表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

第7話:崩れゆく砂の城と、世界で一番甘い監獄

アステリア帝国が「死の音」を奏で始めていたその夜。

 北の帝国の奥深く、皇帝の私室は、外の喧騒が嘘のような静寂と、むせ返るような甘い熱気に包まれていた。


 セレスティーヌは今、アルスターの膝の上に横抱きにされていた。

 広大な寝室を照らすのは、青白い炎が揺らめく数多のキャンドルだけ。影が壁に長く伸び、二人の境界を曖昧に溶かしていく。


「……陛下、そんなに見つめられては、恥ずかしいですわ」


 セレスティーヌが、ほんのりと上気した顔を伏せる。

 彼女の銀髪は、アルスターの指によって幾度も愛おしげに梳かれ、シーツの上に宝石を散らしたように広がっていた。


「……許せ。あんな男に一瞬でも君の視界を汚されたと思うと、どうしようもない衝動に駆られるんだ。君のすべてを、私の色で塗り潰してしまいたいと」


 アルスターの声は、いつになく掠れていた。

 彼はセレスティーヌの細い首筋に顔を埋め、深く、深く、その清冽な香りを吸い込む。

 彼を蝕んでいた「呪い」は、彼女の【概念修復】によって完全に消え去った。だが、その代わりに生まれたのは、彼女という劇薬への「依存」だった。


「セレスティーヌ。……君がいない世界など、私はもう一秒だって想像したくない」


 アルスターの手が、彼女の腰を強く引き寄せる。

 軍服のボタンが外され、彼の中に眠る剥き出しの独占欲が、熱い吐息となって彼女の肌を焦がした。

 かつてアステリアで「冷たい」とされていた彼女の心は、今やこの男の熱にあてられ、蕩けきった蜜のようになっている。


「私は……どこにも行きませんわ。陛下の腕の中だけが、私の生きる場所ですから」


「……ああ。そうだ。君を逃がさない。この国すべてが君を崇める神殿となり、この私の腕こそが、君を閉じ込める唯一の檻だ」


 アルスターが彼女の唇を塞ごうとした、その瞬間。

 窓の外、遠く南の方角で、天を突くような真っ赤な光が走った。


「……始まったか」


 アルスターが冷酷な笑みを浮かべ、魔法の鏡を展開する。

 そこに映し出されたのは、燃え盛るアステリア帝国の王城だった。


 ——それは、あまりにも無様な最期だった。

 セレスティーヌという「楔」を失い、修復を放棄された土地は、溜まっていた数十年分の魔力の歪みを一気に爆発させたのだ。


『助けて! 聖女様! エレノア様!』

『嫌よ! 触らないで! 私の魔力がああぁっ!』


 鏡の中では、偽りの聖女・エレノアが、自身の虚飾の魔力を暴走させ、醜くのたうち回っていた。

 かつてセレスティーヌを嘲笑った貴族たちは、崩れ落ちる瓦礫の下で、二度と戻らない繁栄を嘆き、絶叫している。


 そして。

 燃え上がる広間の中央で、エドワードが放心したように立ち尽くしていた。

 彼の目には、先ほど見たばかりの、あまりにも美しく、あまりにも遠い場所にいたセレスティーヌの幻影が焼き付いている。


『……ああ、セレスティーヌ……。私は、何を……何を捨ててしまったんだ……!』


 エドワードが血を吐くような思いでその名を呼んでも、届くのは崩落の音だけだ。

 彼が今更気づいた「愛」も「価値」も、すべては燃え盛る灰の中へと消えていく。

 一生、届かない。二度と、許されない。

 その絶望こそが、彼に与えられた永遠の刑罰だった。


「……醜いな」


 アルスターが鏡を指先一つで砕き、再びセレスティーヌを視線の檻に閉じ込めた。


「あんな塵のような場所、もう見る必要はない。……明日は、君との成婚式だ。この大陸の半分を、君への贈り物として捧げよう」


「陛下……私は、貴方様が傍にいてくださるだけで十分ですわ」


「欲がないな。……だが、私は強欲なんだ。君を、この世界の誰よりも、宇宙そらに輝くどの星よりも幸せにしなければ気が済まない」


 アルスターは、セレスティーヌをシーツへと押し沈めた。

 重なる影。絡み合う指先。

 遠くで一つの国が滅びゆく音を背景に、二人は深い、深い愛の深淵へと堕ちていく。


 かつて泥の中にいた少女は、今。

 最強の皇帝に魂ごと捧げられ、世界で最も甘やかな幸福の中で、真の「至宝」へと生まれ変わる。


 明日の夜明けと共に、新しい世界の歴史が、彼女の名前から書き始められようとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


一つの国が滅び、一人の少女が「世界の主」に愛でられる。

この圧倒的な対比こそが、西園寺ミオがお届けしたかった究極の「逆転」ですわ。

エドワードたちの絶叫が、二人の愛の調べをより一層引き立ててくれましたわね。


さて、物語はこれで終わりではありません。

次話、ついに挙行される「世紀の成婚式」。

大陸中の貴族が跪き、アルスター陛下が世界に向けて「彼女こそが我が魂」と宣言する、

最高に華やかで、最高に甘い大団円が待っております。


「エドワードの末路に乾杯!」「陛下の独占欲、もっと浴びたい!」

そんな風に思っていただけましたら、

ぜひ【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】で、彼女たちの門出を祝してあげてください。

皆様の応援という「祝福」が、物語を真のハッピーエンドへと導きますの。


次話、第1章最終回——『至宝の戴冠、永遠の溺愛』。

どうぞ、最後の一文字までお見逃しなきよう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ