怪奇事変 鳩時計
鳩時計買った事ないけどやかましだろうな、だって時刻通りに何回も鳴くの、絶対うるさくて止めると思う、そしたら鳩時計買った意味なくね?ってなってきっと買わないで人生終わるんだろうなw
第六怪 鳩時計
『ある町の骨董品店にて、ある時計が売られている』
『へぇ~どんな物なんだい?』
『“鳩時計”だよ』
『“鳩時計”?』
『そう――曰く付きの……ね』
パソコンのチャット画面を見ながら、タンブラーに入ったコーヒーを飲む。
彼の周囲には疎らな品物が展示品の様に飾られていた。
チャットを続ける。
『展示用ってか、日用品として活用されていると見間違う程、自然な“鳩時計”らしいぜ?』
『もうそれってただの“鳩時計”じゃんw』
『定期的に鳴る鳩の音がな、どうも不気味らしいんよ』
『へぇ~どんな?』
『鳩の鳴き声と言うより、気味の悪い鳴き声らしいぜ』
『それは気になるな!』
『そう言えばこうも言われてたな』
『ほお?』
『別名――“不吉を鳴く鳩時計”』
伊三部源治と呼ばれる作者が制作した物の1つで、彼が手掛けた商品は数万個と言う数が存在する。
その中でも3つの所謂、曰く付きの代物が存在する。
その内の1つが“不吉を鳴く鳩時計”だ。
ある一家が高値で購入した鳩時計は元来の鳩時計とは作りも、使っている材質も異なっており、特徴的なのは“エトピリカ”と呼ばれる鳥をモチーフにした鳥が特徴的なのだ。
この時点で鳩ではない、とかなりのツッコミがあるだろうが、彼は『鳩じゃなきゃダメな決まりでもあるのか?』と返した。
そしてもう一言――『私にとってはこの鳥も鳩の様なモノだ、だから鳩時計と名付けた、名付けに決まりでもあるのか?』っと。
こうして誕生した鳩時計は先ほども言った通り一家に引き取られるも、徐々に不吉な災いが家族の身に降りかかる事となる。
特徴的な不気味な鳴き声、決まった時間に起こり得る怪奇現象、そして実際起こってしまった不吉な事故。
そんな事から原因がコレにあると決めつけた家族は伊三部に返却をしようと考え、彼の工房に足を運んだが、彼は既に別の件で海外に渡航してしまっていた後だと言う。
マネージャらしき代理人がこの件を伊三部と決め、返却を受理したが、問題はその収納先にあった。
状態は真新しく、本人が居ない為、数日の間預かる事となった代理人は適当な場所にその置物を置き、就寝時間になると不気味な鳴き声と共にあの独特の鳥が姿を現した。
そこから代理人にも奇妙な出来事が次々と起こり、最終的には両足大腿骨骨折、肋骨数か所骨折、鎖骨骨折、頚椎骨折と入院を余儀なくされてしまう。
病状の原因は交通事故、相手側の不注意によるモノだが……代理人はあの不吉な鳥の鳴き声がまだ耳から離れる事無く残っている事や、実際にあの時計が原因で前の家族も
同様の事故や、他の事故に見舞われた事から“呪物”として見る様になってしまった。
その後、伊三部が海外から戻り、代理人との話し合いの末、伊三部が回収するも、その後――伊三部源治は心筋梗塞となり死亡。
最終的に相続財産清算人の手によって遺品として扱われたこの商品は市に出品される事となり、巡り巡って、骨董品店に置かれていた。
「いらっしゃい」
老人が新聞と煙草を吸いながら客の顔も碌に見ずに答える。
入ってきたのは成人男性で年齢的には30代ぐらいの男だ。
彼の名は石鷲武——骨董品収集家だ。
学生時代から古い文献などを読み漁り事が好きで歴史に因んだ物などは特に好感を持っている。
故に、彼の家には骨董品が丁寧に保管されており、今回もまだ見ぬ骨董品を探す為、この店を訪れた。
「(アレは……何処に?)」
武が探している物は骨董品収集家の友人から伝えられてた“鳩時計”、これを是非一度見て、願わくば購入したいと考えていた。
だが一向に見つからない為、仕方なく接客とは程遠い対応をとっている店主に声をかける。
「あの~、此処に“鳩時計”が売られているって聞いて来た者なんですが……“鳩時計”って何処にありますか?」
新聞から目を話した老人は皺だらけの顔で、一瞬だが睨む様に彼を見ると再び新聞に目を通し答える。
「壁に飾ってあるよ」
「え?」
「壁だ、そこにあるだろう」
「えっと……」
大抵そこにとか言われても見つからないものだ、もうちょっと詳しい場所など教えて欲しい物だが、確かにそれはあった。
家の家具かと見間違えてしまうが、その独特の木彫りで彫られた“鳩時計”は存在していた。
武の中では感動と言う二文字しかなく、それを覗き込むように見ていた。
「コレって、中は鳩じゃなくて“エトピリカ”って鳥なんですよね?嘴が特に美しいとか」
「別名“口笛鳥”――アイヌではそう言われてる」
「アイヌってあの先住民族のお方達ですよね」
「そうだ、アイヌの民はみな、その鳥を“口笛鳥”と呼んだそうだ」
「へ~……」
民族的な事は良く分からないが、武にとっては今目の前にある骨董品の完成された形、肌触り、色合いなどが興味の対象となっていた。
「買うか?」
「え?良いんですか?」
「売り物だからな、1000円で売ってやる」
「え!?伊三部源治さんが手掛けた物ですよ!美術家で知らない人が居ない程の」
「知らん、儂は別に売り買いにしか興味はない」
「そう……ですか」
「買わんのか?」
「いえ、買います!買わせて下さい!」
直ぐに財布を取りだし1000円をレジに渡す。
「袋何かは……この紙袋でええか?」
「はい!――え?」
だが取りだされた紙袋は“お札”と呼ばれるモノで“封”と書かれた内容が沢山貼ってあった。
「あの……これって?」
「ああ、こりゃアレに入ってた袋だ。これ以外だと持ち運べるようなもんはないんだよ」
それにしてもそこまで“封”と書かれた“お札”が沢山貼ってあると、何か曰く付きの物じゃっと思うが、そう言えばインターネットで知り合った友人はその事について
言及していたのを思い出す。
曰く付きも曰く付き、あの“鳩時計”は不幸をもたらす“呪物”として扱われていて、作った当人ですら死に至らしめたとも言われている。
本来ならあるべき場所に収められていなければならないもののはずが、こうして市場に出回っていると言う事は、ただの噂なのだろうと結論づけた。
“お札”が沢山貼られた紙袋に丁寧に収められていく“鳩時計”を見送り渡す手前で老人の動きが止まる。
手を差し出した状態で待っていた武は一瞬、奇妙に思うも老人がゆっくりとこちらに手渡し再び先ほどと変わらずに新聞を読み始めた。
「あの、ありがとうございました」
「……おい」
直ぐに店を出ようとした所で店主に引き留められる。
なんだろうっと思い振り返ると、今度はちゃんとこちらに顔を向けて話す姿勢だった。
「その紙袋は捨てるな、良いな?」
「……はい?」
てっきり別の話か今買った“鳩時計”の話をされるかと思ったが、全く別のところからこの“お札”が貼られた紙袋の話だった。
「曰く付き、その“鳩時計”は紛れもなく“呪物”だ、だが儂はこうして生きとる、何故だかわかるか?」
「……さあ?」
老人は紙袋の方を指さして答える。
「ソレがあったからじゃよ、ソレがなければ儂はコレに殺されていた」
「……あの、何が、なんって?」
「話は終わりじゃ。お前さんがどうしてもソレを捨てるなら、“彼岸の向こう側”に足を踏み込む覚悟を持つことだ」
意味深な言葉を返し新聞に目を落とす老人を少し頭のおかしな人間だと思い、足早にその場を後にした。
PM20.26
『買ったよ~♪』
『画像』
『おぉー』
『1000円だった』
『1000円わろったw』
『マジで特徴的な彫りなんだね、つうか画像の横にある“紙袋”の方が気になる』
『それな』
チャットを打ち終えながら、コメントされた内容の物に目を通す。
確かに、この“鳩時計”が曰く付きの物って言うよりもこの紙袋に付いているお札の方が不気味に感じる。
『その紙袋は捨てるな、良いな?』
店主が言った一言と意味深な彼岸の向こう側と言う意味が未だに分からなかった。
ちょっと聞いてみるか。
『ねね、店主の人に“彼岸の向こう側”って言われたんだけど、なんの意味か知ってる?』
『知らん』
『彼岸って確か仏教から来た言葉じゃなかったっけ?』
『あの世的な?』
『そそ』
『で、具体的になんて?』
『“紙袋は捨てるな、ソレがなければ〇されてた。彼岸の向こう側に行きたいのなら覚悟を持てって』
『意味不』
『紙袋に貼られてる“お札”が守ってくれてる系かな?だからそれを捨てたりすると危険的な?』
『ただの紙じゃんwそっちの方が特級呪物でしょwww』
『俺もそれ思った』
チャットはどんどん華やかに進んで行き、気づけば時刻は0時を回る所にまで差し掛かって来ていた。
明日も仕事が早いしこのぐらいで切り上げようとした瞬間、不気味な、鐘の様な音がその“鳩時計”から発せられた。
『あれ?』
『みんな??』
コメントを返すもだれも反応を示さない。
無言で退室したのか履歴を追うも、みんなそこには居るのだ。
『えっと、もう時間だし、俺明日会社だからそろそろ寝るね?』
『……なあ、今その“鳩時計”って鳴った?』
『え?』
ばかな、流石に動画として出したが音量は無音なので相手には聞こえないはずだ。
『俺も聞こえた!なんか鳩って言うより鳥?でも俺の知ってる音じゃないんだよな?』
『ああ、すげー不気味な“鐘の音”だった、テレビとかでたまに流れる外国とか……』
急いでチャット内のオーディオインターフェイスを確認するも消音、続いてパソコンを確認するも消音となっている。
ありあえない……なんで今聞こえた音がチャットしか打てない友人たちに聞こえているのか?
いや、それよりも……この“鳩時計”が飛び出した物体を俺は見てない。
早くなる鼓動を落ち着かせながらゆっくりと“鳩時計”をこちらに向けると、そこには鳩ではなく調べた鳥がただ可愛く飛び出していただけだった。
「(なんだ、何もないじゃないか……)」
ただ気がかりなのが、やはりその音が皆に聞こえてしまっている点だ。
そして俺自身も確かに聞いてしまっている、だからと言って特段何か変な事は起きてはない。
『今日は疲れたし、先に上がりますね!おやすみ!』
チャットに文章を残してパソコンを落とし、“鳩時計”はリビングのテーブルの上に置いとく事にした。
寝室に移動しようと考えたが、ふと足元に転がった紙袋に目をやる。
「気持ち悪いな……」
俺はその紙袋を拾い上げると、一瞬捨てようと頭が過ったが、購入前の老人の一言――『ソレがなければ儂は殺されていた』
何とも言えない不気味な気持ちになり、俺はその紙袋を“鳩時計”の隣に置いて就寝する事にした。
翌日――
朝は特段変わった事はない。
骨董品集めと言っても、中には曰く付きの物も混ざっていたが特段何か変わった事が起こる事はなかった。
カップラーメンにお湯を注ぎ、3分待たず1分半で食べる。
俺は硬い麺の方が好きなのだ。
途端、全身が硬直した。
何故ならあの“鳩時計”が急になり始めたからだ。
飛び出した鳥に目を向けると、昨日まで普通だったはずの鳥の目が片方だけ肥大化している様に感じたのだ。
「……アレ?」
昨日置いた紙袋は何処にいったのだろうっと足元を探すも出てこなず、机の上に視線を向けると、気のせいか鳩から視線を感じた。
「……周れ右」
強引に時計を別の方角に向けてあのお札だらけの紙袋を探すも、出てこない。
「やばい、完全に何処かにやった……あれ?昨日確かに机の上に置いたよな??」
間違いなく寝る前に机の上に置いたはずの紙袋が無くなっている。
『ソレがなけば儂はアレに殺されていた』
「……そんな訳――」
机をもう一度必死に捜索するも見当たらないっと言うよりも、直ぐに目視できる為、ないのだ。
机から離れ、床の隙間、置物、あり得ないがキッチン周りを調べるも出てこない。
廊下、トイレ、洗面所、風呂場、部屋など隅々まで探したが出てこない。
なんでないんだ?っと机をもう一度見ると、あの鳥と目があった。
鳥肌を感じさせる、まるで生きているかのような目線だ、口が少し開いた様に見えたのは――気のせいだろう。
結局、紙袋は見当たらず出勤時間になってしまった為、別の紙袋に“鳩時計”を終い、家を後にした。
通勤しながら時計が鳴った時の事を思い出す。
「(昨日は0じジャストに鳴って、今日は5時に鳴った……何か法則でもあるのか?)」
いやそれよりも一番不気味に感じたのは、元来“鳩時計”は諸説あるが、基本的には数字の数事に鳴くはずだ。
何故昨日0時なのに鳴いた?
気持ち悪さから逃れる様にその場を足早に進むと、急なクラクションと共に大きなトラックが通過した。
「あぶな!」
住宅地に明らかに時速20キロ以上のスピードで走行していたトラックはそのまま走り去ったったと思えば、凄まじい音と衝撃を伝い爆発した。
「え?な、なに……」
恐る恐る顔を出すとトラックは横転しており、完全に大破している様子が伺える。
中でも酷いのが、運転席は僅か数秒と言う時間にして炎上している点だ。
周りが騒ぎを嗅ぎつけて急いで家からホースを使って鎮火を行うも、見えてしまった。
顔が爛れ、既に息絶えている様子の運転手の素顔を。
『今日ニュース見た?』
『……ああ』
『すげーのね、つうか住宅地で時速60キロ以上で走行してたらしいぜ?』
マジかよ、普通に危ないどころに騒ぎじゃないだろう。
一歩間違っていれば俺も車にはねられて居たと思うとゾッとする。
『そういえば、シゲチは?』
『今日はインしてないみたいだね、何か用事?』
『女でもできたんじゃね?今頃ホテルよ』
『キモw』
『あのさ、昨日の“鳩時計”なんだけどちょっと気になる事があったんだけど』
『どした~?』
『“鳩時計”って諸説あるけど一般的にはその数字の回数分だけ鳴くんだよね?』
『そだね』
『じゃなんで――0時に鳴ったんだろ?』
一瞬の沈黙、そしてチャットはそこから止まる。
それもそのはずだ、俺だって驚いた、なんて0時鳴るんだって。
鳴る代物だから鳴らなければ困るんだけど、でももしこれが数字通りなら――あり得ない。
『不良品じゃね?』
『半にも鳴くぐらいだし、別にちょっと変な所がある骨董品だろ?』
『じゃコレは、俺はミュートしてたのに聞こえないはずの“鳩時計の音”が聞こえたのは?』
その間の沈黙はとても重く感じた。
『ソレがあったからじゃよ、ソレがなければ儂はコレに殺されていた』
そのフレーズが頭から離れない。
帰ってから幾度となくあの紙袋を探したが見つかる事はなかった。
最初から、最初からあの老人の忠告を聞いて紙袋を手に放さず持っていた方が良かったのではないかっと思うぐらいに。
だがそんな時、またあの“鳩時計”は不気味な鐘の音と共に鳴いた。
耳を両手で塞ぎ聞こえない様にするも、脳に直接流れてくるかのようで、鮮明にその音は聞こえてくる。
蹲った姿勢から時計を見ると、今日は11時を示している、つまり11回鳴いてくれれば良いが――正直聞くに耐えない。
やがて鳥は鳴き声を止め、静寂が訪れる。
恐る恐る時計をこちらに向けると――俺は腰を抜かしてしまう程、驚いてしまった。
何故なら、その鳥は――紙の切れ端を咥えてえおり、その咥えた紙には文字が刻まれていたのだから。
見間違うはずがない、アレはあの紙袋……。
俺はチャットの事なども忘れて急いで近くにある紙、いや、もっと頑丈な箱にこの“鳩時計”を入れて、ガムテープを使いグルグル巻きにして封印した。
「はぁ、はぁ、はぁ――」
息を切らしながらまだ震える手を抑えながらチャット画面に目を通すと、既に全員が退席したあとだったが、1人だけ残っている――いや、現れた人物が居た。
「シゲチ……さん」
なにやらコメントを書き込んでいる様だが、やけに長い。
やがてその長文は終わったのか、こんな書き込みが投稿されたのだ。
『ドウシテ僕ヲ閉ジ込メルノ?僕ハ“エトピリカ”!エトッテ呼ンデ』
『シゲチさん、何……言ってるんですか?』
『違ウ!僕ハ、エト!シゲチ殺シタ!』
椅子から転倒し、急いでパソコンの電源を強制終了させ電源を落とす。
冷汗?違う、悪寒だ。
恐怖、チゲチさんが来ない理由が死?そしてそれを殺したのがエトと呼ばれる人物でアカウントを乗っ取り会話を試みたって事なのだろうか?
いや――閉じ込める、そう言ったんだ。
つまり、アレがシゲチさんを殺したって事なのだろうか?
箱の前まで行き、俺はこれでもかっと言う程にガムテープで密閉し、中の物が出られない様に封印した。
例えこれで声が聞こえたとしても、出て来なければ、見慣れば、問題ないはず。
そうだ、明日、明日は仮病を使って購入した店に返品しよう。
そうすればきっとこのおかしな状況も変わるはずだっと前向きに考え、今日は就寝する事にした。
だが――寝た?っと言うより、体験したっと言う方が強い感じがした。
トラックのハンドルを握り、メーターを確認しながら住宅街を走行する車。
20キロを意識しながら運転をし、一時停止の標識はしっかりと守り落ちついた運転をしているにも関わらず、何故か急に踏んでいたアクセルペダルが戻らなくなってしまった。
焦る俺は何とかペダルを元に位置に戻そうとするも、徐々にスピードが上がり、今度はブレーキペダルを踏むも、スカっと押すような感覚はない。
ならば急いでサイドブレーキを引くも、それすらも応答しないなか、焦りだけが増していく。
そんな中、1人の通行人を危うく轢きそうになってしまうも、その姿や表情は見慣れた人物――俺自身だった。
そして突如来る強い衝撃に身を任せるしかない俺は、色々な箇所に身体をぶつけ、ようやく終わったと思った現象はガス臭い香りで目の前が一気に赤一色で染まる。
瞬間的に顔に迫る熱気と痛み、何とかその場から脱出したいと足を動かそうにも潰れてしまっている足、生きたまま焼き殺しにされる感覚を味わいながら、目の前に来る住民
の決死の手助けも虚しく徐々に意識が途切れて行く。
そして最後に見たのは、先ほど轢きそうになった通行人の顔だった。
彼の顔は――不気味に笑っていた。
ハッと目を覚ますと汗だくになっており、とうにアーラムは何度もこちらを起こそうと必死にバイブレーションと共になっていた。
あの夢の光景は一体何なのか?
その正体は分からないが、全てはあの“鳩時計”を購入してから始まった様に感じた。
このままアレを放置しておけばもっととんでもない事が起きる様な予感がした俺は、すぐさま行動を開始した。
箱をもって家の扉を開けると、何やら人だかりができていた。
近所の様だ、アパートからでは見る事が出来ない為、近くに行くと警察がブルーシートを覆いながら見えない様にしていた。
親族の方が鳴く声が響いていたのだけ耳に残った。
「……一体何が?」
そんな事を考えていると1人の警官に止められる。
「そこに君!その箱はなんだ!」
「え、あ、コレ……は」
「どうした?」
上司の様な方が姿を現し状況を確認する。
「いえ、付近の住民でしょうがヤケにガムテープで梱包した箱が気になりまして」
「ん?そこの君、それはなんだ」
「こ、これは……」
なんて答えればいい?実は中に入っているのは骨董品なんですで通じるか?
“呪物かもしれない”なんてそんなふざけた回答など警察が信じてくれる訳ないだろう。
「すまないが、現状こんな状態だ。わるいが中身を拝見させてもらえないか?」
「いや、これは荷物で――」
「どんな?」
「こ、骨董品なんです!これから店に売りに行く為、割れやすいんで、厳重にって」
「それにしては厳重すぎないか?」
「警部補!中を確認しましょう!もしかしたら中に遺体の頭部が――」
「……はぁ?」
それを言う前に、こちらの箱を強引に奪うと、持っていたカッタで丁寧に切れ込みを入れ中を開ける。
「なるほどね……」
「……」
「警察をからかうのも大概にしろよ!中身入ってないじゃないか!」
「え!?そ、そんなはず――」
急いで中身を確認するも、確かにその紙は空っぽであった。
いや、持ち運んでいる、違う、先ほどまでは確かに重みがあったのだ。
「待ってください!警察さんだって受け取る時重みを感じたでしょ?」
「はぁ?渡された時は驚くほど軽かったぞ?本当に何を売りにいくのか疑いたくなるほどにな!」
「そ、そんな――」
じゃあの“鳩時計”は何処に行ってしまったのだろう?
そして目の前で起きている事件は――っとその時、ぶらんっと腕がタンカーから落ちる姿を目撃してしまう。
ブルーシート越しだったのでちゃんとは見えなかったが、その腕に付いた出血量は想像せずとも、壮絶差を物語っていた。
結局、事件には無関係だと判断され注意をくらい、ただ殻になった箱を家に持って帰るのであった。
あの後、結局中身の入った“鳩時計”はリビングに何食わぬ顔で鎮座しており、その光景に驚きはしたものの、やはりこの“鳩時計”は“異常”だと言う事に気づいた。
0時に鳴る時計、シゲチさんに化けた自身の名をエトピリカのエトと偽名を使う何者か、そして厳重に封印したはずの箱にあった“鳩時計”の消失と“謎の夢”。
関係性がるかどうか不明だが早めにこの“鳩時計”は返却した方が身のためだと思った。
だが関心のモノは厳重に梱包しても、いつの間にか消えてしまう、どんな方法を使って戻ったのかは不明だが、こんな不気味な物を家の中に残して置くのは良くない。
『シゲチ、鳥そぼろさん、今日も来てないですね』
『……そうですね』
『つうか、原因は“鳩時計”じゃね?』
『ベーコンさん、何か根拠があるんですか?』
『だって、あの“鳩時計”の音を聴いてから、チゲチさんがインしなくなって、次にもう一回聞いたら鳥そぼろさんが居なくなるって――』
『根拠や証拠ない発言は止めましょうベーコンさん』
『ミニマムさんだって裏では色々言ってたじゃないですか?』
なんだ、自分が知らない所でどんな話をされていたんだ。
『何を話したんですか?』
『いえ、私がそもそもイッシーさんに例の話を軽々しか漏らさなければっと……』
それってつまり結局は“鳩時計”を購入した俺に原因があるって言ってるようなものじゃないか。
『それに店主の所に持って行く前に事件が起きたり、中に入れたモノがいつの間にかリビングに戻ってるっておかしいでしょ?』
『それは……』
『本当はミニマムさんとイッシーさん、いや、あの2人もグルで僕を陥れようとしてるんじゃないですか?』
不味いな、流石に疑心が出てきてしまったのかもしれない。
気持ちは分かるし、此処で話しているチャット友達は唯一心を許せる人達だって思って本音を暴露したつもりが、逆に悪い方向に招いてしまった。
『俺、今日から旅行あるんでしばらく来ませんけど、まだ4人で悪ふざけしてるならもうこのチャットに来ないんで!』
『あ、ベーコンさん!』
ベーコンが退出しました。
結局、真実を伝える事は叶わなかった――っとその時、またあの“鳩時計”が音を出した。
不気味な音色に載せて鳥ではない何か魍魎の様な呻き声が確かに響く。
耳を塞ぐも頭の中に直接流れてくるこの音色を消す事は難しく、早く1分経ってくれ!っと言う願いを続け、ようやく終える。
『……イッシーさん、やっぱり変ですよ』
ピョコ!っと言う電子音と共に、ミニマムさんからの返答が来ていた。
『おかしいって何がですか?』
『ミュートにしている、こっちもです。でも聞こえる……亡者の鳴き声の様な声を私も聞きました』
馬鹿な、こっちだけじゃなくてミニマムさんがミュートにしてもこの“鳩時計”は聞こえてしまうのか?
『早く、それを持って返すべきです』
『でも気づいたら中身が――』
『なら、モノは持たなくて良いので、購入した店主に事情を説明してしかるべき方法で処分してもらうべきです』
『しかるべき方法って?』
『――除霊ですよ。恐らく何かの“呪物”かもしれない……すみません、先ほどはベーコンさんに根拠のない事は言うなって言っておきながら』
『……いいえ、でもそうですよね』
『コレは推測でしかないんですか、最近事故に遭って死亡した2人、誰かとリンクするんです』
『誰と?』
『シゲチさんと鳥そぼろさん』
その後、俺は静かにパソコンを落として寝室にうつ伏せになって布団をくるむ。
怖い――もしミニマムさんが言った内容が全て推測ではなく真実だったとしたら、それはとんでもない恐怖だ。
骨董品だと思って購入した“鳩時計”は本当に曰く付きの“呪物”だったのかもしれない。
「(今日は9時になった、夜の、なんで……)」
規則性がなく、法則性も皆無、考えるだけ時間の無駄だが眠りに付けず布団にくるまっていたが、いつの間にか眠りに入ってしまった様だ。
だって身体が浮くようなこの感覚ってそう言う事でしょ?
俺は椅子の上に立っている、周りには子供達、はしゃいでいる。
子供達はアニメやドラマで流れる一部のシーンが気に入っており、再現してくれと良く頼まれる事が多い。
今回は1人で首吊りをするシーンだ、なんでこんな残酷なモノが見たいのかは分からないが、念の為、ロープは直ぐに解けるぐらいの見た目だけの縛りにしておいて、
椅子を蹴っ飛ばすと同時に縄も落ちてくるって仕組みだ。
こんな事ばかり教えて居たらいつかどやされるっと言う心配と、子供が間違って真似をしてしまわない様に事を念頭に入れて縄に首を潜らせる。
そして勢いよく椅子を蹴っ飛ばすと、そのまま縄も上に括った、本来電気を吊るすフックから解けるはずなのに。
「ガアーーグゥーー」
何故ほどけない?苦しい、締め付けられる。
血流が顔面に集中する中、子供たちの無邪気な笑い声が反響する。
必死に暴れ解こうとするもほどけず、念の為にポケット忍ばせて置いたカッターナイフでロープを切ろうとするも、その頑丈さに中々切る事ができない。
更に最悪な事に、暴れる身体によってカッターが首を突き刺してしまうと言う事件に勃発し、子供たちはいよいよ事態を知り泣き出す者まで。
だが――何故俺は無心にカッターで首を切っているのだろうか?
分からない、痛みだけが伝わり、やがてボトリーーっと頭部だけが落ちる。
その目には子供達の鳴きながら不気味に笑っている光景だけが、取り残されていた。
「はぁ!はぁ!…ッ!?」
首を触るも、自分で首を絞めていたらしく、その手を解く。
二度目の光景、一体俺の身に何が起きて居るのだろう?
兎に角、明日は早く――あの“鳩時計”をなんとかしなけばっと思い、就寝するのであった。
だが石鷲武は気づかなかった。
本日で4度目の鳥が時計から飛び出している事を、そしてその時刻は――朝の4時を示している事を。
「すいません!」
骨董品を買った店に入ると新聞を見ていた老人がこちらを見るや険しそうな表情で一瞥すると、直ぐに新聞に目を通す。
そんな態度に苛立ちを隠せないままずかずかと進み店主の前で言う。
「あの“鳩時計”を買ってから、毎日変な事ばかりです」
「……袋はどうした?」
「わかりません、リビングで一緒に置いてあったのに、次の日になったら消えてました」
「……“変わり目”だったか」
「はい?」
「アレを買うのは――此処の店でお前さんを含め、2人目だ」
唐突に話を切り出し始めた老人が言う。
「伊三部源治が作った作品はどれも魅力的な物が多いが、アレだけは違う、その時の気持ちが、モノに憑依しちまいやがった」
「あの……一体何を?」
「お前さんは“霊”を信じるか?」
幽霊の事か、昔の俺ならそんなもの信じないと思っていたが、今では――どうだろう。
「居るんですね……あの“鳩時計”の中に」
「違う」
だが返ってきた言葉は俺の予想していたものとは違った回答だった。
「“鳩時計”は伊三部源治の怨念が宿った“呪物”――“呪物”は人々の不幸を喰らい成長し、やがて手が付けられない悪霊の様な存在へと昇華する」
「悪霊……」
「それを“特級呪物”と呼ぶ、不幸を鳴くのではなく“不幸呼ぶ鳩時計”が本来の彼奴の正体」
「そんな……それじゃ!」
「最近、奇妙な夢を見るだろ?アレは死者の夢――時計によって殺された者達の最後だ」
「……」
「時計が鳴くのを聴いたのは?」
「俺と、チャットで通じてる人だけです」
「だとすれば……お前さんの命も危うい」
そう言うと、何かの紙切れを出すと、それを俺に渡して来た。
「古い知り合いだ、奴なら何とかしてくれるかもしれん」
「そんな!俺はあの商品を――」
「“鳩時計”が逃げる以上、返品を受け付けてやりたくともできん、それにさっきも言った通り、犠牲が既に出ているなら、もはや儂にも手に負えん」
「……それじゃ此処に行けば、終わるんですね?」
「ただの“呪物”のままなら……な」
「わかりました、ありがとうございます!」
「……最初に言うたが、彼岸に近づき過ぎれば戻れなくなるぞ」
いつぞやに聞いたセリフを言う店主に聞き返す。
「その“彼岸に近づく”ってなんですか?」
「手遅れなら、直ぐに身をもって分かる」
それだけ言うと、店主は店の裏手の方へ行ってしまった。
今は店主よりこの地図に記された場所だ、どうやらお寺の様だが、供養してもらうと言う事だろうか?
兎に角、あの“呪物”がただの“呪物”ではなくて“特級呪物”っと言うのに変わる前になんとかしてもらわないと!
が、その時奥の部屋にあるテレビに映し出されている画面が気になって足を止める。
店主が戻ってくるも、その光景を見るなり深いため息をついて語った。
「お前さんがアレを持って行ってからと言うもの……これで三件目か」
「べ、別に事件なんて日常的に起きてるじゃないですか、俺が購入したからって――」
「なら全て奇妙な死の遂げ方をしているのに“何らかの法則性”があるとは思わんか?」
法則……あるとすればあの“鳩時計”ぐらいしかない。
「本来“鳩時計”は時間を報告する為、その時間になって鳴るもの――購入してから直ぐに鳴いたりしたか?」
「……0時に」
「やはりな……次になった時刻を覚えて居るか?」
「えっと、二回目は5時、三回目は11時、四回目は“まだ”」
「どれも事件が起きた時刻と関連してないか?しかも時刻は綺麗に1秒のズレもなく」
「ッ!?」
そう……なのだろうか?
ニュースなんて在り来たりで、毎日誰かが死んでいても他人事で、思ってもちょっと怖いな程度……時刻までハッキリと確認しているのなんて警察ぐらいだ。
俺が通勤しようとしていた時刻は5時、その時に事件は起きた。
一番最初のトラックの交通事故、2回目は昼間に此処に来るために外出しようとした昼前、つまり11時。
夜に鳴くから夜に起こるのではなく、刺した時刻の中で何かが起きる……それがこの“鳩時計”の由来ともなる“不吉を鳴く鳩時計”なのだ。
「じゃ……次に起きる事件は4回目の“鳴き”でも法則性に乗っ取れば――」
「誰かが死ぬじゃろうな……お前さん、最近知り合いの中で、“鳴き声”を聴いた者はどうなった?」
「……それが、音信不通で」
シゲチさん、鳥そぼろさんの2人はアレ以降チャットに来てない。
リアルで忙しいと思っていたからたまたまだろうと思っていたものの、此処数週間は顔を出していない事を見ると――あの事件にあった人物こそ2人なのだろうか?
「どうしてそんな物……普通に売りつけるんですか!!」
我を忘れて怒りが込み上げてくる。
お寺の住所も知り、対策を講じられる手段を用いる事ができるのに、なんで供養とかしないのだろうと。
静かに老人の口が動こく。
「供養は何度もしたが、憑りついている“ナニカ”の力が強大すぎるらしい、つまり供養はできないし、奉納も寺自体に悪影響を及ぼす可能性がある為――」
「その為なら見ず知らずの人間の命何てどうでも良いって事ですか!?」
「若いの、お前さんの気持ちは分かるが……どうしよもなかった。儂も早くそれを手放したかった」
「そんな身勝手な事があってたまるか!」
俺はその怒りの衝動にかられながら勢いよく店の扉を開けて、その場を後にする。
だが老人の言っている事も分からなくはない。
何故なら俺だって日常的に起きる事件に無関心だ、きっと明日誰かが死んだとしても気にも止めない、老人だって同じはずだ。
なのに身近な人間が死ぬとこうも怒りが込み上げてくるものなのだろうか?
チャットで通じただけの知り合いで会った事はない、今度飲みに行こうなんて行く気のない約束を取り付けた事もあったが、その程度の人物だ。
興味を惹かれて購入し、皆を巻き込んでしまった自分に責任がある。
せめて最後は自分でなんとかしたいと思う気持ちを元にお寺へと歩を進めた。
車内で夢を見た。
下水管の中、真っ暗な闇の中で確かに誰かが居たような感覚。
既に複数の身体の痛みを訴え、足の骨は曲がってしまっている為、動かそうにも激痛で動かす事ができない。
頭上の仲間に何度も助けを求める声を出すも、誰も助けてくれない孤独感。
仲間として自分は人間関係は良好な方だと思っていた、だが違ったのかもしれない。
いや、それよりも先ほどから息苦しい――呼吸が上手くできない。
頭がグラグラする、気持ち悪い、吐くがその程度で緩和されるほど優しいものではない。
視界がボヤけ初め、嗅覚も遮断され、呼吸も過呼吸の様な浅い呼吸になる中、確かに見たあの“鳩”――いや、あれは“鳥”だ。
“エトピリカ”と呼ぶ鳥、前のログでシゲチさんのアカウントを使ったのか?それもとチゲチさんの悪戯か分からなかったが、今ならハッキリと断言できる。
きっとアレは悪戯ではない。
自身をエトと呼称したソイツは何故だが笑った様な気がした。
それ以降の記憶は――もうナイ。
「ッ!?」
勢いよく跳ね起きる。
田舎の方角ともあって電車の中は、人が少ないが数人が何事かの様に俺を見始める。
姿勢を正しつつ、アレは間違いなく俺が体験していた“死者の夢”なのだろう。
だとしたら既に4回目の“鳴き声”は何処かで鳴っていたと言う事になり。
それはつまり、俺が寝ている合間、誰かがこの“鳴き声”を聴いたと言う事。
PCをつけっぱなしにしていた事を思い出し、その時に丁度インしていたのは――ミニマムさんだ。
つまり今の体験はミニマムさんが体験した“死の体験”。
一刻の猶予もないと感じた俺は逸る気持ちを抑えながら目的地までの長い道のりを進んでいた。
そして到着したのは本当に何もない田舎の様な場所。
お寺は山の方角にあるらしいが、タクシーを使えば数十分の距離で着くらしい。
タクシー乗り場でタクシーを拾い目的地を告げると緩やかにタクシーは運行を開始した。
途中ある景色、運転手の会話、どれも頭に入ってこなかった。
4回目……最初の1回目は何処に行ってしまったのだろう?
嫌な憶測が頭を過る。
もし今夜の0時に同じ様に何かしらの理由が遭って――俺は死ぬのだろうか?
そんな事をグルグル考えていると、運転手から声が掛かっている事に気づく。
「お客さん!着きましたよ!あの、さっきから大丈夫ですか?」
「え、ええ……大丈夫です」
あり得ない、いや、あり得ない事が起きているからこそ、可能性はあるのだ。
もしかしたら、今日自分は死ぬかもしれないっと。
お寺に行くと住職の方が向かい入れてくれ、事前にあの店主が連絡をしてくれたそうで、経緯はほとんど知っているそうだ。
「丁度“前任者”も同じ様な症状が出て、訪れていたのを思い出します」
「……その“前任者”はどう……なったんですか?」
「お亡くなりになりましたよ、北海道の方で」
「確か“エトピリカ”名の語源ってアイヌ語から来たって話でしたね、北海道って彼らの」
「故郷になります」
最後は故郷で死を遂げた――それがもしかしたらあのシゲチさんを語った“呪物”――“エト”が望んだ願いなのか?
「最初に申し上げますが、もしその“呪物”が何かしらの願いがあったとして、北海道と何かしらの因果関係があったとしても――“前任者”はそこで亡くなり、なのにまだ“呪い”
は続いている以上、憶測で変な期待は持たない事です」
「……じゃどうすれば良いですか?此処に来る前にまた誰かの“死んだ夢”を見ましたよ……硫化水素中毒による死亡でした」
「アナタは“彼岸に近づき過ぎた”――彼岸は元来“あの世への門”とも呼ばれます、死に近づき過ぎた者は死で対抗するしかありません」
どう言う意味だろうか?死ねって意味だろうか?
「お経を唱えます、元来、お経には“霊術”と呼ばれる力が備わっております。これで幾分かはマシになるでしょう」
「そのお経を聴いたら俺は――助かるんですか?」
「あの“鳩時計”がどれだけの力を備えて居るかによります、もし“特級呪物”となっているならば――より強い“霊能者”に頼むしかないでしょう」
長時間に渡る長いお経、時折、俺自身の外周を周り錫杖を鳴らし、木魚を叩きと色々な事をしているのが分かる。
心が落ち着く、心配事が心の底から浄化されるような安堵感をもたらしてくれる。
数時間以上に渡る長いお経が終わると、姿勢を正した住職はこちらに向きなおり語る。
「一時的なものです、長い効力を与えておりますゆえ、定期的な受診は必要不可欠です。時間が許す限りこちらにお越しいただければ何時でもやらせていただきます」
「……ありがとうございます」
お代の話をしたが要らないと言う事であった、元々はあの“呪物”放任してしまった責任を感じている事もあった為、せめてもの罪滅ぼしの様なものと言う事だ。
帰りは来るよりも身軽さがあって良かったと感じた矢先、電車の中で一気に恐怖が吹き飛ぶような現象が起きた。
一瞬であったが、電車がトンネルを通過する際に窓に映った3人の蒼顔の表情。
アレは誰なのか?など問うべきではないだろう、恨めしい顔が俺を睨んでいたのを今でも忘れていない。
天国から地獄に突き落とされた感覚を味わいつつ帰路に着く。
「ただいま」
「オ帰リ」
「……はぁ?」
返事など起きるはずのない部屋に伝わる返答。
母親が帰ってきたにしてはカタコトの様な言葉遣い、コレを文章に現した際に思い浮かんだのはあのチャットの文章だった。
シゲチさんを語った“エト”。
恐る恐るリビングの扉を開けると、机の上に鎮座した“鳥時計”があった。
既に飛び出した鳥の眼球は肥大化しすぎて、目から流血していた。
錆だ、あれは錆が出たものだと自身に言い聞かせるも、ゴォン!っと鈍い音、鐘の音の様な不気味な“鳴き声”が響きその瞬間、宙に引き込まれた。
いや、もっと正しく言えば“何者か”が俺を紐のロープの様なもので首を絞めて居るのだ。
「ガァ……ギィッ!?」
「20♪30♪」
楽しそうにカタコトで秒数を数える鳥。
必死にもがき脱出を試みるも、首にあるはずの縄は存在しなく、爪で首を引掻くだけとなっている。
「40♪50!」
「ダ……ズゲ」
「60♪」
続いてのニュースです。
昨晩0時丁度にて、アパートの部屋にて男性の死骸が見つかりました。
付近に怪しい人影などはなく、凶器となったのは自身の爪である事が判明。
何度も首を引掻き、既に肉を抉っている事から精神的な病気を患っていた可能性も視野に進め、警察は自殺の方向で調査を進めております。
また男性の付近には奇妙な“鳩時計”が落ちており、0時で針が止まっているのを発見。
引き続きこの件に関しましては調査が行われるとの事です。
続いてのニュースです、F氏に住まう骨董品店の店主が心筋梗塞で倒れ病院に運ばれるも0時丁度に死亡を確認。
また同じくA氏にあるお寺を営んでいる住職は仏間で両手の親指で両目を潰し、同様に絞殺した疑いありと判明。
自殺の路線で調査を進めているものの、周囲の住民からはそのような兆しはなかったとのこと。
続いてのニュースです――N氏にある動物園で飼育していたパンダの赤ちゃんが――
僕ノ名前ハ“エトピリカ”!“エト”ッテ呼ンデネ。
死ニタイ時間ヲ教エテネ!教エナイナラ勝手ニ鳴クヨ!
僕ハ“エト”!“死ヲ与エル”優シイ鳥デス。
第六怪 死鳥時計
なるべく継続して出すため書き止めたりしてるものの、急に執筆が止まったり、考えたりで続かなかったりするので書き止めてあります。恐らく1週間スパンで投稿できる様に余裕をもって楽しく書こうとは思ってますが、お待ちしていただければと思います。申し訳ありません




