第4話 目的
「はは、見ろよ。これだけのお金を得られたぞ」
ミルセンは、札束をビラビラとさせながら、笑う。
あんな嘘つきをこんな高値で手放せたのだ。
こんなに、嬉しい事はない。
「そうねぇ。わたくしたちの自由に使えるお金。ふふふ、これだけの金にあの無能がなったんだからほめるべきことよねえ」
彼女もまた悦びに満ちた笑みを浮かべる。
「ああ、そうだな。処刑したかったがやむを得ない。何しろこれだけの金が手に入ったんだからな。本当に、あんな無能のためにこんな大金叩いて、滑稽なものだ」
本当に、あの男は馬鹿だ、とまた笑みを浮かべる。
「ええ、そうね」
「そういやだ、そろそろ婚約したと伝えないか?」
婚約した。もうこの国に、ルリアはいないのだ。
もう、隠す意味もない。
「あら、いいわね」
そして二人は、いそいそと服を脱ぎ、互いに抱き合った。
★
「入るぞ」
ルリアがベッドに寝ころんでいると、セルギスが部屋に入ってきた。
ルリアは咄嗟に身支度を整え、どうぞと言った。
それを聞き、セルギスが部屋に入ってくる。
その姿は先ほどの凛々しかった姿とは違い、寝間着姿だ。
一体これから何をするつもりなのだろうか。
ルリアが身構えていると、一言セルギスは呟く。
「聖女には覚醒条件があると俺は思っている」
そう呟いたのち、
「俺が知ってる例題の聖女には中々覚醒しなかったものもいるらしい。その中で様々な手段が用意された。お前はまだ18才だろう。諦めるには早すぎる。一緒に聖女覚醒のために頑張らないか?
お前だってあいつに言われぱっなしはいやだろう」
「ええ」
ルリアは頷く。
馬鹿にされっぱなしが嫌なのはルリアも同じなのだ。
見返してやりたい。その気持ちは当然身に持っている。
「それで、こういう話を訊いたことがある。男女二人が関係を持つと、聖女の力が現れると」
「っそれは」
ルリアも聴いたことがある。過去にそれで覚醒した人がいると。
それは元から知っていた。だけど、あえて試していなかった。
ミルセンと男女の関係を持つなど、いやだったし。
そもそも、正直なところ、あまり信用してはいなかった。
理由は、そう。多少破廉恥だったからという事もある。
ルリアがそう、顔をゆがませていると、
「分かった。無理強いするわけでもないし、そもそもこれがルリアにも当てはまってるかはわからない。とりあえず俺はとりあえず焦りは禁物だからな。気が向いたら行ってくれたらいい」
その言葉を聞き、ルリアは軽くほっと息をついた。
「すまんな。これだと、俺が変態なように見えただろう」
「……いえ、そんなことは」
「本当のことを言ってくれたらいい。それに事実なのだから」
「え?」
事実?
この人が変態?
「そうだ、何か欲しいものがあったら言ってくれ。何でもそろえるから」
「ありがとうございます」
ルリアもまた、セルギスに微笑みかけた。
結局聞けずじまいだ。というよりも
とは言っても、何かしたいことがあるわけではない。
というよりも急に自由を与えられて何がしたいかどうかわからないのだ。
今は平穏な生活が出来ればいい。
「ふわあ」
ルリアは伸びをして、そのまま再び寝転がった。
今は十分な睡眠と運動さえできればいい。
そうだ、とルリアは起き上がる。
「最近体が鈍ってるのよね」
そして、ルリアは伸びをする。
翌日から剣のけいこをしよう。
そうすれば、きっと運動不足も解消される。
聖女時代にも実は何度か剣の稽古をしていたことがあった。
そのおかげで女ながら並の兵士よりも強くなれたのだ。
それにしても、これからどうしようか。
困ったことに、何もまだ決まっていないのだ。
そもそもここで何が求められているのかすらも分からない。
だけど、唯一自由にしていいとは言われている。
運動以外に何ができるだろうか。
だが、考えれば考えるほどしたいことが増えていく。
今まで体の維持に気を使っていた。
今はケーキをたらふく食べられる。
美容は今までしていたが、それでも周りに決められた髪型や服をしていた。ショッピングというのもありかもしれない。
そのような事を考えて行けば、段々と夢が広がっていく。
だが、違う。
結局ルリアのしたいことは、そう考えれば一つしかない。
本当にしたい事、それは聖女の力を発芽させることだ。
周りに合わせて聖女を演じる、のはもう嫌だ。
だが、それ所謂聖女になりたくないとはならない。
聖女の力はそれこそ、世界を変えうる力。
世界を一人で世界の形を変革することも可能だ。
だけどそれが狙いじゃない。
「私は、私のことを馬鹿にした人たちのことが、許せない」
私怨だ。
いつまでも聖女の力が発芽しないと、笑っていたあの人たちへの復讐だ。
そして見せつけてやるのだ。自分の聖女としての力で発展させて。
「性行為は流石に怖いけれども」
それをするなら親密になってからだ。それまでは、別の方法を試したいのだ。
そして、夕食の時間となった。
夕食も豪華で、減ったお腹によく効く。
またしてもルシアはパクパクと人目もはばからずに食べまくった。
淑女なら、こんなはしたない食べ方をしないだろうに。
だが、そんな彼女を見て、セルギスは笑った。
「何ですか?」
ルリアは疑問に満ちているかのような顔を見せる。
「かわいい」
そう呟いたセルギスに対して、ルリアは思わず顔を赤くしてしまった。
「思えば、ミルセン様は私にそう言った言葉はあまりかけてくれませんでした」
「そうなのか?」
その言葉にルリアはただ頷いた。
「なるほどな。ま、ミルセン皇太子は最低だな。人を聖女としてしか見てなかったからこそ、個人を見てなかったんだろうな」
「そう言ってくれること自体が嬉しいです。それが、例えお世辞でも」
実際に聖女としての側面しか見て否かtぅた人たちは皆ルリアのことをほめてくれた。
それは、聖女としての力がちうまでも発芽しないと周りがルリアを見捨てる前の話だ。
最初は、ルリアも素直に喜んでいた。
だが、ルリアに対する不満の声が聞こえ始めてからは、お世辞であると気づいた。
表情が引きつっていたからだ。
「お世辞なんかじゃないよ。俺はお世辞でそんなことは言わない」
「そうですか、ありがとうございます」
そう言ってルリアは頭を下げた。
「ご飯は美味しいか」
「絶品です」
「それならよかった」
そう言ってセルギスは笑う。
ルリアはいつしかその笑顔を見ること自体が楽しくなっていってることに気が付いた。
「明日、行きたい所とかあるか?」
「そうですね。明日はとりあえずゆっくりと町をめぐりたいです。そして、喫茶店でお茶を」
地味ながらルリアが今までしたことのなかった行為だ。
待ちに出かけることなど今まで一度もなかったのだから。
色々な風習で雁字搦めだったのだから。
「俺も一緒していいか?」
「ご自由に」
嫌ではない。
むしろ、邪魔さえしてこないなら着いて来てもらった方がいい気がする。
それが覚醒につながってくれる気がするのだから。




