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第一話 始まり

「んぅ…あと5分……」


アラームの音が聞こえた気がして、いつも通り手探りで時計を探す。

だが時計は見つからない。


「……ん?」


頭が重い。長い髪が指に絡まる。

それに加えて、枕も高いし布団の触り心地もフワフワしている。


何かがおかしいことに気づいた私は、眠たい目をこすりながらゆっくり目を開ける。


白い高い天井

キラキラ輝くシャンデリア

だだっ広い部屋

何回寝返りを打っても落ちなかったベッド


何かを伝えるかのように、金色の髪がふわりとなびく。


「……私、髪の毛染めてない!この前髪の毛切ったばっかなのに長いし!」


やっと視界は良好。異変をすぐさま察知した。辺りを見回し、広い部屋の隅にドレッサーがあることに気がつく。

そして吸い寄せられるようにドレッサーの前に立つ。


鏡に映った自分の姿を見て言葉を失った。


腰まで伸びたハニーブロンドの髪。

アメジストをはめ込んだみたいな紫色の瞳。

整った顔立ち。華奢な体つき。


「見覚えが、ある…」


鏡の前に立っているのは、私が愛読していたあの携帯小説、【サファイリアの姫】の『ヒロイン』!


でもなく。


『悪女』!


でもなく。


ただのモブキャラ “エナーリエ・ダヴィッド” !


「なんで!?」


思わず声を荒らげる。


(こんなこと、有り得るわけ…!)


何かのドッキリに違いない。

いいや、ドッキリとは思えない。

じゃあ夢?

…夢にしては実感がありすぎる。自由に動けるしモノに触れることだってできる。


「じゃあ、憑依?」


いやいや、ファンタジー脳すぎる。

けど消去法で行くとこの線しか残っていない。


戻りたい!とにかく戻りたい!

転生してモブキャラは嫌だ!

元の世界に戻りたい!███ ███に!


あれ?私の名前、思い出せない。

私の最期って────


記憶を遡ろうとしたその瞬間。


「痛っ!」


体に電撃が走ったみたいな衝撃。

割れるように痛む頭。

視界がぼやけて、意識が深い底へと引きずり込まれる。

その場に立っていられず、いつの間にか意識を失ってしまった。


──────────────・・


「エド。食器の音がうるさいわ」


「は?淑女のマナーを騎士に押し付けてくんなよ」


「食事作法は貴族のマナーよ」


「フンッ」


私の隣に座る異母妹のルネと、私の前に座る異母弟のエドガーが目も合わせずに言い争いをしている。

侯爵夫人はそんな二人を気にも留めず黙々と料理を口に運ぶ。


エナーリエに憑依してから一週間が経った。

常に張り詰めた空気が漂うダヴィッド侯爵邸にはまだ慣れない。


食事を終えた侯爵夫人に続き、ルネとエドガーが大食堂から出ていく。

三人の姿が見えなくなってから、私も大食堂を去った。


自室に戻り、日記帳を開く。


私は毎日日記をつけている。ポエムやら愚痴やらその日の出来事やら、なんでも自由に記録する日記。


(私って日記をつける習慣があったのかな)

そんなことを考えながら今までの内容を読み返す。


・『サファイリアの姫』

中世ドイツをモチーフにした魔法と貴族社会が蔓延るファンタジーロマンス小説。

ヒロイン フィオナ・レヒトハイムが事件と色恋沙汰に展開していく物語。


・エナーリエ・ダヴィッド

エナーリエは侯爵邸の私生児。

クロード・ダヴィッドことクロード侯爵と、エナーリエの実母かつクロードの元婚約者アナイス・ロシューとの子供。

クロードとアナイスは結婚前にエナーリエとディシアという双子を産んでいる。

エナーリエはダヴィッド侯爵家。ディシアはロシュー男爵家へ。

結婚式をあげる数ヶ月前にアナイスは原因不明の病気を発症し突如他界。その後、現侯爵夫人のアデビダと結婚してルネとエドガーを産む。


・原作での立ち回り。

軽蔑と憐憫の視線を向けられる私生児。常に人の目を気にして生きてきたせいか、性格は非常に内気で臆病。

原作のエナーリエはヒロインのフィオナと全く関わりがない。むしろフィオナと関わるのは悪女枠のルネと、男主人公のエドガーだけだ。

どう生きてきたか、どんな最期を迎えたか。

それすら語られなかった存在。


情報が少なすぎて難しい。

私の願いはただひとつ、波風立てずに平穏に過ごすこと。

その為には…うん、まず内気で臆病な性格をやめよう!


(決まった!今日つける日記の内容は…)


羽根ペンを手に取り、ちょんとインクに浸す。


「馬鹿と思われない程度に天然キャラを演じること!人畜無害に振る舞うこと!利用できるものはどんどん利用していくこと!

…よし!今日の日記完了!」


サイドテーブルの二段目の引き出しに日記を戻す。

一息ついてベッドにダイブしようとしたその瞬間、扉が控えめに叩かれた。

扉の向こうから「今、平気ですか」とルネの声。

緊張を押し殺し、平然を装って扉に近づく。


「どうしたの?」


扉を開けると、トレーを持ったルネが立っていた。

トレーには湯気を立てるティーポットといかにも貴族を感じさせる洋風のティーカップ、少々のお菓子。

そして、金色の蝋封が押された一通の手紙。


「座って」


そう促すと、ルネは一礼してからチェアに腰を下ろす。


原作通りルネは常に品行方正。

彼女は貴族としての規律を重んじ、一挙一投足に品格を宿す。まさに淑女そのものだった。


「突然押しかけてしまいすみません。姉様に聞きたいことがあって」


慣れた手つきで二人分のティーカップに紅茶を注いでみせた後、ルネは紅茶を口にする。数分間の沈黙の後にやっと口を開く。


「あぁ、そうだ。体調はいかがですか?」


「大丈夫よ、心配してくれてありがとう」


「それなら良かった。」


そしてまた紅茶を一口。そわそわしているのは私だけ。ルネは随分落ち着いている。


「…もうすぐ華春祭が開催されますね」


「う、うん!そうね」


(カシュンサイ…!)


華春祭。冬の終わりと春の訪れを祝って、皇室主催のもと一週間開かれる春の祝祭。

華春祭期間、街路は花と装飾で彩られ、夜には無数の灯りが帝都を照らす。最終日には帝河に灯篭を流す伝統があり、そこでフィオナは一人目の男主人公と出会う。

原作では、第一回目の大イベント。


「私、華春祭が初めての社交界なんです。だから、姉様とご一緒してもよろしいですか?」


(それってフィオナとルネの初接触の場!!

ルネと一緒なんて絶対ダメ!私の目標が崩れる!というか原作ではルネとエナーリエは一緒じゃなかったでしょ!!)


「わ、私なんかといたらルネの株が下がっちゃうんじゃない?」


「…それは」


「それに!ルネは人気者だからほかのご令嬢方からのお誘いもあったでしょうっ?」


「………」


「………」


焦るあまりルネの言葉を遮る。するとルネは口を閉ざし、少し俯く。今朝の食事を彷彿させる重苦しい空気がまた流れる。


「そうですね。まだ華春祭まで時間があるので私も考えてみます」


ルネは席を立ち、「おやすみなさい」と言い残して部屋を去った。


(まずい…早速立ち回り間違えた?)


憑依して一週間。早くも波乱の予感がする───・・。

はじめまして!目を通して頂きありがとうございます!

初めての投稿なのでお手柔らかにお願いします

こちらは今のところ不定期更新となっております

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