第3話 「幼馴染はいつも太陽みたいだ」
──今日も王都は穏やかで、少し騒がしい──
学院の昼休みは、いつも中庭が混み合う。
魔導樹の下のベンチは人気で、日差しと魔力の相性が良いのか、葉がきらきら輝いて見えた。
その木の下で、リリア・ヴェイグはお弁当箱をぼんやり眺めていた。
(パン二つ……朝と同じじゃん……)
完全に忘れていた。
朝の食堂でセラに「味覚に刺激を」など言われたくなかったので、黙ってパンを詰めてきた結果がこれだ。
そこへ朗らかな声が響く。
「リリア、発見!」
「へっ!?」
続いて、影が差す。
振り返るより先に、柔らかい匂いとあたたかい笑顔が視界に飛び込んだ。
「やっと見つけたよ。中庭にいると思った」
「ア、アシル……なんでここに?」
「え、なんでって……昼、一緒に食べようと思って」
当たり前のように隣へ座る。
金髪が光を受けてふわりと揺れ、微笑むその顔は、まさに“太陽”みたいだった。
リリアは、少しだけ目をそらす。
「た、たまたまここに来ただけだよ……」
「そっか。リリア、陽が好きだからね」
「え、えぇ……」
なんでそんな優しい言い方するの。
そんなの、好きになるに決まってるじゃん。
いつもアシルはこんな感じで、自然体の善意が過剰なのだ。
だからリリアは落ち着かない。
「今日はセラ先輩と実習だったんだって?」
「うん……」
「大丈夫? あの人けっこう辛辣だから」
「う、うん……まあ……なんとか……」
なんとか、である。
半分はセラに救われ、半分は叱られた。
「リリア、最近疲れてる?」
「えっ?」
「顔がさ、ちょっとだけ……こう、眠そうで……」
「べ、別に、普通だよ!」
「そっか。ならよかった」
アシルはそのままお弁当を開き、嬉しそうに話を振ってくる。
「今日はさ、魔力制御の授業でね、先生に褒められたんだよ。珍しく」
「すごいねアシル……! やっぱり上手だもん」
「えへへ、そうかな」
彼はポジティブをまき散らす才能がある。
喋っているだけで周囲が明るくなる。
魔導樹の葉が光を反射して舞い落ち、アシルの肩にひらりと乗る。
その穏やかな昼休みを、突然遮ったのは──
「……あんたら、仲良しだねぇ」
低くぼそっとした声。
「せ、セラ先輩!?」
いつの間にか魔導樹の影に立っていた。
風も音もなく近づいてくるその姿は、もはやホラーである。
「いや、仲良しじゃなくて、幼馴染なだけでして……!」
「あ、あはは……セラ先輩、こんにちは」
アシルは軽く手を挙げて笑う。
セラはアシルの笑顔に一瞬だけ目をそらして、ふっと口元を引きつらせた。
「……まぶしい」
「へ?」
「いや、なんでもない。陽キャまぶしい。つらい」
「えぇ……」
アシルは苦笑しているが、悪意は感じていないらしい。
セラは寝ぼけた目でリリアのお弁当を覗き込む。
「パン二つ……学習しないねぇ」
「ひっ……!」
「辛いスープ行くって言ったのに。ほんとに行く気なかったでしょ」
「だ、だって辛いの苦手で……!」
「だから面白いって言ったのに」
「だからその勧め方おかしいんですよ!!」
アシルはくすっと笑い、セラは無表情のまま座り込み、三人は自然と輪になる。
学院の鐘が遠くで鳴り、風が草を揺らす。
本当に、ただの昼休みだった。
アシルがふと空を見上げる。
「もうすぐ大精霊祭だね」
「え、あ……そうだね……」
リリアが無意識に胸へ手を当てる。
霊脈のざわめきが、ほんの少しだけ響いた気がした。
でも今日は日常だ。
だから、それを深く考えない。
アシルが笑って言う。
「今年はリリアと一緒に屋台回りたいな」
「っ……!」
セラが横目でじとっと見ながら言う。
「……思わせぶりだよ、アシル。罪深い」
「えっ、え、どういう意味!?」
「リリアの顔見て」
「リ、リリア!? なんでそんな赤いの!?」
「う、うるさい!! 何もないよ!!」




