第2話 訪問
その頃隣国アテルセスでは。
「あの、ラトリア帝国の聖女が偽物だったと」
そう、新聞を読む男が一人。
その部屋は豪華な間取りであった。
男は、一国の王太子、セルギスだ。
彼はまだ21と若いが、既に国の中核の位置におり、既に父王の代わりに政を行う権利を手にしている。
「理由は分からないが、酷い話だ」
以前彼女に会った時。
ミルセン皇太子の隣にいたルリア。
あの眩しい笑顔が特徴的な彼女が、そんな事を企むような感じはなかった。
それに付属して、ミルセンの暗殺容疑まで加えられている。
明らかに、証拠が出そろってないのに、断罪を始めようとしている。
「これは調べる価値がありそうだな。俺にとっても、この国にとっても」
伝聞なので、詳細までは分からない。
だが、少なくともおかしいと思える部分は沢山ある。
セルギス自ら、ラトリア帝国へ訪れなくては。
そこに、重要な何かが隠されているのだから。
★
「ミルセン様」
レアナはミルセンのたくましい体をぎゅっとつかむ。
「いつ頃正式に王妃として迎えてくださるの?」
「すぐにやると、ボロが出る。しばらく待った方がいい」
「えー、わたくし、早くミルセン様と一緒になりたい」
「それは後の話だ。まだ婚約もしてないのに懐妊したらおかしなことになるからな」
そう言ってミルセンはレアナをなだめる。
可愛い、レアナ。早く一緒になりたい。そう思っている。
「皇太子殿下」
そこに、一人の兵士が入ってきた。
二人でいちゃついていたさなかだったので、二人はばっと体裁をとりなした。
そして、ミルセンは一言。
「馬鹿者、勝手に入ってくるな」
もし、二人で行為をしてたら。どうなっていたか分からない。
「それは失礼しました。しかし」
「しかし?」
「隣国、アテルセス王国の王太子殿が来訪されました」
「なに?」
ミルセンは目を見開く。
急だ。
急にアポなしで来訪してきた。本来外交に来るならば書状の一つでも渡すのが筋だろう。
となれば、だ。ミルセンには理由など分かりきっている。
恐らく、聖女関係の話だろう。
それ以外には考えられなかった。
ミルセンはすぐに窓の外を見る。
そこには屈強な護衛を多数連れたセルギスがいた。
「面倒な」
追い払ってしまいたい。しかし、ここでシンプルに追い払うのにも問題がある。
今は病気がちの父に代わり、実権を持ち始めている時期。
ここで、もめ事など起こしたくはないのだ。
特に、多方面の国と貿易で益を成しているアテルセス王国ともなれば。
「レアナ。行ってくるよ」
「わたくしもつれて行ってください」
「だめだ。……お前とは後でいくらでも一緒にいてやるから」
ミルセンは優しくレアナを抱きしめ、
「じゃあ、行ってくる」
そのままミルセンは下へと出向いた。
★
(何を考えているのだ。内容次第によっては、許さんぞ)
ミルセンは心の中でそう、いかった。ようやく邪魔者を排除できそうな状況だったのに、また新たな邪魔だ。
そして怒る心を抑えながら、セルギスの目の前に立つ。
「皇太子のミルセン・ラトリアだ」
そう、ミルセンは口にした。
「本日はどのような用件でこちらに来られたのか、それを知りたい」
そう、ミルセンが口にすると、王太子は目を見開き、
「今日は聖女殿を幽閉したという話を訊いて、ここに来たんだ」
やはりかと、ミルセンは思った。
あまり受け入れたくはないが。
「それは本当だ」
声を低くしてミルセンは言う。
「しかし、奴は聖女などではない。聖女と偽り俺に近づいた。ただの咎人だ」
「なるほどな。しかし、聖女ではないという理由はいかほどか」
「決まっている。奴はいつまでたっても魔法が使えん。そんな者が聖女であろうはずがない」
聖女は莫大な魔力を扱える。
しかし、聖女じゃなくても魔法は鍛錬したら使える。
「しかし、聖女の印は出たのであろう?」
痣の事だ。
「だが、俺は見ていないし、そもそも偽物だろ。大方、火で焼いたかそんな物だろう」
「なるほど。偽物ならば、必要ないな」
「何が言いたい?」
「単純な話だ。俺にくれないか?」
その言葉を聞き、ミルセンは少し固まった。
(あんなクズを欲しいだと? 何を考えてるんだ)
意味が不明だ。
国の害となるだけのはずなのに。
「聞こえていなかったか。俺にくれ」
その二言目を聞き、ミルセンは静かに「ふふ」と笑った。
「あのクズがそんなにお気に入りなのですか?」
本当はすぐに上げてもいい。しかし、
「あげましょうと、すぐに言う訳がありません。彼女は聖女を偽り、この俺に近づき、暗殺を示唆した罪で投獄してあります。そしてきちんと処刑しなければなりません。この国の威厳を取り戻すためにも」
犯罪者は処刑しないといけない。
そうしないと、国の風紀が乱されるからだ。
それも、公開処刑にしてやった方がいいだろう。
勿論二度とこんな愚かな真似をする輩が現れない様に。
「なら、貰い受けるのは無理でも、一目会わせてくれないか?」
「それくらいならいいでしょう」
会わせるだけなら。奪還される恐れもない。
「ただし、ボディチェックはさせてもらいますが」
★
「出ろ」
部屋の中で静かに眠っていたルリアはその一言で起こされた。
静かに目を開ける。まだ、亮の手は後ろに縛られたままだった。
「面会だ」
そう言われ、枷と目隠しを外された。
「ある男がお前の顔を一目見たいんだとさ。この世に物好きもいるもんだな」
そう高笑いする看守。
ルリアの敵は何もミルセンだけではないのだ。
看守もしっかりとルリアのことをぞんざいに扱っている。
そのことについては諦めもしているが、心底腹が立つ。
その扱いに、何の抵抗も出来ない自分にも。
そして、看守に見張られながら、階段を上がっていく。
そして、陽の下を歩いていく。
陽の光を浴びるのは数十日ぶりだ。
気持ちがいい。
(いったい今からどうなるのかしら)
生きるのだろうか。それとも、結局また闇の中へと送られるのだろうか。
「ここだ」
そして、イスに座らされ、両手をまた縛られた。
久しぶりの娑婆だ。
そして、顔を上げる。そこにいたのは、見知った顔だった。
彼とは昔あったことがあった。
隣国の王太子セルギスだ。
両の腕は後ろで縛られたまま。
ルリアは彼の顔をじっと見る。
隣のミルセンの顔は無視して。
ルリアがちょこんと座っていると、王太子は口を開く。
「君は嘘をついているのか?」
ルリアは少しの間押し黙った。
嘘をついている、というのは、聖女かどうかという事だろうか。
ルリアは首を振り、「私は嘘はついてないわ」と言った。
「何を言うか」
隣に座るミルセンがルリアの首を勢い掴む。
その強い力で絞められたせいで、ルリアは上手く息が出来ない。
もう、首を絞められることは慣れていた。度々ミルセンの八つ当たりに巻き込まれていたのだ。
「やめてくれ。殺す気か」
このままでは死んでしまう。
「ああ、そうだな」そう言ってミルセンは首を絞める手を緩める。「とはいえ、今後殺す気ではあるが」
「君は死なせていいと思っているのか?」
その言葉にミルセンは無言で首を傾ける。
「聖女とはこの世の秩序を担う者。安易に死なせれば世界のバランスが崩れる」
「だから、こいつは聖女では、ない!!」
二人の男がにらみ合う。
一色触発の雰囲気だ。周りにいる護衛達も警戒の色を強めている。
何かあれば剣を抜き、戦いに転ずる覚悟だ。
「どうしたら彼女を俺にくれる?」
ルリアはびっくりする。自身の知らない間に話が進んでいる。
ここに呼ばれたのも、そう言う話だったのか。
貰ってくれるならありがたい。どういう形であれ、生きていたい。
「あげたくはない、と言いたいところだが、その場合どれくらいの金をくれるかによるな」
そう言ってお金のマークを指で使う。
「なら、一千万でどうだ」
その言葉に、ミルセンは押し黙った。
その額は恐ろしい額だ。
聖女を買うとなれば安い値段ではある。
しかし、偽物の聖女を買うのにその額は高すぎる。そう、一人の女を買うにはだ。
ミルセンはニヤリと笑った。
そして、ミルセンは、「分かった。乗ろう」そう言った。
そして、拘束を解かれ、セルギスの元へと行く。
「せいぜい高い買い物をしたと後悔しろ」
そうぼそっと言われたことに、気が付いたが、ルリアは訊かなかったことにした。
これからのことは何もわからない、が、今よりも下になることはない。
今の状況が最悪なのだから。




