本編第7話〜“不規則な力(イレギュラー)”〜
更新遅くてスミマセン。やっと一番語りたかった事が書けました。でも、ちょっと短かいです。
最後は、再びあの人が登場します。ではどうぞ
この世界には、“不規則な力”という、人知を超越した力が存在する。才能云々(うんぬん)の問題ではない。訓練して身につけられる様な代物でも無い。ある日突然、“稀に”開花し、その能力を使うことが出来る。しかし、“不規則な力”の開花率は五分五分。普通の人間にとっては開花しない方がいいのかもしれない。“不規則”を持つ者は、人として見られなくなる事が多く、妬み嫌われる。だがその一方で、戦いなどの場面では頼られる事が多い。
開花する能力は人により様々で、必ずしも自分の役に立つものではなく、不安定。故に“不規則な力”である。
「く……眼が…!!」
ソルディアスとの戦いに敗れた龍は、<アミラス>での休養を余儀なくされていたが、急な眼の痛みに魘されていた。しかも、痛むのは13年前、あの黒竜に斬り裂かれて以来開く事の無かった左眼である。
「大丈夫ですか?」
看病しているサクヤが心配そうに見つめるが、龍は平静さを保ち、サクヤに尋ねた。
「ああ、俺の事はいい。それより、大虎は…」
「麗裟さんが別の部屋で看病してます。心配無いと思いますよ?」
「そうか……それにしても……くっ!また、眼が…」
龍は左眼を抑え、悪態をついた。
「ひょっとして、“不規則な力”でしょうか…?」
サクヤが何気なく言った一言に龍は一種の納得を覚えた。“不規則な力”が開花しかけているのかもしれない。
「だから、左眼(この眼)が痛むのか」
「あくまでも推測ですけどね」
「龍の“不規則な力”か……見てみたいもんだな」
声と共に龍の部屋へ入って来たのは、麗裟に肩をかりた大虎だった。
「大虎……お前は“不規則な力”が使えるのか?」
「ああ、俺の“不規則な力”は『闇の司者』。闇を操る事が出来る」
「……規模が大きすぎてしっくりこないな」
「闇は引力だろ?簡単に言うと“吸い込む”だ。例えば、ほら」
言って大虎は、部屋の壁に軽く手を触れた。すると、壁が黒く染められていき、大虎の掌に消える。染められて吸い込まれた部分に丸く穴が空いていた。
「……この“不規則な力”はソルディアスと向かい合った瞬間に開花したんだ。ソルディアスの眼に反応したんだろうな」
「不利は無いのか?」
「当然有るさ。あまりに使い過ぎると自分自身が闇に飲み込まれてこの世から断絶され、自分の力では戻れなくなるんだ」
不安そうに語る大虎に、龍とサクヤは息を飲んだ。それでは不利が大き過ぎる。
「まぁ、気にするなよ。使わなきゃ良いだけだ。お前達が心配する様な事じゃねぇよ」
不安な顔から一変。明るく振る舞う大虎に龍は心苦しくなった。
「本人がそう言ってるんだから、大丈夫よ。きっと」
麗裟の言葉に黙って頷くと、龍は自分の“不規則な力”について考えた。
「(俺の“不規則な力”もそんなものなのか?)」
「他にも…覆う、なんて事も出来るけどな」
「覆う?」
「相手の視界を黒で覆うことが出来る。覆われたら、何も見えなくなる」
「色々な用途があるんだな…ところで麗裟さん、あなたには“不規則な力”はあるんですか?」
「ええ……私の“不規則な力”は『時喰』といって、対象物に事象が発生した“時”を喰らい、その事象を破壊する事が出来るの。対象物といっても、人間にしか効かないけどね」
「まるで神だな……」
「あら、そうでも無いわよ?不利無しで使えるのは1日につき2回まで。3回目は自分の寿命を代償にして発動させなければいけないの」
「でも、とてつもなく強い。そうだろ?麗裟」
大虎が麗裟をフォローした。確かに無敵である。使いどころを見極めればだが……
「ええ、私の『時喰』は“不規則な力”の中でも、事象干渉系だから」
「事象干渉系?」
「ああ、“不規則な力”にも系統があるんだ。俺の『闇の司者』は物質操作系の部類に入る。事象干渉系は“不規則な力”の最高峰と言えるな」
「私の“不規則な力”は確か……『加速』だったと思います。身体強化系の“不規則な力”で、自分のあらゆる行動の速度を速くする事が出来ます。だから、使用者からすると周りが遅くなった様に見えるんです」
「サクヤも持ってたのか……!待て…“だったと思います”?…どういう事だ?使ったことは無いのか?」
「はい。でも、私の父が教えてくれました。父の“不規則な力”は『力の解明』。“不規則な力”の事なら何でも分かる能力でしたから、私の、これから開花するであろう“不規則な力”を予言してくれたんです」
「俺の“不規則な力”も見てもらいたいものだな」
「あ…その……父はもうこの世には、居ないんです」
「まさか……ハンター達が<オラル>を滅ぼした時に?」
「はい…私を守って、亡くなりました」
「済まない。嫌な事を思い出させてしまったな」
「いえ、大丈夫です。父の死を無駄にしないためにも、ハンターを倒さなきゃいけませんから」
サクヤの力強い言葉に、自然と身が引き締まる3人であった。
−???−
そこは、暗く広い空間。但し、1つだけ灯りが点いており、その光が照らす先には、玉座だろうか…かなり立派な装飾を施した椅子がある。そこに座っているのはソードハンターの黒いコートを着た男。
「ソルディアス」
「はっ…お呼びでしょうか…シリウス様」
カツカツと音を立てて、シリウスと呼ばれた人物が座る玉座に歩み寄ったのはソルディアスだ。ソルディアスは片膝をつき、頭を垂れる。
「メビウスは、どうしておるか?」
「相変わらず、ハンターの情報をかぎまわっていらっしゃる様です」
「フ……あやつが何かしたところでどうということは無いが、自分の息子に組織をかぎまわられるというのは、いささか気分が悪いな」
「処分致しますか?」
「まだよい。泳がせろ…それと、覇道龍達も同様にな」
「分かっております。では…」
ソルディアスは立ち上がると、玉座の間を後にする。玉座の間を出たソルディアスに話しかけてくる人物がいた。
「次は俺が出ようか?ソルディアス」
「ジーク……いや、あの方の元にはユーリを向かわせた。私の読みが正しければ、メビウス様があの方に接触される頃だ」
ジーク・ドラゴニアス。ソルディアスと並んでソードハンターのトップ3に入る強者である。短い黒髪に綺麗な顔立ちは、とても強者には見えない。
「いつもながら、頭は良いな。しかし、以前仕えた人の息子をあそこまでボロボロにしなくてもよかったんじゃないのか?下手をすれば死ぬ程の重傷だ…」
「見ていたのか……あの程度で死んでもらっては困る」
「ならあんな事すんなって…じゃあ俺は寝る。出番が来たら呼んでくれ、参謀長さんよ」
「………」
ジークの言葉には答えず、ソルディアスは黙ってその後ろ姿を見送った。そしてその背中が見えなくなる。
「……その名で呼ぶな」
ソルディアスはジークから参謀長と呼ばれ、いつもからかわれている。こんな事が出来るのはソードハンターの中でもジークだけであろう。
「それはさておき……あの方の“不規則な力”はまだ開花していない。その役目は私にある様だな」
ソルディアスはそんな事を呟き、廊下の奥へと消えていった。その言葉を聞いている者は居るはずもない。
どうでしたでしょうか……龍達はチート軍団なんですね。自分で書いてて“これはセコい”と思いました。
感想あればお待ちしてます。