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第4話:「私の宝(神様)」に触れるな

北の帝国の朝は、アステリアのそれとは比較にならないほど清冽で、美しい。

 セレスティーヌが目覚めると、枕元には昨夜の大樹の奇跡を祝うかのように、黄金色に輝く花びらを生けたクリスタルの花瓶が置かれていた。


「……おはようございます、セレスティーヌ様。本日は、陛下が直々に選ばれた『氷晶アイス・クリスタルの絹』のドレスをご用意いたしました」


 控えていたヒルダが、深々と頭を下げる。その瞳は、もはや一人の令嬢を見るものではなく、奇跡を体現する聖遺物を仰ぎ見るような熱を帯びていた。

 着替えを終えたセレスティーヌが鏡の前に立つと、そこには透き通るような白銀のドレスを纏った、この世のものとは思えないほど神々しい少女がいた。


 その時、部屋の扉が力強く開かれた。


「セレスティーヌ。……やはり、その色は君の肌によく映える」


 入ってきたのは、漆黒の外套を翻したアルスターだ。その表情は慈愛に満ちているが、纏う空気には一抹の鋭さが混じっている。


「陛下……? 何か、あったのでしょうか」

「……不浄なハエが、国境に現れた。君を『無能な罪人』として連れ戻しに来たという、アステリアの騎士たちだ」


 その言葉に、セレスティーヌの肩が微かに震える。

 追放された夜。あの冷たい雨と、エドワードの嘲笑が脳裏をかすめる。だが、彼女が怯えるよりも早く、アルスターの温かく大きな手が、彼女の頬を優しく包み込んだ。


「安心しろ。指一本、触れさせはしない。……君が、今どれほど高く、貴い場所にいるのか。あの愚か者たちに教えてやる必要があるだろう?」


 アルスターは彼女を軽々と横抱きにすると、そのまま影の転移魔法を展開した。


 ——国境の関所。

 そこには、アステリア帝国から派遣された五人の騎士が、傲慢な態度で北の帝国の衛兵に詰め寄っていた。


「さっさとあの無能女を出せ! 国外追放処分を下したが、王城の結界が乱れたのはあの女が何か細工をしたからだという疑いがある! 処刑場へ連行せねばならんのだ!」


 先頭に立つ男は、セレスティーヌを「石ころ」のように扱っていた王宮騎士団の副団長、バルトだ。

 彼は、自国の農作物が枯れ、王宮にひびが入った原因が、自分たちが捨てた「無能」にあると確信していた。もちろん、彼女にそんな力があるからではなく、不吉な呪いをかけたに違いない、という逆恨みからだ。


「おい、聞いているのか! あんな『ゴミ』を庇ってどうす——」


 バルトの言葉は、そこで凍りついた。

 虚空から溢れ出した漆黒の魔圧が、周囲の空気を物理的に押し潰したからだ。


「……今、私の宝を何と呼んだ?」


 冷徹な声と共に、アルスターが姿を現す。その腕には、宝石を散りばめたような美装に身を包んだセレスティーヌが抱かれていた。


「な、なんだ……!? その女、セレスティーヌか……!?」


 バルトたちは絶句した。

 彼らが知るセレスティーヌは、常に伏し目がちで、色褪せたドレスを着た、死人のような少女だったはずだ。

 だが、目の前にいるのはどうだ。

 皇帝の腕の中で大切に守られ、その肌は雪のように輝き、瞳にはアメジストの煌めきを宿している。その圧倒的なオーラは、アステリアのどんな貴婦人をも凌駕し、まるで天界の住人のようだった。


「ひ、卑しい国外追放の身でありながら、そのような贅沢な格好をして……! セレスティーヌ、貴様、北の皇帝をたぶらかしたか!」


 バルトが動揺を隠すように剣を抜こうとした。

 だが、彼が柄に触れるよりも早く、アルスターの視線ひとつで、バルトの右腕が凍りついた。


「ぎゃあああああっ!?」


「無礼者が。私の許可なく、彼女の名を口にするな。……そして、二度と彼女を『ゴミ』などという言葉で汚すな。その舌を根元から凍らせてやろうか?」


 アルスターの蒼氷の瞳が、殺意を持ってアステリアの騎士たちを射抜く。

 あまりの魔圧に、他の騎士たちは腰を抜かしてその場にへたり込んだ。


「陛下、もうよろしいのです。……私なら、大丈夫ですから」


 セレスティーヌが、アルスターの胸元にそっと手を添えた。

 彼女の柔らかな声が響いた瞬間、周囲を支配していた凶悪な魔圧が、嘘のように凪いでいく。


 セレスティーヌは、地面に這いつくばるバルトを見つめた。その瞳にあるのは、怒りではなく、深い「憐れみ」だった。


「バルト様。……アステリアの地が枯れ始めているのは、私の呪いではありません。私が、あそこを『修復』し続けるのを止めたからです。……貴方たちが望んだ通り、私はもう、あの国には何の関係もございませんわ」


「な……修復……? 何を言って……」


「お帰りください。次に私たちの領土を侵せば、それが貴方たちの国の、最後の日になるでしょう」


 セレスティーヌの背後で、アルスターが勝ち誇ったように彼女の腰を引き寄せ、耳元で甘く囁いた。


「聞いたか? 私の慈悲深い女神が、命だけは助けてやると言っている。……今のうちに、泥を啜りながら逃げ帰るがいい。そして、お前たちの王に伝えろ。——セレスティーヌは、私がこの世のすべてを賭けて愛でる、唯一無二の皇后だとな」


 アルスターが指を鳴らすと、アステリアの騎士たちは衝撃波に吹き飛ばされ、国境の外へと無様に転がっていった。


 セレスティーヌを見上げ、アルスターの表情が、一瞬で「一途な恋をする男」のそれに変わる。


「……怖くはなかったか? 本当は、私の魔力で奴らを塵にしても良かったのだが……君が汚れるのは嫌だったからな」


「陛下……。ありがとうございます。……でも、少しだけ、独占欲が強すぎますわ」


「自覚はある。……君を一度手に入れた男なら、誰だってそうなるさ。……さあ、戻ろう。君の肌に、汚い国の風を当てるのは一秒だって耐えられない」


 セレスティーヌは、彼に身を預けながら、旧国の空を見上げた。

 あそこにはもう、自分の守るべきものは何もない。

 ただ、この冷たくも熱い皇帝の腕の中だけが、自分の唯一の、そして最高の居場所なのだと。


 一方、命からがら逃げ帰ったバルトたちの報告を聞いたエドワード王太子は、信じられない事実に、その顔を激しく歪ませることになる。

 ——自分たちが捨てた「無能」が、隣国の、あの冷酷無比な皇帝に溺愛されているという事実に。

お読みいただき、ありがとうございます。


ついに旧国との「格差」を直接見せつけることができました!

ドロドロの騎士たちが、宝石のように輝くセレスティーヌ様を見て絶望する……。

これぞ、西園寺ミオが最も愛する「逆転の美学」ですわ。


「陛下、もっと独占欲を爆発させて!」「旧国の絶望をもっと見たい!」

そんな風に思っていただけましたら、

ぜひ【ブックマーク】や【評価】をポチッとお願いいたします。

皆様の応援が、次の「ざまぁ」の切れ味を鋭くいたしますの。


次話、ついにアステリア帝国が本格的な「崩壊」を迎え、

エドワードがセレスティーヌを連れ戻すために、なりふり構わぬ暴挙に出ます。

しかし、それをアルスター陛下が「完全なる絶望」で迎え撃つことに……。

どうぞお楽しみに!

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