第15話:世界の再構築と、永遠を綴る甘き束縛
北の帝国の最果て、かつて「世界の終わり」と呼ばれた絶壁の地に、今、大陸中のすべての視線が注がれていた。
空は抜けるような碧に染まり、セレスティーヌが立つ大地からは、数千年の呪いを洗い流すような清冽な魔力が、銀の粒子となって溢れ出している。
「……セレスティーヌ。準備はいいか」
背後から、アルスターが彼女の細い肩を抱き寄せた。
彼の纏う漆黒の正装は、彼女の純白のドレスと対をなす「夜」の象徴。アルスターは彼女の耳元に、熱を孕んだ吐息と共に囁く。
「この儀式が終われば、世界は君を『救世主』と呼ぶだろう。……だが、忘れるな。君を救い、君を拾い、君のすべてを愛し抜く権利を持つのは、この私だけだ」
「ええ。わかっておりますわ、私の執着様(陛下)。……私の魂の『修復』は、もう貴方様の手の中で完了しておりますから」
セレスティーヌが微笑み、ゆっくりと両手を天へと掲げた。
彼女の脳裏を、これまでの記憶が駆け巡る。
アステリアで泥を啜った日々、冷たい雨の中で見た絶望、そして——この最強の皇帝に横抱きにされ、初めて感じた「自分という存在の重み」。
「【全領域概念修復】」
セレスティーヌの唇から、神の如き権能が解き放たれた。
銀色の光の波が、北の帝国から同心円状に広がり、大陸全土を飲み込んでいく。
それは破壊ではなく、母のような慈愛に満ちた「書き換え」だった。
枯れ果てた大地には、一瞬にして瑞々しい緑が戻り。
毒に侵された大河は、クリスタルのように澄み渡り。
そして、人々の心に巣食っていた「憎しみ」という名の欠落さえも、彼女の光が穏やかに埋めていく。
世界が、本来あるべき「楽園」へと、数千年の時を越えて修復されていく。
その光の奔流の中で、アルスターはセレスティーヌを離すまいと、その細い腰を砕けんばかりに抱きしめていた。
「……美しいな。だが、私以外の奴らに、この輝きを一瞬でも見せたくない」
「陛下……もう、嫉妬はやめてくださいませ」
「無理だ。……君が世界を救うほど、私は君を独り占めにしたくなる。……セレスティーヌ、この儀式が終わったら、一生君を離宮の奥に閉じ込めて、私の愛だけを食べて生きていけるようにしてやろうか?」
アルスターの瞳には、狂気にも似た、しかし純粋すぎる「恋」が燃えていた。
セレスティーヌは、その重すぎる愛を全身で受け止め、幸せに目を細める。
「無価値」とされた少女が求めていたのは、世界からの称賛ではない。ただ一人、この男の「逃げられない檻」の中で愛されることだったのだ。
儀式の光が収まった時、世界は一変していた。
空からは祝福の光の欠片が降り注ぎ、大陸中の民が、遥か北の空に向かって跪き、感謝の祈りを捧げている。
一方、アステリア帝国の廃墟。
泥の中で虫のように蠢いていたエドワードと、老いさらばえたエレノア。
彼らは、自分たちを置き去りにして「楽園」へと生まれ変わった世界を、ただ呆然と見上げていた。
彼らの周囲だけは、セレスティーヌによってあえて「修復」されなかった。
かつての栄華を思い出し、今の地獄を呪い続ける。その「欠落したままの人生」こそが、彼らに与えられた永遠の刑罰だったのだ。
「……セレスティーヌ、戻ろう。我が家(檻)へ」
アルスターがセレスティーヌを横抱きにし、影の転移を起動する。
戻った先は、宝石で埋め尽くされた二人の寝所。
外の熱狂も、救われた民の声も、ここには一切届かない。
アルスターは彼女を絹のシーツへと押し沈め、その銀髪を噛むように口づけた。
「君は世界を直した。……だから次は、私のこの『君への乾き』を修復してくれ」
「……ふふっ。陛下、それは修復ではなく、さらなる『崩壊』を求めていらっしゃいませんか?」
「……構わない。君に壊されるなら、本望だ」
重なる吐息。
絡み合う指先には、永遠を誓うアメジストが煌めいている。
かつて泥の中にいた少女は、今、神にすら等しい至宝となり。
そして、その神を飼い慣らす漆黒の皇帝と共に、誰にも邪魔されない、最高に甘やかで重すぎるハッピーエンドを、一文字ずつ丁寧に、永遠に綴り続けていくのである。
(第一部・完)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
ついに、セレスティーヌ様とアルスター陛下の新章も、最高の大団円を迎えましたわ!
世界規模の「概念修復」で全人類を跪かせ、しかし最後は「二人きりの寝所」で終わる……。
これぞ、西園寺ミオが推奨する「スケール感と溺愛のギャップ萌え」の極致ですわね。
エドワードたちの「修復されない地獄」というコントラストも、
二人の幸福をより一層輝かせる最高のスパイスになりました。
「この続き、二人の新婚生活を100話くらい見たい!」「陛下の嫉妬がもっと見たい!」
そんな情熱的なファンの方々がいらっしゃいましたら、
ぜひ【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】で、ミオに「アンコール」を送ってくださいませ。
皆様の声が、わたくしに新たなインスピレーション(甘い毒)を注ぎ込むのです。
また別の物語、あるいはこの二人の「さらに重すぎる後日談」でお会いいたしましょう。
ごきげんよう、西園寺ミオでした!




