3話 出会いはコンビニエンス
円香とお隣さん、改めシャンティは家から徒歩2分程のコンビニまで揃って足を運んでいた。
「こんな所にもコンビニあったんだね。」
「覚えておくと便利ですよ♪」
「いいね、ここならおつまみ買うのにフラッと寄れそう♪」
「地球人は未成年飲酒禁止だったはずでは……。」
「お酒は飲まないし、晩酌なら自分の部屋でやるって。」
「そんなぁ……。」
シャンティは目をウルウルさせて寂しそうな表情を見せつけてきた。
「え……晩酌したいの?」
「はい!お友だちとするの、憧れだったんです♪」
「お友だちねぇ……。」
「もしかして、嫌……でした?」
「シャンティは、嫌な人とごはん一緒に食べると思う?」
「……!」
シャンティの顔がパァッと晴れた。
「まあ、これもお隣さんの『ご縁』だし……。」
「はい!『ご縁』ですね♪」
2人は雑談の傍ら、慣れた手つきでホイホイとカゴにおつまみやらお菓子やらを放り込んでいった。
「『ご縁』……かぁ♪」
そんな2人をレジの向こうから遠目に見守る店員さんが、2人には聞こえない声でポツリと呟いた。
「良いなぁ……♪///」
店員さんがレジに頬杖をつき、うっとり蕩けた表情で買い物する2人を眺めていると、やがて2人がレジまで会計をしにやってきた。
「……店員さん?」
「はっ!?す……すみません!?お会計ですよね!?」
店員さんは慌てて背筋を伸ばした。
「えっと……、はい。」
2人がレジにカゴを置くのとほぼ同時に、短めの入店メロディが店内に流れた。
「……、」
円香がなんとなしに自動ドアの方を見ると、見覚えのあるスカイブルーのツインテールが目に入った。
「これくださいっ……!?」
慌てて俯き財布を出して店員さんに会計を催促すると、
「何かあっ
シャンティも自動ドアの方を確認しようしたので、シャンティの頭をガッチリホールドして阻止した。
「な、なんですか急に……!?」
「そうそう、お義姉様に無礼でしょ……ッ!」
「あぁぁ気づかれた……。」
円香がガックリと肩を落とし、解放されたシャンティが声のした方を向くと、
「さ、帰ろ?お義姉様♪」
昨日交戦した怪獣の子と同じ顔をした少女、改めシャンティの妹が微笑んでいた。
「い……、嫌ですっ!」
「やっぱり、気は変わらないんだ。お義姉様に痛いことするのヤなのに……。」
「帰りませんったら、帰りませんっ!」
シャンティは持ってきていた『バトルシエ闘度100』のディスクを取り出した。
「『バトルシ
シャンティがディスクを自身の胸元に挿入しようとすると、こめかみのあたりに重厚で冷たい金属塊が押し付けられる感触がして思わず動きを止めた。
「え
「……。」
『コンバットオペレーション2 ガン・ハイブ。』
円香とシャンティと妹が恐る恐る無機質な電子音声の発生源……レジの向こうを横目で見ると、店員さんの左腕はリボルバーの銃弾を収納するシリンダーのような形状に変化し、その銃口がシャンティのこめかみに触れていた。
「店内での喧嘩はご遠慮ください……♪」
「「「ヒャイ…ッ!?」」」
店員さんにビビり散らした3人はさっさとお会計を済ませてお店を出ることにした。
「ありがとうございました♪……そうそう、
「?」
帰り際に店員さんが何か思い出した様子で円香を引き留めた。
「喧嘩をされるなら、河川敷がお勧めですよ!」
店員さんは脇を閉めて両手をグッと握ると、
「地球のお方は西陽をバックに河川敷で殴り合いの喧嘩をして友情を深めるそうです!……良いなぁ♪///」
いかにもお勧めという様子で力説してきた。
「か、考えておきます……。」
「どうぞよしなに♪」
店員さんはさっき銃口に変化していた腕をヒラヒラと振り3人を見送った。
「あとで見に行こ〜っと♪」
3人はとりあえず河川敷に場所を移すことにした。
「……買い物しなくて良かったんですか?」
「お義姉様はあの状況で1人残って買い物できるの……?」
「ムリデス。」
「そりゃそうだ……。」
「後で一緒にお買い物しましょうね♪」
シャンティは妹の頭に優しく手を置いた。
「うんっ♪」
「仲良しなんだね。」
「そりゃーーもちろん♪わたしとお義姉様は宇宙一の仲良しなだから♪♪」
「あはは……。」
なんだかんだお姉さんだなぁとほのぼのする傍らで、円香に1つの疑問が浮かんだ。
「2人はそんなに仲良しなのになんで喧嘩してるの?」
「それは……、
「お義姉様が勝手にどっか行っちゃうのが悪いんだもん……!」
「だからって、あんな家に帰るのは絶対ごめんですッ!」
「「ぬぬぬ……!」」
平行線かぁ……。
河川敷についたシャンティと妹はそれぞれ離れた場所に位置取り、円香はちょっと遠くから2人を見守っていた。
「ねえ、2人ともやっぱり喧嘩するの?」
「お義姉様が帰るって言うならやめるッ!」
「だったら私は徹底抗戦ですッ!」
だ〜めだ、止められん……。
「「……ッ!」」
シャンティと妹はそれぞれ持参していたディスクを取り出した。
『『バトルシエ闘度100』……ッ!!」
「『超怪獣』……ッ!!」
各々のディスクを自身の胸元に挿入して、
「シュガー・パティシエール……ッ!」
シャンティは白とピンクを基調としたポップでスイートなショートドレス姿に変化した。
「フェーズ1……ッ!」
妹は昨日とおんなじ怪獣の格好に……いや、
「昨日と違う……!?」
「昨日までのわたしじゃないんだから……ッ!」
妹は昨日の戦いで見せた全身ゴツめの武装をした重量級な怪獣ではなく、手足と顎に細長い尻尾のみの最小限の武装に留めたその姿は怪獣というよりも……、
「恐竜……?」
小型の恐竜を彷彿させる容貌に変化した。
「どーよ!昨日ぶっ飛ばされてからオールで映画リピートしたわたしの『思い入れ』……!お義姉様にもたっぷり味わってもらうんだからッ!」
「思い入れ……?」
妹の口から出た、戦いとは到底関係がなさそうな『思い入れ』というワードに円香は引っかかるものを覚えた。
「そんなこと言って、昨日より弱っちいじゃないですか?今度は実家までぶっ飛ばしてあげます……、よッ!」
シャンティはいきなり絞り機を構え、昨日放った大技の『ホイップルバスタード』の体制に入った。
「ええっ!?いきなり!?」
シャンティが両手で絞り機を高く掲げて気合いを入れると、絞り機は熟したリンゴのような赤色と爽やかでネイビーなクリーム色の眩い光で輝いた。
「ちょっと!1人でちゃんと狙えるの!?」
シャンティは昨日と同じく、暴れる絞り機を必死で抑えふらついていた。
「大丈夫ですっ!あんなひょろっちぃの、掠りさえすれば勝負ありです……ッ!」
「……♪」
このとき円香もシャンティも、妹が自信満々に口角を上げていたことには気づかなかった。
「ホイップル……!バスターーーッ
絞り機からは2色の光が螺旋を描き、
「ッッド!!」
極太のレーザーとなって
ピョロッ……
放たれることはなかった……。
「「え……?」」
円香もシャンティも思わず間抜けた声を漏らした。
「……はぁ。やっぱりね。」
やっぱり……?妹は何か知っているな。
「な、な、な、なんで……?」
「お義姉様が帰って一緒にお風呂入ってくれたら、教えてあげてもいーよ♪」
「それは嫌です。」
「そんなあ……!?」
妹の顔が青ざめ、膝から崩れ落ちた。
「あー……、たぶんお風呂の方は嫌じゃないと思うよ?」
「う……うるさいうるさい!わたしが振られたからってちょーしに乗るなーーッ!///」
円香は妹が可哀想になってフォローしたが、妹はすぐに顔を赤くして地団駄を踏んだ。
「えぇぇ……。」
「知ってるけどぜーーったい教えてあげないんだから!このままわたしにボコられちゃえッ!」
妹は円香が瞬きするほどの間に、数メートルは離れていたシャンティの懐に飛び込み
「ッ!?」
シャンティに尻尾の薙ぎ払いを喰らわせた。
「が……っ!?」
シャンティはなんとか絞り機の銃身でガードしたが、
「……ッ!」
のけぞった背後に回り込まれると背中に蹴りを入れられ、円香のいるところまで転がってきた。
「……くっ、」
「シャンティ!大丈夫……?」
「はい、なんとか……!」
「昨日のゴツいのよりパワーは落ちてるけど、スピードが格段に上がってる……!」
「パワー落ちてるんですか?」
「昨日は絞り機弾き飛ばされてたでしょ?」
「確かに……。」
シャンティは握っていた絞り機に視線を落とした。
「どーするお義姉様!?そいつと2対1でもわたしはいーよ!」
妹はシャンティに蹴りを入れた場所から動かず、勝ち誇って腕を組んでいた。
「へえ?随分余裕なんだね?」
「あったりまえでしょー!ろくすっぽ喧嘩もしたことないお義姉様に今のわたしが負けるわけないんだから!」
「へぇ〜?だったらお言葉に甘えさせてもらおっかな……。」
「ええ!?大丈夫なんですか円香さん……!?」
「大丈夫大丈夫、私は安全なところで腕組んでアドバイスするだけだから♪」
「他人事ですかぁ!?」
「もともと姉妹喧嘩なんだし、命取ろうってわけじゃないんでしょ?ほれ行った行った。」
「はぁ〜い……。」
シャンティはトボトボと歩いて妹のもとへ復帰した。
さっきの溺愛っぷり的に、向こうもシャンティの命まで取るつもりはなさそうだし任せちゃって大丈夫だとは思うけど……。
「にしても、どうしたものか……。」
ホイップルバスタードが出せない以上、決定打が無い。妹ちゃんがゴツいのになる前に、なんとか勝ち切れる方法を考えないと……。
「作戦会議は終わり?」
「はい!負けませんよ!」
妹がシャンティの目の前に踏み込んできた。
「が……ッ!?」
シャンティは反応できず、もろに懐への飛び蹴りを喰らった。
「……お義姉様、速く『参った』して?」
あぁぁ不味い、わかっちゃいたけど戦闘スキルに差があり過ぎる……。
円香は頭を抱えた。
「まだです……ッ!」
シャンティは絞り機の銃口を妹に向け、光弾を放った。
「……ッ!」
……が、妹は余裕綽々という様子で躱してみせた。
「……そっか。」
円香は妹の視線を追って気づいた。
いくら速く動けると言っても、『攻撃に反応して避ける』以上、光弾が打ち出されてから避けるのは難しいはずだ。ならそれを妹はどう避けているのか。
……『見てる』んだ。
妹は銃口とシャンティの腕の力の入り方を注視して、光弾が放たれる場所を予測することで、撃たれる前に対応している。
軌道が直線な光弾だからできる対策だ。
そして、攻撃が直前的なのは向こうも同じ……!
「見つけた……勝機!」
円香は攻撃を躱した妹を見ると大きく息を吸い込んで声を張った。
「シャンティーー!『甲子園!怒涛!!』を使ってーー!」
「円香さん!?」
「……。」
2人が動きを止めて円香の方を振り向いた。
「……わかりましたっ!」
シャンティは『甲子園!怒涛!!』のゲームディスクを胸元に挿入して、背中に『怒涛』と書かれた野球のユニフォーム姿に変化した。
「守りの極意はバント!相手はストレートしか投げられないよ!!」
「え?バントって攻めるときに
「そろそろこっちにも構って……、
痺れを切らした妹が強く地面を踏み叩いた。
「よねッッ!!」
「……ッ!!」
今日一の加速で突っ込んで来た妹の蹴りに対して、シャンティはバントのように構えたバットで攻撃を受け止めることに成功した。
「……ッ!?」
「へへ……、これは確かにバントとストレートですね。来るところがわかれば対応できますッ!」
よしっ!戦うのはズブの素人でも、野球が得意な姿のときに野球っぽくアドバイスすればシャンティは対応できる……!
「……くっ、」
妹は飛び退いてバットの間合いの外に出た。
「防がれるなら、ガードの上から削り倒す……ッ!」
妹はまた高速移動してシャンティを撹乱すると、連続のヒットアンドアウェイで飛び蹴りを浴びせ続けた。
「くっ……、円香さん!防げてもこのままじゃ……!?」
そう。守ってるだけじゃ勝てない……。妹ちゃんの俊足を封じて確実に攻撃を当てられる場面を作る必要がある……。
「攻めの極意は内野フライだよ!チャンスがあったらかっ飛ばせ!」
「内野フライってダメなヤツではッ!?」
「大丈夫!バントし続けて!」
「……、はい!」
シャンティは横殴りの蹴りの雨をバントで凌ぎ続けていると、
(あれ……?なんだか、攻撃がさっきよりも遅くなってきてるような……)
シャンティは妹の攻撃速度が落ちている感覚を覚えた。
「くっ……、たぁぁぁああ!!」
「……ッ!」
シャンティの直感の通り、シャンティの目が慣れて反応が良くなってきたのに反して、妹は次第にスタミナ切れを起こし、円香の目にもわかるほど攻撃速度が落ちてきていた。
「はぁ……、はぁ……ッ!ぶっ飛べぇぇえ!!
痺れを切らした妹が一際距離を置いて踏み込みの回数を増やした今日1番の威力の飛び蹴りを繰り出した。
「……そこだぁぁぁああッ!!」
蹴りの雨を浴び続けてスピードに目が慣れていたシャンティは妹の蹴りにタイミングをバッチリ合わせ、妹の足裏にアッパースイングを直撃させた。
「しま……ッ!?」
パワー負けした妹は自分の蹴りの反動がアッパースイングに乗って内野フライの軌道で盛大にかっ飛ばされた。
「攻めの極意は内野フライ……、やりましたっ!」
「よっし!踏み込む地面が無い空中ならさっきまでの高速回避もできないはず……、チャンスだよ!」
「はい……ッ!」
シャンティはどこからともなく取り出したグローブに持ち替え投球のフォームに入ると、ボールを持った右手が赤く煌めいた。
「『逸球……!流れ星!!』」
シャンティが放った赤く煌めく豪速球のストレートは落下する妹の腕のガードに直撃した。
「……ぐぁっ!?」
防ぎきれず豪速球に弾かれた妹の身体は空中で回転した。
「これで決めます……ッ!!」
シャンティは持ち直したバットを掲げ、身体の前で時計の針のように一周すると、バットに炎を纏わせた。
「『日輪……!
バッティングフォームに入ったシャンティはスイングした勢いのまま回転し、炎を纏って妹の落下地点へ突進した。
(受け身が、取れない……ッ!?)
「……ッッ!」
妹は敗北を悟りギュッと目を瞑った。
「…………、あれ?」
大技を喰らってぶっ飛ばされる覚悟をしていた妹は、追撃はおろか落下の衝撃すらないことに違和感を覚えて恐る恐る目を開けると、すぐ近くにシャンティの顔があった。
「……勝負あり、ですね♪」
「お、お義姉様!?///」
妹はシャンティにお姫様抱っこされていた。
「なんで
「可愛い義妹をぶっ叩く義姉がいてたまりますか♪」
「……///」
「さっき思いっきりデッドボールしてなかった?」
円香が2人のもとに合流した。
「それは……たくさん蹴られた仕返しです。」
「ふ〜ん?ま、初めての姉妹喧嘩にしては上出来じゃない?」
「ちょっとそこのおまえ!お義姉様に向かって随分偉そうじゃない……?」
「友だちですから♪」
シャンティは無邪気に笑ってみせたが、妹は自分に向けられたシャンティの笑顔から目を背けるとそのままシャンティを押しのけて降りた。
「…………。」
妹は一瞬円香の方を見ると俯いてシャンティの袖を摘んだ。
「……お義姉様が帰りたくないのは、友だちと離れ離れになりたくないから?」
「確かに、そう言われると帰りたくない理由が増えちゃいましたね♪」
「……。」
妹は黙って何度か頷くと、不満そうな顔になって円香の目の前に立った。
「……負けないから。」
妹は円香に背を向けて強く踏み込むと、あっという間に見えないところまで走り去っていった。
「速っ。」
「いっちゃいましたね。」
「ありゃまた襲ってくるね……。」
「そのときはまたよろしくお願いします♪」
「え〜、巻き込まないでよ……。」
円香が帰り道を歩きだすと、シャンティも追いかけて隣に並び歩いた。
「最初に首突っ込んで来たの、円香さんでしたよね?」
「う"……、まあそうだけどさぁ。」
「そんな渋い顔しないでください、夜ご飯作ってあげますから。」
「ほんと!?やった♪」
「あの、円香さん……料理とかって作ったり
「するわけないじゃん。」
「それでよく一人暮らししようと思いましたよね……。」
西陽に照らされて並び歩く2人を遠目に見守る人影が一つ。
「喧嘩すると仲良しになれるって本当だったんだ。良いなぁ……///」
人影はどこかへと去っていった……。
背景、おばーちゃん。
改めて、御茶混市ってすごいところですね。
コンビニの店員さんに撃たれそうになったり、お隣さんの姉妹喧嘩もぶっ飛んでいたり。
喧嘩といえば、向こうには家出しても追いかけてきてくれる家族がいるんだよね。ちょっと羨ましいな〜、なんて……。
うそうそ!私にはおばーちゃんがいるもんね♪




