第八話 訪問
そんな時に、二人の来客が見えた。
それこそまさに、ミルセンだ。
「ルリアの件について話がある」
そう言ってミルセンはルリアを睨む。
「下がっといてくれ」
セルギスはそう言ってルリアを下げる。
「それでうちに何の用事ですか?」
「先ほども言っただろ。それに分かってるだろ。ルリアを返せ」
「ルリアを返せとはどういった領分で」
「ああ、お金は返す。だからルリアを返せ」
どう言った話だろうかと思ったが、すぐにセルギスは気づいた。
不要となった聖女を投獄しておいて、いざ欲しくなったらその時は取り返しに行くという事だ。
何と卑劣なのだろうか。
それは、セルギスの正義に反する。
「ふざけるなよ」
そう言おうと思ったが、流石に相手も一国の皇太子。
喧嘩腰になってはいけない。
無駄な国同士の争いをおこすほど国力があるわけではないのだから。
「それは出来ません。そもそもあのお金は彼女を我が国に連れて来るお金というよりも、釈放金という意味合いが大きかったはず。なのになぜ今更そんなことを言ってくるのでしょうか」
あくまでも穏便に。
とはいえ、少し挑発的な感じはするが。
「まさか、今更ルリアが欲しくなったとでも言いませんよね。聖女の力が無いと勝手に決めつけたのはそちらだというのに」
そのセルギスの声は少し厳しいものだ。
ルリアを、彼女をあそこまで落ち込ませた原因が今目の前にいる男だ。
許せるはずがない。
ミルセンのせいで、苦しんでいるのだから。
「それにだ、そちらの女性は誰だ?」
「わたくしはミルセン様の妻です」
「妻、ルリアを追い払った後すぐに彼女を妻に向かい入れたのか。もしやルリアを追い払った理由とは、彼女が不要だったのか? そう、それこそルリアを向かい入れるために」
そのセルギスの率直な疑問に、ミルセンは唇をかんだ。
「それに、一国の皇太子がこんなみっともない様を見せつけてどうするんだ。これは、国力に関係する重大な話だ。そこに乗り込んできてこのありさま、一国の王を引きつこうとしているものとして愚かすぎる」
いつの間にか口が悪くなるセルギス。
最初に挑発しない様にしようと思ったのは何だったのか。
だが、話しているうちにだんだんと怒りがわいてくるのだから仕方ない。
「それにアポもなしで。よく周りの大臣たちが納得したものだ」
「くそ、戦争になってもいいのか?」
「戦争を起こす起こさないを決めるのはこちら側だ。しかし、理由をどう説明するのだ」
「貴様らが聖女を奪ったとでも言えば理由なんとでもなる」
「お金まで渡しているのに、そんな話になろうはずがない。我が国にも伝わってるのに、そんなので我が国が悪いことになるわけがない。もしそんなことになれば諸外国の信頼はどうなる。そのような国を信頼しようとする国はいないと思うが」
その言葉にミルセンは押し黙った。
「さて、ここで立ち話もどうだ。今から応接間に案内してあげよう」
ミルセンはまた下唇をかむ。
完全な強者の余裕を見せる皇太子。
今話し合ってルリアを返してくれるはずがない。
それどころか、ミルセン側が不利になる可能性だって高い。
「分かった。ここは引き下がろう。しかし覚悟しておいてくれよ!!」
そんな捨て台詞を吐き、ミルセンは自国へと帰っていくのであった。
だが、その帰りを止める者がいた。
それこそまさに、ルリアだ。
「なんだ」
「話し合いましょう」
ルリアが冷たい視線をぶつける。
「っ」
「貴方と話す言葉はありませんわ」
「せっかく来たのですから。場合によってはそちらに戻ることも考えますから。それに、私と対話できないのに私を取り戻そうと?」
にこやかな笑顔で圧を押し付けるルリア。
その目からは底知れぬ圧。
流石に二人は頷くしかなかった。
ルリアとしては、今この、ルリアが優位に立っている状況でミルセンを虐めたいそんな思惑があった。
今のミルセンの、顔。ルリアにとっては興奮するような顔だ。
苦痛にまみれた顔。もっと見てみたい。しんな開館を覚える。
今まで見る線には足蹴にされてしまっていたのだ。
今くらいは快感を覚えても誰にも怒られる筋合いはない。
「今までセルギスさまに色々と言われて参ってると思います。でもそれは私も同じ考えです。私はあなたたちの行いは許せていません」
許せるわけがない。
まさに人格を否定され、嘘つき呼ばわれされ、挙句の果てには苦しい拷問まで受けた。
これで許せたらルリアはただの言葉通りの意味の聖女という事になる。
「せっかく来たんです。私の力をお見せいたしましょう」
そう言ったルリアの顔には笑みがこぼれている。
よほどの鈍感以外、ミルセンに対して笑っているとわかるだろう。
そしてミルセンはそこまでの鈍感ではない。
しっかりとルリアの悪意は伝わった。
「えい」
ルリアは早速、天井に火の玉を作り出す。
それも密度の高い火球だ。
その炎は周りに熱を伝わらせ、部屋の気温は上昇していく。
その部屋の熱はミルセンの肌から汗を流させる。
もの凄い熱を帯びている部屋。
「もういい分かった」
ミルセンは投げやりに言った。
「俺が悪かった」
「本当にそう、思ってるの?」
ルリアはまた冷たい目で睨む。
一気にその部屋の空気はミルセン両夫婦の処刑場と化している。
ルリアを取り戻すためにやってきたはずなのに。
ルリアの炎はもう消えている。なのに、ミルセンの肌からは汗が止まらない。
それは冷や汗だとわかっている。
今ルリアに詰められているせいだ。
「これがルリア、貴様の復讐だとはわかっているが、もう許してくれないか」
「だめ。私の苦しみ。それを味わわないまま国に帰るなんて許さないから。私がいいというまで謝ってください」
そのルリアの目は軽い殺意をはらんでいる。
「ルリア、お前は」
「そうですよ。私は今までミルセン様、貴方に尽くしてきていました。だけど今は苦しめられています。それが許せないんです。誠心誠意謝罪してください」
「ルリア」
「私はこの場で決着をつけたいんです。絶望させてやりたいんです」
「ルリア!!」
セルギスの怒号が轟く。
ルリアは思わず振り向く。
セルギスが騒騒しい険相でルリアを睨む。
その影響でルリアは「え?」と思わず声を漏らす。
怒るなら、怒鳴るなら、その相手はミルセン達でなくてはならないはずだ。
なのになぜ、その相手が自分なのだろうか。
「ルリア、お前の気持ちも分かる。だが、それ以上はだめだ」
「だめって」
「そうだ。だめなんだ。無抵抗の相手をボコるのがお前のしたい事なのか? 違うだろ」
「違うくは……」
そう言いかけて、ルリアは口を積むんだ。
今は違う。
楽しいが、楽しくはない。それが今の率直な気持ちだ。
あいつミルセンを完膚無きままに叩き潰したい。だが、それは今ではない。
「ルリア、正々堂々と戦おう」
「……ええ」
ルリアは渋々ながら納得をした。
その後、ミルセンたちは帰っちった。
辛そうな顔をして。
「復讐ならいつでもできるのね」
ルリアは呟く。それだけならいつでも可能だ。
そう、王宮に毒をまくだとか、水を奪うなどいろいろと可能だ。
しかし、それではだめだ。ただのテロをするつもりはない。
ミルセン夫婦だけを苦しめる手を打たないと。




