体の状態”を同じにするだけなので、ユーリが転んでもメビウスは平気なのだ。しかし、脚に若干の痛みは残る。転んだユーリを地面に押さえつけるメビウス。
「……ねぇ、誤解を招く様な事はしないでくれるぅ?」
「君こそ勘違いしないでくれ……君が自分の身体を傷付けるのを止めさせただけだ」
「へぇ、それでこれからどうするの?」
「こうするのさ!火炎舞闘!」
メビウスはユーリを押さえつけたまま、火炎舞闘を使った。すると、先程投げ捨てられ地面に転がっていた桜火から炎の触手が現れ、ユーリの傷口を焼いてふさぎ始めた。
「ぐ……あ…ああ…!!」
「何をしてるの!?」
ユーリは痛みを感じないが、メビウスは別。痛みで気絶しかけている。
暫くして、ユーリの傷が完全にふさがれた。
依然としてメビウスはユーリを押さえつけたままである。
「どうして傷を?」
「あのままじゃ、2人とも出血多量で死んでたからだよ。痛みを感じなくするから、そういう事が分からなくなってしまう」
しばしの沈黙。そして
「フフフ……アッハハハ!参った参った。私の負けぇ」
「!……どういう」
「私、実は貴方の実力を試しに来たの。ううん、試しに行かされたと言った方が良いのかしらねぇ」
「誰に?」
「それはまだ教えられなぁい。因みに、貴方のお父様じゃ無いからね」
「つまりその人は、僕が龍達に接触すると読んでいたのかい?」
「そういう事になるのかなぁ……メビウスが龍達の仲間となるに相応しいか判断して帰って来いってさ」
「で、僕は見事合格ってわけか」
「御名答。さぁ、早く龍達の所へ行って」
「分かった。ありがとう、ユーリ」
ユーリはメビウスが見えなくなるまで見送ると、急に眼を細くし、後ろの岩陰に潜む人物の名を呼んだ。
「何時まで其処に居んのよ……ゴルディール」
「気付いていたか」
岩陰から現れたのは、先日龍が倒したゴルディール・ロルカノフだった。
「当たり前ぇ〜。隠れるの下手過ぎ。で、何の様?」
「いや、君に用は無い。私はあのメビウスとかいう少年を追い、覇道龍を叩きのめすだけだ」
「させないよ、連刃乱槍!」
無数の刃がゴルディールに襲いかかる。しかし、ゴルディールは宙に浮いて浮上し、かわした。
「飛んだ!?」
「まだ“不規則な力”を魅せていなかったな。私の“不規則な力”は『乗りこなす者』といって、“流れ”のあるものに“乗る”事が出来る。今は風の流れに“乗って”いるんだ」
「あんまり便利な能力じゃなさそうだけど」
「子どもには分からんさ」
「じゃあ分かんなくて良い」
「何だ、つまらん。私は龍を追うからもう行くぞ」
「行かせないって言ってんの……鋼刃牢!」
連刃の刃が重なり合い、巨大な牢となってゴルディールの動きを封じる。
「!まだこんな技を」
「動けないでしょ?それ!」
ユーリが手を振り下ろす。牢が地面に叩きつけられ、崩壊する。その残骸の中にゴルディールは倒れていた。ユーリはゴルディールに歩み寄る。すると、ゴルディールが突然起き上がり、刃が“ちゃんと付いている”吸鬼でユーリの胸を刺した。
「油断したな」
「そうでも無いよ〜ん。同等の痛み(トレース・オブ・ペイン)」
ゴルディールの胸にも穴があき、血液が散布した。
「!」
「まさか、忘れたの?私の……“不規則な力”!」
身を翻してゴルディールに蹴りをくらわせる。
「くっ……」
「連刃乱槍…」
ユーリは連刃乱槍を創り出すと、その刃を4本折って地面に倒れているゴルディールの四肢に突き立てる。
「!!!」
「これで動けない……終わりねぇ〜」
「ま、待て!もうお前の前には現れぬ!だから…」
「死ねぇ☆」
心臓の在るあたりを一突き。
一瞬身体を硬直させ、ゴルディールは動かなくなる。返り血を頬に浴びたユーリの顔は、ひどく冷たかった。
「任務は果たしたわよ、ソルディアス。後は、彼等次第……」
力無く座り込んだユーリは誰にも聞こえないように、そう呟く。
この時、ゴルディールの口元が吊りあがっていたのにユーリが気付く筈も無かった……。
どうでしたか?
誤字脱字あれば指摘お願いします
では、また会いましょう