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マイペースに異世界暮らし

こちらも招かれざる客

作者: 汐琉

書き忘れてましたが、誤字脱字報告ありがとうございますm(_ _)m


円錐を三角錐と勘違いしていたお馬鹿は私です。


三角錐の帽子って被りにくくて仕方ないだろ、とセルフ突っ込みいたしました(*ノω・*)テヘ


他にも見つかりましたら、誤字脱字報告いただくと助かりますm(_ _)m

●8月▽日




 そろそろ八月が終わるが、まだまだ長い休暇中の私には特に関係はない。

 せいぜい涼しくなると良いなぁとか、九月は何を植えようかと悩むぐらいだが、相変わらず家庭菜園の作物は少し変わっていて、本来の季節をかるーく無視している。

 そろそろ秋の声が聞こえてくる

 なんだったら先日の早朝の雨のおかげか元気になった気すらする。

 


「キュウリもトマトもそろそろ終わりの季節じゃないかな」



 まだまだ花を咲かせていて、実をつける気満々の野菜達へしゃがみ込んで話しかけていると、野菜達ではない存在が顕著な反応を示す。


「きゅわ!? きゅわきゅわきゅきゅー!」


 なんですと!? まだ枯れないでーってところだろうか、と脳内でカッパくんの言葉を脳内で適当翻訳しながら、慌てているカッパくんの頭をぽふぽふと撫でる。


「大丈夫だよ。うちの家庭菜園のキュウリとトマトはまだまだやる気みたいだから、しばらくは枯れないと思うよ。終わりの季節っていうのは、あくまでも世間一般かな」


 カッパくんが安心するように言い聞かせながら、私は未だに艶々な家庭菜園の野菜達を見る。

 絶対うちの家庭菜園は世間一般からズレている。

 まぁ、最近はハウスとか色々な方法で季節外れの野菜も採れるから、何処かへ大量に持ち込まない限りは悪目立ちはしないだろう。

 私の言葉を聞いたカッパくんは、キラキラとした表情でキュウリとトマトを手にくるくると回り出す。

 植えられた野菜の棚の間はあまり広くないが、カッパくんは器用にくるくると回っている。

「まったく、何をしているんですか」

 カッパくんの可愛さに癒されていると、呆れたような声と共に竹笠を被ったきゅうさんがやって来る。

「キュウリとトマトに捧げる歓喜の舞……とか?」

「きゅわ!」

 適当に言ってみたら正解だったらしい。

 満面の笑顔のカッパくんが大きく頷いていてやっぱり可愛い。


「では、せっかくなので、そのキュウリとトマトはお昼に食べようか……っいたた」


 しゃがみ込んだ体勢から立ち上がろうとした私だったが、膝に走った鈍い痛みに思わず情けない声を上げてしまう。

 先日不審者なおじさんから逃げ出そうとして思い切り転けて、打ちつけた膝が痛んだのだ。

 そこまで大騒ぎする痛みじゃないので、苦笑いしながら改めて立ち上がろうとしたのだが……。


「きゅ、きゅわ!?」


「傷が痛みますか!?」


 バッとこちらを向いて勢いよく詰め寄って来て体を支えてくれるカッパくんときゅうさんに、私は微笑みながら首を横に振る。


「ごめんごめん、少し膝が痛んだだけだよ。二人のおかげで何ともなかったからね、本当にありがとう」


 本当に二人がいなければ、どうなっていた事か。

 思い出すとゾッとするので、深く考えないように忘れる事にはしたが、二人への感謝はきちんと伝えておく。


 そういえばどうでも良い話だが、カッパくんときゅうさんをまとめて脳内で表す時、どうしても二人(?)と疑問符が付く感じになっていたのだが、誰に伝える訳でもないのだからと思い至り、やっと疑問符を付けずに表せるようになった。


 私にとってカッパくんときゅうさん友人のような存在なんだから『二人』で当然だ。

 

 今も二人揃って私の膝をガン見して手をアワアワさせているので、申し訳ないが少し笑いそうになって口元を引き締める。

 心配してくれているのに笑ってしまうのは失礼だろう。



 あの日、大雨が上がってからカッパくんを連れて外の様子を窺ったが、おじさんの姿は影も形もなかった。

 ほんの少し鉄錆びた臭いがした気もしたが、それもすぐわからなくなる。

 きゅうさんの姿もなかったので、結局おじさんがどうなったか聞きそびれてしまったが、もう気にする必要はないだろう。


 ──きっと、あのおじさんには二度と会わない。


 しかし、反省すべき点もある。


「我が家は、もう少し防犯に力を入れるべきかな」


 毎回カッパくん達が助けに来てくれるとは限らないし、自衛の手段は持っていて困る事はないだろう。

 そう思っての独り言だったのだが、それを聞いたカッパくんが顕著な反応を示す。


「きゅっ!? きゅわきゅわわぁ!」


 私の足へ抱きついてきて、やたらと何か訴えてくれているが、慌てているのがわかるだけで何を言いたいか珍しく伝わって来ない。

 なだめるようにポンポンと背中を叩きながら、助けを求めてきゅうさんを見る。

 すると、きゅうさんも難しい表情で私の方を見ていて、バッチリ目が合った。


「……必要ないと思いますが」


 きゅうさんの発言から察するに、カッパくんは『自分達がいるじゃないすか!?』みたいに訴えている感じだろうか。


 とても心強いが、あまり甘えるのも心苦しい。


 そう思ったのだが、きゅうさんの眼差しが少々刺さるぐらい痛かったので、飲み込んで曖昧に微笑むだけにしておく。



 その後は、二人はやたらと私の怪我を心配してくれて、私はほとんど作業をさせてもらえなかった。



 夕暮れ時、二人を見送って一人になった私は、勝手口から家の中へ戻りながら、ふと良い考えを思いつく。


 これならカッパくん達二人の気遣いを無駄にしないで済むだろう。


「そういう時の連絡先とか調べるぐらいしておけば良いんだ」


 思えば、おじさん襲来の時も、その前のハーピーに襲われた時も連絡先に悩んだのだから、さっさと調べておくべきだった。


 うんうんと頷きながらスマホを手にした私だったが、その画面は真っ黒なままでうんともすんとも言わない。



「………………そういえば、最後に充電したのいつだっけ?」



 記憶を辿った結果、最後に充電したのはこの世界へ転移した日だったと気付く。

 それは充電も切れるだろう。

 レシピを調べる時ぐらいしか使わなくなっていたので、充電が切れそうだと気付かなかった。


 それ以外の時間は、カッパくんと野菜採ったり、カッパくんとお喋りしたり、カッパくんとご飯を食べたり……。


 なんだかとても充実していた。


「…………感動してる場合じゃなかった。充電しないと」


 とりあえず、連絡先を調べるのは、明日でも構わないだろう。



「そんなに頻繁に不審者が来る訳も無いだろうし、ね」



 私はこの後、フラグという目に見えないながら、なんかあるよなぁとなるやつの気配をひたひたと感じる事になる。




●8月▽日 深夜



 お風呂に入って寝る準備をしていた私は、外から複数人の声が聞こえてきて身を固くする。

 東京のような都会ならともかく、私が住むド田舎なこの地域で日付が変わるような真夜中な時間に外で人が騒いでいるなんて、明らかな異常事態だ。

 まだ一昔前の夏の夜ならこの地域にも子供達もたくさんいたので、カブトムシなどを探し回る子供の声が聞こえる事はあったが、今はそれもない。


 それに、カブトムシを探しているとしたら時間が遅すぎるし、何より聞こえてきている声は可愛らしい子供のものではないのは確かだ。

 そもそも、モンスターが普通に存在するこの世界で、夜に出歩くのはかなり勇気がいると思う。



 その不審な声の主達がなんだかこちらへ近づいて来ている気がして、何故だろうと数秒悩んだ私は、すぐ自分の失態に気付く。

 普段はお風呂へ入る前に消している玄関の灯りを、こんな日に限って消し忘れている。

 転移前も転移後もド田舎なこの辺りでは、こんな時間になれば街灯の光と自販機ぐらいしか光源がなくなる。

 年配の方が多いので、皆さんさっさと鍵をかけて、玄関の灯りを早々と消してしまうのだ。

 つまり、玄関の灯りが点いている我が家は、この時間帯かなり目を惹くはずだ。

 外から見れば『起きてる人がいますよー』と看板をぶら下げているような状態だろう。

 だからといって、今さら玄関の灯りを消してもバレバレ過ぎて無意味だ。



『……んな……なか……なん……わた……』



『しか……でしょ……』



 軽く言い争っているなぁというのがわかるほど近づいて来た声の主達は、やはりというかうちの玄関前で足を止めた。

 うちの玄関の戸は、格子の間にすりガラスの嵌った引き戸なので、玄関前の複数の人影がバッチリ見えている。

 私は茶の間から顔だけ出す感じで様子見だ。

 我が家は玄関から入って廊下が真っ直ぐ奥へ続く感じなので、玄関を開けてしまうと何か色々心許ない。

 じっと様子を窺っていると、さらに人影は近づいて来たようで、ガラス越しの人影の色さえ認識出来るようになる。

 それは、揃って見覚えのあるカーキ色をしていて。

 つまり、外にいる複数の人達は──もしかして?


『すみません、ご在宅でしょうか?』


『おい! いるのはわかっている! 俺を待たせるな!』


 引き戸越しにかけられる、そこそこ若そうな男性の声二人分。残念ながらどちらも聞き覚えがない。

 しかし、あぁやって騒がれたら答えるしかない。

 何より、ご近所迷惑だし。

 


 今気付きました(てい)で、ゆっくりと玄関へ向かっていく。


「はぁい、こんな時間にどちら様ですか?」


 相手がわからないので他所行きの口調で話しかけながら、サンダルを履いて玄関の引き戸越しに問いかける。

 いくら私でもこの時間に来た相手を前にいきなり戸を開けたりはしない。

 

『ぐっ!? 何様のつも…………』


『はいはい、黙っててくださいねぇ。申し訳ありません、防衛隊の者なんですが、少々お聞きしたい事がありまして。疑わしいのなら、このままでも構いませんので、お話だけ聞かせて……』


『まどろっこしい! さっさと開け……』「っ、開いてるじゃないか」


 うん、私、鍵かけてなかったぽい。


 防犯に力を入れるとか誰が言ってるんだって話だったね。


 ガラッと引き戸が開かれ、引き戸越しでくぐもっていた声が一気にクリアになり、声の主達とご対面してしまった。


 玄関前に立っていたのは、私が予想した通りの服装──防衛隊のカーキ色の制服を着た四人組だ。

 さっきまで玄関前で聞こえてたのは二人分の声なので、前に立つ二人の男性が喋っていたんだろう。

 後ろの二人はうちの玄関からの灯りと少し離れた位置の街灯しか光源がないので顔はよく見えないが、こちらも体格からして男性だと思う。


「おい! 何故さっさと開けないんだ!」


 クリアになった怒鳴り声を発したのは、二十代後半ぐらいの少々小太りで嫌みっぽい顔をした男性の方だ。


「一般人相手に怒鳴るのは止めてくださいねぇ」


 柔らかい口調ながら、隣の小太り男性を笑っていない目で見やってたしなめるのは、同じ年代の男性に見えるがこちらは細身だ。

 小太りの男性の態度からして、いつもこの細身の男性がフォローしているんだろう。


「何を言う! 俺達が守ってやってるから、こいつらはのうのうと生きていられるんだぞ!」


 そして、いつも聞く気がないんであろう小太り男性は、顔を真っ赤にして細身の男性を睨んで私へ向かって指を差してくる。

 他人を指差しちゃいけませんって親に習わなかったのかな。


 そんな事を遠い目しながら考えつつ、曖昧に微笑んだまま佇んでいると、小太りの男性からチッと舌打ちされる。

「この辺りに不審者が出たという話を聞きに来てやったんだ、ありがたく思え!」

「……申し訳ありませんが、不審者の目撃情報がありまして、何かご存知じゃないでしょうか」

 小太りの男性の言葉を華麗にスルーし、細身の男性が微笑んで穏やかに問いかけてくる。

 言ってる内容はほとんど同じだが、言い方って大事だよねってお話だ。

 だから私も、細身の男性の方だけを見て答える。


「……たぶんですが、数日前に見かけましたが、それ以降は見てません」


 嘘は言っていない。


 もう(・・)見る事はないんだから、嘘ではない。


 私の答えを聞いた小太りの男性は、さらに顔を真っ赤にして唾を飛ばさんばかりの勢いで怒鳴ってくる。


「役立たずが……! せめて、餌の役目ぐらい……ぐ……っ!? 何を!?」


 思わず玄関の上がり框の上で数歩後退った私の目に映ったのは、絞り落とさんばかりの勢いで掴まれた小太りの男性の腕だ。

 先ほどまでとは違い、痛みで顔を歪める小太りの男性。


 お前に言ってねぇよと内心で突っ込みかけていた私は、きょとんとして痛みに呻く小太りの男性を見ている。


 ついに細身の男性がブチ切れたのかと思ったが、小太りの男性の腕を掴んでいるのは背後から伸びてきた腕のようだ。

 無言でいた後ろ二人のどちらかが実力行使で止めたのかとも思ったが、違った。

 小太りの男性が膝をついたおかげで見えた腕の主は、見覚えのある顔をしていて。



「ごめんねぇ、コレはこっちできちんと叱っておくから、言いつけ(・・・・)ないでね〜」


 いつも通りの、ゆるい笑顔とゆるい口調。


 見慣れた気すらするゆるいお兄さんのイケメン顔に、私は言われた意味もわからず頷いておく。


「何をする!? 俺は……」


 ゆるいお兄さんに連れられて喚く声が遠ざかり、お騒がせしましたと頭を下げた細身の男性が玄関の引き戸を閉めてくれて、そのまま去っていく。




 一気に静かになった家の中、私はとりあえず──。



「鍵をかけよう」



 一人呟いて、玄関の鍵をかけて、灯りを消すのだった。




 布団へ潜り込んで、今日の出来事を思い出していた私は、ふと違和感を覚えて天井を見つめる。



「…………そういえば、あの勢いなのに、あの人達一歩も玄関へ入って来なかった」



 あれだけ無礼っぽかったのにそこだけは律儀かよと布団の中でふふっと笑い、私は目を閉じて眠りへ落ちていく。



 彼らが入ら(・・)なかったのではなく、入れ(・・)なかったのではなんて考える事もなく……。

いつもありがとうございますm(_ _)m


皆々様のおかげでランキング入りしております、ありがとうございます(^^)


ゆるいお兄さんが思わせぶりな発言をしていますが、どちらの意味でしょうかね。

言いつけられると困るのは防衛隊の本部的な所なのか、それとも……?


そして、あの無礼な小太りの男性は防衛隊のルール的なやつで『入ら』なかったのか、何かを感じて『入れ』なかったのか。


なんて事をぶっ込んだのに、ゆるいままの主人公です(*´∀`*)

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連載形式にして頂けると読み易くて嬉しいのですが。
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