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第5話:漆黒の舞踏会、銀の女神の降臨

北の帝国の夜会は、アステリアのそれとは一線を画していた。

 黄金を多用する成金趣味な装飾ではなく、磨き抜かれた黒大理石と、魔力で灯された冷たくも美しい青白い炎。静謐な緊張感の中に、帝国の重鎮たちが居並んでいた。


 彼らの視線は、一様に大階段の頂上に向けられている。

 皇帝アルスターが「自らの命に代えても守るべき至宝」を連れてくるという。

 北の貴族たちは冷徹だ。いくら皇帝の寵愛があろうとも、それが隣国の「無能な捨て子」であれば、容赦なく切り捨てるつもりでいた。


 ——だが、扉が開かれた瞬間。

 広間を支配していた冷気は、驚愕の沈黙へと塗り替えられた。


「……っ、なんという……」


 誰かが、震える声で漏らした。

 大階段を降りてくるのは、漆黒の正装に身を包んだ皇帝アルスター。そしてその腕に手を添える、白銀のドレスを纏った一人の少女。


 セレスティーヌの髪は、夜の帳を透かした月光のように輝き、歩くたびにドレスの裾に縫い込まれた「星屑の真珠」が涼やかな音を立てる。

 アステリアで虐げられていた頃の卑屈さは、微塵もない。

 アルスターの絶対的な愛によって育まれた彼女の肌は、白磁よりも滑らかに光を弾き、そのアメジストの瞳には、慈愛と、そして北の帝国の守護を担う者としての気品が宿っていた。


 彼女が階段を一段降りるごとに、広間の魔力が「修復」され、澱んでいた空気が清流のように澄んでいく。

 それは、言葉を尽くすよりも確かな「聖域」の証明だった。


「北の臣下たちよ。紹介しよう。私の隣に立つべき唯一の女性、セレスティーヌ・ド・ラ・ヴァリエールだ」


 アルスターの声が、重厚な広間に響き渡る。

 彼はセレスティーヌの腰を強く引き寄せ、自身の独占欲を隠そうともせずに臣下たちを射貫いた。


「彼女はアステリアから『無能』として追放された。……これほどの奇跡を無能と呼ぶ愚か者たちに、感謝すら覚える。彼らの盲目のおかげで、私はこの世界の心臓を手に入れることができたのだからな」


 アルスターがそう告げると、最前列にいた最年長の公爵が、震えながらその場に跪いた。


「おお……。なんという清浄な魔力……。枯れていた我が家の魔核が、セレスティーヌ様が通り過ぎただけで息を吹き返しましたぞ! これこそ……これこそが、北の地を救う真の光だ!」


 一人が跪くと、連鎖するように次々と貴族たちが頭を垂れた。

 昨夜まで「隣国の令嬢など」と侮っていた者たちが、今や彼女の足元に咲く花にさえなりたいと願うような、狂信的な心酔の眼差しを向けている。


「セレスティーヌ様! 我が領地の枯れた泉を、どうか一度ご覧いただけませんか!」

「この剣を、貴女様の守護のために捧げることをお許しください!」


 沸き立つような歓声。

 セレスティーヌは、初めて受ける純粋な称賛と期待に、戸惑いながらも頬を染めた。


「……皆様、顔を上げてください。私はただ、陛下にお救いいただいた御恩を、この国の力に変えたいだけなのです」


 その鈴を転がすような声に、貴族たちは再び溜息をつく。

 控えめでありながら、凛とした意志を感じさせる言葉。これこそが、北の帝国の皇后に相応しい器であると、誰もが確信した。


 だが、その熱狂を断ち切るように、アルスターがセレスティーヌの肩に外套をかけ、彼女を背後に隠した。


「……私の至宝に、気安く話しかけるな。今日は挨拶までだ。セレスティーヌ、疲れただろう。もう戻ろう」


「えっ、陛下? まだ夜会は始まったばかりですわ……」


「これ以上、男たちの視線に君を晒すのは、私の理性が持たない」


 アルスターは耳元で低く囁くと、周囲を威圧するような魔圧を放ちながら、セレスティーヌを横抱きにして会場を後にした。

 後に残されたのは、あまりにも美しすぎる女神の残香と、それを奪い去った皇帝への畏怖。

 そして、「セレスティーヌ様こそが真の救世主である」という、揺るぎない熱狂だけだった。


 その頃。

 隣国アステリアでは、王宮の柱が音を立てて崩落していた。


「ひ、ひぃっ!? なぜだ! なぜ王宮が崩れる! エレノア、お前の聖女の力でなんとかしろ!」

「わ、私に言われても……! 魔力が、魔力がどこにも見当たらないのよ!」


 エドワードの叫びが虚しく響く。

 彼らが「ゴミ」として捨てた少女が、今、隣国で「神」として崇められていることなど、夢にも思わずに。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


ついに、北の帝国の貴族たちを完全服従させたセレスティーヌ様!

「無能」と蔑まれていた彼女が、一国の重鎮たちに拝み倒される……

この「価値の再発見」こそ、ミオが皆様にお届けしたかった極上の瞬間ですわ。


そしてアルスター陛下、安定の独占欲暴走でございます。

「男たちの視線に晒したくない」と舞踏会を途中で切り上げる皇帝。

不敬なことですが、彼にとっては国よりもセレスティーヌ様の方が大切なのです。


「陛下、もっと囲い込んで!」「アステリアの崩壊が心地いい!」

そんな風に感じていただけましたら、

ぜひ【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】で、彼女の新しい門出を祝ってあげてください。

皆様の応援が、セレスティーヌ様のティアラをさらに輝かせますの。


次話、ついにアステリアの使者が「王宮崩壊」を止めるために、

なりふり構わずセレスティーヌ様を連れ戻しにやってきます。

そこで彼女が放つ、最高に冷ややかな一言とは……?

どうぞお楽しみに!

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