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第13話:世界が跪く「聖教団」と、皇帝陛下の宣戦布告

北の帝国の帝都は、今や「黄金の都」へと変貌を遂げていた。

 四国の王たちが、自国の存亡を懸けて献上した膨大な金塊と宝石。それがアルスターの命により、セレスティーヌが歩む道すべてに「絨毯」として敷き詰められたのだ。

 道行く民は、その眩い輝きに目を細め、その道を優雅に歩む銀髪の皇后を、涙を流して拝んでいた。


「……セレスティーヌ様、どうか、我が子の病を……!」

「至宝の女神よ、アステリアを救ったその御手で、我らに祝福を!」


 城門の外には、大陸全土から集まった数万の巡礼者が列をなしている。

 彼らは自発的に『至宝修復聖教団』を組織し、セレスティーヌを唯一の神として祀り上げ始めていた。


 だが、その熱狂を、城のバルコニーから忌々しげに見下ろす男がいた。


「……殺す。一秒以内に、奴らの瞳をすべて潰してやりたい」


 漆黒の外套を翻し、低い地鳴りのような声を出したのはアルスターだ。

 彼の周囲には、もはや魔力というよりも「漆黒の嫉妬」が物理的な圧力となって渦巻いている。


「陛下、落ち着いてくださいませ。……皆様、ただ感謝を伝えたいだけなのですわ」


 背後からセレスティーヌがそっと彼の手を握るが、今日のアルスターの「独占欲」は、彼女の柔らかな感触をもってしても修復不能なほどに暴走していた。

 彼はセレスティーヌを強引に引き寄せ、その細い腰を砕けんばかりに抱きしめる。


「感謝など不要だ。……奴らが君の名を呼ぶたび、君の耳が汚される気がする。奴らが君を仰ぎ見るたび、君の純粋さが削り取られる気がするんだ。……セレスティーヌ、君をこのまま地下の『宝石の離宮』へ閉じ込め、私以外の誰の声も届かない場所へ連れて行きたい」


「陛下……。それでは、私が直したこの国が見られなくなってしまいますわ」


「構わない。国など、君という至宝の『外箱』に過ぎない。中身が私だけのものであれば、箱がどうなろうと知ったことか」


 アルスターの瞳には、かつての冷徹な皇帝の顔はなく、ただ愛に狂った一人の男の危うさが宿っていた。


 そこへ、教団の代表を名乗る高僧が、震えながらも拝謁を願い出てきた。

「女神セレスティーヌ様。どうか、世界平和の象徴として、全人類に祝福のキスを……!」


 その言葉が、アルスターの理性を完全に焼き切った。


「——全人類に、だと?」


 アルスターがバルコニーから飛び降りるようにして広場へ降り立つ。

 凄まじい魔圧に、数万の巡礼者が一斉に地面に平伏した。


「教祖だろうが神官だろうが関係ない。……セレスティーヌの唇は、彼女の吐息は、彼女の愛は、すべて私の所有物だ。……他人に分け与える『祝福』など、一滴たりとも存在しないと思え」


「ひ、ひぃっ……! 皇帝陛下、これは信仰なのです! 全人類の救いなのです!」


「知るか。……私の絶望を修復してくれたのは彼女だ。ならば、彼女を消費する権利も、彼女に縋る権利も、私だけにしかない。……これ以上、彼女を『公の神』にしようとするなら、この大陸全土を、修復不能な『死の荒野』に書き換えてやる」


 皇帝の宣戦布告。

 それは他国へのそれよりも、ずっと重く、切実な「所有権」の主張だった。

 アルスターは、恐怖で硬直する群衆を余所に、セレスティーヌを横抱きにして城の奥深くへと消えていった。


 ——その夜。

 外の熱狂を遮断した、静謐な寝室。

 アルスターは、セレスティーヌの髪を一本一本愛おしげに指に巻き付け、その耳元で熱く、重く囁き続けた。


「……セレスティーヌ、言え。君は、誰の神だ?」


「……私は、貴方様だけの、セレスティーヌですわ」


「……足りない。もっと、私を壊すほどに誓え。……君の細胞の一つ一つまで、私の愛で修復してやる……」


 世界が彼女を崇めれば崇めるほど、彼女を閉じ込める愛の鎖は、より甘く、より強固になっていく。

 セレスティーヌは、その熱すぎる独占欲に身を委ねながら、かつて自分を「無能」と呼んだ者たちが、今やこの「神の所有権争い」に加わることさえ許されないほど遠い場所にいることに、微かな優越感さえ抱くのだった。


 一方、アステリアの廃墟では。

 正気を失ったエドワードが、泥を捏ねて「銀色の人形」を作り、それを「僕のセレスティーヌ」と呼びながら、虚空に口づけを繰り返していた。

 本物の彼女が、今や世界の神となり、最強の皇帝に魂まで奪われていること。その現実に耐えられなかった男の、あまりにも惨めな末路であった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


第13話。ついに「陛下 vs 全人類」の構図が完成いたしましたわ!

セレスティーヌ様を神格化しようとする教団に対し、「俺の妻に祈るな!」とブチギレる陛下。

これぞ、ミオが目指す「重すぎる溺愛」の極致です。

そして、泥人形で遊ぶエドワード……。

至宝を捨てた男が辿り着く「偽物の愛」という地獄、これ以上のざまぁはありませんわね。


「陛下、もっと閉じ込めて!」「エドワードの壊れっぷりが心地いい!」

そんな風に思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】をお願いいたします。

皆様の評価という「祈り」が、陛下の独占欲をさらに煮え立たせるのですわ。


次話、ついに零落した義妹エレノアが、

「私の魔力なら修復できる」という大嘘を抱えて北の帝国へ這い寄ります。

しかし、本物の至宝であるセレスティーヌ様と対峙した瞬間、

彼女の「偽物の魂」がどう砕け散るのか……。

どうぞお楽しみに!

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