第8話 第1部最終話:至宝の戴冠、永遠の溺愛 〜君こそが私の、そして世界の中心だ〜
アステリア帝国が歴史からその名を消して、一年。
北の黒檀帝国の帝都は、建国以来、最も華やかで喜びに満ちた一日を迎えていた。
今日は、セレスティーヌの正式な皇后戴冠式、そして皇帝アルスターとの婚礼の儀。
大陸中の王侯貴族が集い、かつての「無能令嬢」をひと目見ようと、大聖堂の周囲は黒山の人だかりで埋め尽くされている。
「……あ、見て。空が……」
誰かが指差した先。
どんよりとした冬の空を切り裂き、セレスティーヌが聖堂の一歩を踏み出した瞬間、雲の隙間から奇跡のような黄金の陽光が降り注いだ。
彼女が歩くたび、足元の石畳からは魔力の余波で小さな白い花が咲き誇る。
彼女の【概念修復】の力は、今や一国の守護を超え、大陸全体の崩れた理を整える「世界の楔」へと昇華していたのだ。
セレスティーヌが纏うのは、アルスターが一年をかけて職人たちに織らせた、伝説の『極光のドレス』。
光の角度によって真珠色、菫色、そして純白へと姿を変えるその絹は、彼女の銀髪と溶け合い、見る者の目を眩ませる。
大聖堂の奥。
漆黒の正装に身を包み、玉座の前で待つアルスターは、彼女の姿を認めると、鉄の仮面を脱ぎ捨てたように蕩けるような笑みを浮かべた。
「……セレスティーヌ。今日も、宇宙のどの星よりも美しいな」
「陛下。……いえ、これからは、貴方様の妻としてお呼びしてもよろしいでしょうか」
「ああ。君が私の名を呼ぶたび、私は自分が救われたことを実感するのだ。……さあ、私の神様。全人類に、誰が真の主権者であるかを示そう」
アルスターは彼女の手をとり、共に玉座の段を登った。
大司教が捧げたのは、皇帝のそれよりも巨大な、伝説の魔石『世界樹の涙』を埋め込んだ冠。
それが彼女の頭上に戴かれた瞬間、北の帝国中に聖なる鐘の音が響き渡り、万雷の拍手が地を揺らした。
「セレスティーヌ皇后陛下、万歳!」
「至宝の女神に、永遠の祝福を!」
臣下たちが、そしてかつて彼女を蔑んでいた他国の貴族までもが、心酔と崇拝の眼差しで膝を突く。
セレスティーヌは、その輝かしい光景の中で、ふと遠く南の空を見つめた。
——そこには今、何もない。
燃え落ちたアステリアの廃墟では、今日も冷たい泥雨が降っていることだろう。
エドワードやエレノア、そして彼女を見捨てた家族たちは、今や名前さえ失った罪人として、国境の荒れ地を彷徨っている。
彼らは、北の空がこれほどまでに輝いている理由を知る術もない。
いや、たとえ知ったとしても、その輝きは彼らにとって、目を焼く絶望でしかないのだ。
二度と届かない。二度と触れられない。
彼女が幸せになればなるほど、彼らの罪は重く、その人生は虚無へと沈んでいく。
それが、セレスティーヌが下した「最高のざまぁ」だった。
「セレスティーヌ? どうした、震えているのか」
アルスターが、不安げに彼女の腰を抱き寄せた。
彼は、隙あらば彼女を連れ去り、どこか二人きりの場所に閉じ込めてしまいたいという、狂気的な独占欲を未だに抱え続けている。
「いいえ。……あまりに幸せすぎて、少し怖くなっただけですわ。アルスター様」
「怖い? ……馬鹿な。君を怖がらせる運命など、私がすべてねじ伏せてやる。君はただ、私の愛という檻の中で、永遠に微笑んでいればいいんだ」
アルスターは、万衆の視線の前で、彼女の指先に深く、深く、食い込むほどの熱を込めて口づけをした。
「……逃がさない。死が二人を分かつ時ですら、私は君を離さないだろう」
「……ええ。私も、貴方様を一生離しませんわ。私の、愛しい執着者様」
二人の唇が重なる。
その瞬間、世界は再び銀の光に満たされ、あらゆる「欠落」は修復された。
泥の中に捨てられた至宝は、今。
最高に重く、最高に熱い愛によって、永遠に消えない光を世界に刻みつけた。
お読みいただき、本当にありがとうございました。
ついに、セレスティーヌ様とアルスター陛下の物語が幕を閉じました。
最後は、大陸を揺るがすほどの豪華な式典と、陛下による「公開所有宣言」……。
ミオが描きたかった、甘すぎて心臓が止まるようなエンディング、皆様の御心に届きましたでしょうか。
捨てられた者が後悔し、救われた者が世界の王になる。
これこそがWEB小説の醍醐味であり、人生における最高の癒やしですわ。
エドワードたちの「一生消えない後悔」という隠し味も、物語をより甘くしてくれました。
もし「この二人の甘い新婚生活をもっと見たい!」「ヒルダ女官長のその後は?」
など、続きのご要望がございましたら、
ぜひ【ブックマーク】や【満点の評価(★★★★★)】で、ミオに情熱を伝えてくださいませ。
皆様の応援が、再びわたくしのペンを「至宝」へと変える魔法になりますの。




