鏡の先の退化
掲載日:2026/06/25
荒れ果てた道を歩いていると、前方に小さな群れが見えた。
ゴブリン――いや、もはやかつての戦士の面影など微塵も残さない、ただの生き物だ。群れは互いに小競り合い、仲間の傷を舐め合いながら、どこか得意げに胸を張っている。
「自分たちこそ正義だ!」
甲高い声が響く。しかし、その姿は滑稽で、恐ろしいどころか、哀れにさえ思える。
観察者は歩みを止めず、剣も魔法も抜かない。ただ、目の前の光景を静かに、透明な結界のような“鏡”に映し出すだけだ。
その鏡は、群れの者たちが普段見たことのない、自分自身の醜い姿を映し出す。互いを正義と信じ、英雄のふりをしていたゴブリンたちは、初めてその真実を目にする。
混乱が群れを包む。声は途切れ、動きは鈍くなる。自己肯定が崩れ、互いに視線を合わせられなくなった者たちは、自然と自滅していく。喚く者も、争う者も、ただ立ち尽くし、やがてその場に倒れ伏す。
観察者は一度も足を止めず、背後に残る群れを横目で見ながら、一言だけ呟いた。
「憐れだな」
そして再び歩き出す。風が吹き、砂埃が舞い、世界はいつも通りに回る。足元に残るのは、鏡に映った者たちの残像――しかし観察者には、それすらも執着の対象ではない。
彼はただ、“今”の先へ進むだけだ。




