第11話:四国連合艦隊と、銀の創世(ジェネシス)の海岸線
北の帝国の凍てつく海。その水平線が、不気味な鉄の色に染まっていた。
列強四国による連合艦隊。その数、実におよそ三千隻。
最新鋭の魔導砲を積載した巨大な戦艦たちが、一人の少女——セレスティーヌを「略奪」するために、この極北の地へ牙を剥いていた。
「……あんなにもたくさんの船が。あれだけの鉄と木材があれば、どれほどの家が建てられたでしょうに」
断崖の頂。セレスティーヌは、潮風に銀髪をなびかせながら、静かに海を見下ろしていた。
その隣には、漆黒の外套をはためかせたアルスターが、彼女を風から守るように抱き寄せている。
「セレスティーヌ、怖がる必要はない。奴らが一歩でも領海を越えれば、私はこの海すべてを絶対零度の墓場に変えるつもりだ。……君の視界を汚すハエどもを、一匹残らずな」
アルスターの魔力は、すでに暴風となって周囲の空間を歪ませていた。
だが、セレスティーヌは彼の熱い手に自分の手を重ね、首を横に振った。
「いいえ、アルスター様。……あの方々の命まで凍らせる必要はありませんわ。ただ、少しだけ『本来あるべき形』を思い出していただくだけでいいのです」
「……君がそう望むなら。……やってみるがいい、私の神様」
アルスターが恭しく一歩引き、彼女の背中を支える。
セレスティーヌは、ゆっくりと両手を海へと向けた。
その時、連合艦隊の総旗艦から、宣戦布告代わりの魔導砲が放たれた。
空を焼き、山をも砕く一撃が、セレスティーヌを目掛けて飛来する。
「……【概念修復】」
セレスティーヌが、祈るように囁いた。
——刹那。
世界から「音」が消えた。
彼女の指先から放たれた銀色の波動が、光の速度で海面を駆け抜ける。
放たれた砲弾は、空中で一瞬にして「ただの鉄塊と火薬の塵」へと戻り、そのまま海へと霧散した。
そして。
ギギギ……ギィィィィィィィィッ!!
三千隻の軍艦から、悲鳴のような軋み音が上がった。
セレスティーヌが「修復」したのは、軍艦という「兵器の概念」そのもの。
鉄は、製鉄される前の不純な「鉱石」へ。
木材は、切り出される前の「巨木」へ。
帆布は、ただの「綿」へ。
海を埋め尽くしていた無敵の艦隊は、瞬く間にその形を失っていく。
数秒後、そこにあったのは軍事力ではない。
海面に浮かぶ膨大な量の「流木」と、海へ沈んでいく「鉄の石」、そして——泳ぐこともままならず、木材にしがみついて震える数万の兵士たちの姿だった。
「な……何が起きた……!? 我が国の誇る超弩級戦艦が……ただの丸太になったというのか……!?」
流木の上で、連合軍の総司令官が絶望に顔を歪める。
三千隻の艦隊を、指先ひとつで資材に戻した。
それはもはや魔法ではない。この世界の法則を、彼女が書き換えたのだ。
「……アルスター様。これで、戦争はできませんわね?」
セレスティーヌが振り返り、少しだけ疲れたように微笑む。
アルスターは、あまりの光景に絶句していた臣下たちを余所に、彼女を壊れ物を扱うように強く、熱く抱きしめた。
「……ああ、そうだ。君は戦わずして、世界を屈服させた。……だが、セレスティーヌ。これほどの奇跡を見せつければ、奴らの『欲望』はさらに深くなるだろう。……やはり、君をこの腕の中に閉じ込めておくしかなさそうだ」
「陛下……また、そうやって……」
「……冗談ではない。今、私の心臓は君の力への畏怖ではなく、君を誰にも見せたくないという狂気で張り裂けそうなんだ」
アルスターは、兵士たちの悲鳴が響く海には目もくれず、セレスティーヌの髪に何度も口づけを落とした。
一方、海に投げ出された四国の王たちは、自国の全戦力が「ゴミ」に変わったという報告を受け、泡を吹いて倒れることになる。
北の帝国には、手出し不能な「生ける神」がいる。
その事実は、恐怖と共に、大陸中の歴史書に刻まれることとなった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
第11話、いかがでしたでしょうか。
「軍艦を丸太に戻す」という、セレスティーヌ様ならではの平和的(?)かつ圧倒的な断罪。
これぞ、ミオが描きたかった「格差の再定義」ですわ。
そして、アルスター陛下の独占欲もいよいよ臨界点。
世界を救ったヒロインに対し、「俺だけのものになれ」と愛の檻を強固にする皇帝……。
この重すぎる愛の温度差こそが、本作の真骨頂です。
「セレスティーヌ様、神々しい!」「陛下の執着愛、もっともっと!」
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皆様の応援という「供物」が、セレスティーヌ様の神性をさらに高めるのですわ。
次話、ついに列強諸国の王たちが「平伏」して北の帝国へ。
しかし、そこで待っていたのは、セレスティーヌ様への拝謁を賭けた、陛下による「地獄の選別」でした。
どうぞお楽しみに!




