第98話プロってすごいね
「「これは……規模がデカすぎる」」
「でっかいことはいい事でしょう?」
「……どうでござろう、ワタヌキ氏? 拙者はほぼ同意でござるが?」
「余裕じゃないか桃山氏……どちらも良くてみんないい。小さい事はステータス派を切り捨てるのはいかがなものなのだろうか?」
どんな大会に参加することになるのか? そこのところをやっと教えてもらった僕らの反応がこれである。
余裕がある? とんでもない。混乱しすぎて血迷っているだけだと主張したかった。
「何とかなりますよ。ましてエキシビジョンなんて余興です。でも出るだけでも注目度抜群! 大変お得ですね!」
「確かに……」
「そりゃそうでござるが……分不相応にもほどがあるというか」
ダンジョンエキスポとは?
最新のダンジョン研究を発表する祭典で、国が主催し様々な企業が出資もしている大規模な催しだった。
CMもバンバンやっているし、この学校にだってポスターが貼ってある。
そんな中にレイナさんのコネでポロリとエキシビジョンマッチに出場というのは……タナボタにもほどがあるのではないか?
というかガチ勢に出たい人間はごまんといる気がした。
戸惑う僕らにレイナさんは肩をすくめ、しかし自信満々の表情でニッコリ笑うとサムズアップで言った。
「ワタシは全然大丈夫だと思います! 相手をぼっこぼこにして視線をワタシ達で独占です!」
そんな風になるかなぁ。
極めて疑問の残る未来設計に僕困惑である。
「ああ、もうOKの返事は出してるので、断るのはなしでお願いします! お祭りなのでコスプレもOKです! もう許可ももらってますよ!」
「!!」
だだし、妙なところの根回しは完璧らしい。
これは、覚悟をさっさと決めてしまわないといけないようだった。
というわけで僕はとある思い付きを実行するために、学校に休みを取ってとある場所にやって来ていた。
「……僕もよくやるよね」
『いいじゃないか。君のアイディアは実にユニークだと思うよ?』
「なんか嬉しそう?」
『そりゃあそうだよ。君が晴れの舞台にお洒落をしようというんだ。君の権能としては、全力でサポートしたいところだよね』
「そういうかんじなんだ……なんというか、ファッション感覚?」
何本も電車を乗り継いで、やって来たのはとある町工場である。
攻略君の導きに従って選んだ会社は、ダンジョン探索者用の武器を取り扱っている会社なのだが、きちんと調べてみると攻略君がなぜここをお勧めしたのかはよくわかった。
約束の時間の10分前。
こんなことまったく慣れていないから、ソワソワと制服姿で中の様子を窺っていると、先に声を掛けられたのは僕の方だった。
「お、その制服……連絡してきてくれた学生さんやね!」
「あ、はいそうです……。えっと、東雲鉄工さんはこちらで間違いありませんよね?」
声を掛けて来たツナギ姿の男性に、僕は控えめに訊ねた。
すると彼はニカリと明るく笑い、気さくに挨拶してくれた。
「はい。いらっしゃい。じゃあ、事務所の方にいこか? なんか武器作って欲しいって話やけど……」
「あ、じゃあ。少し広い場所でお話聞いてもらっても大丈夫ですか? そっちの方が
依頼の説明をしやすいと思いますから」
「お? そう? じゃあ、工場の方にしよか」
そのまま案内されたのは見たことのない器具が沢山置かれた作業場のような場のような所で、甲高い音がいたるところで聞こえてくる。
そして少し奥まった場所にある部屋に通されると、僕らは改めてお互い挨拶した。
「私、東雲鉄工の社長やっとります、東雲 タクミいいます。よろしく」
「しゃ、社長さんですか……ええっと、僕は竜桜学園一年の、綿貫 鐘太郎です。今日はよろしくお願いします!」
「元気やねー。お客さんなんやから、あんまり固くならんでええよって言っても無理か。学生さんやもんな。そんで? どんな武器をご所望ですか?」
僕のようなオーダーは珍しいことではないのか、手慣れた様子の東雲さんに、僕は少しだけ安心してさっそく依頼を説明することにした。
「ええ、ちょっと変なお願いなんですけど……まずはこいつを見てもらいたいんですが」
「なになに? ダンジョンのすごい装備? 私、そう言うのめっちゃ好きなんですよ」
僕は背負ってきたリュックを床に置いて、手を突っ込む。
「?」
そして中から作って来た超大型のラウンドシールドと鉄巨人の腕を取り出すと、東雲さんは固まってプルプルと震えだした。
僕は構わず鉄巨人の腕を背中に連動させ、ニギニギと指を動かして見せた。
「――――腕やん!」
「そうなんですよ、腕なんです」
「えーなにこれー? めっちゃでっかくてかっこええやん? ほんとなにー?」
ものすごく腕をガン見している東雲さんは興味津々でサブアームを調べ始めた。
どうやらさっそく。興味を引くことには成功したらしい。
まずは掴みはOKである。
「今回お願いしたい依頼は二つあって、一つはこの盾の固定器具。そしてこの腕につける武器でして」
だけど興味津々すぎるので咳払いしてそう言うと、東雲さんはようやく正気に戻った。
「……なるほど? それはめっちゃ興味深いですね。剣ですか? 斧ですか?」
「パイルバンカーでお願いします」
「えー…………マジで言うてる?」
あまりにも浪漫武器で東雲さんを一瞬停止させてしまったが、僕なりに色々考えた末の浪漫武器だった。
「マジです。火薬で杭を打ち出して貫く感じで……こちらでダンジョン用の銃機を開発したことがあると聞いて、ご連絡したんです」
ネットで調べると、一時期そんな試みをしていたと記事になっていた。
火薬や銃器を扱った経験のある場所じゃないと、今回の特殊な依頼は形にすることも難しいだろうから、攻略君が一押ししたのも納得だ。
しかし帰って来たのは難しい表情の苦笑いだった。
「あー……なるほど。初期の頃ですね。でもあれ失敗したんですわ。銃というか長距離を射撃する武器は、弾に魔力が乗りづらい。そこを口径を大きくしてカバーしようとしたんですが……まぁ、魔力の壁は物理じゃ中々越えられんのですよ」
「だからパイルバンカーなんです。至近距離なら火薬を使いつつ、魔力も乗せられるでしょう? まぁ浪漫装備なことは否定しませんが、僕メインウエポンがハンマーでして、面じゃなくて点で攻撃できるようにパターンが出来ると助かるんですよね」
「というと?」
「ようするにハンマーででっかい釘を打てたら刺さるでしょう?」
目指すは二撃必殺である。ドラゴンの頭蓋骨を貫けたことで、いけるという確信もあった。
最近はレベルも上がって、ハンマーの威力も上がって来た。
だがハンマーでは叩き潰すことはできても、威力を絞ることが難しい。
そう言う意味で、刺す攻撃パターンはありがたい選択肢……何じゃないかなーって思ったしだいだ。
鼻で笑われるかなと思ったが、東雲さんは真顔で真剣に何かを考え始めた。
「……なるほど。確かに浪漫武器ではあるけど……火薬を使う方法としてはわりかしありなんやないか? 至近距離でタイミングまで絞れるなら人間の意識も追いつく。魔力も乗る?……あのでっかい腕の出力みんとなんとも言えんけど、大型化出来るならパワーも……」
なにかすごいぶつぶつ言い始めてしまった。
これしゃべっても大丈夫な奴か? と思いつつ、僕は懸念事項も伝えてみた。
「実は……今度ダンジョンエキスポに参加できるかもしれなくてですね。あと一か月ないんで、この腕をお渡しするのはそれが終わった後ってことになるんですけど……盾の固定器具だけでもなんとかなりませんか?」
本当はエキスポに間に合わせたいところだけど、それはあまりにも短すぎるだろう。
インパクトは腕に盾を無理やり付けて、妥協するつもりでいた。
だがそう言うとすぐに東雲さんは思考の海から戻って来て、弾かれたように顔を上げた。
「!……君! エキスポ参加するの!? すごない?!」
「いやぁ。おまけのおまけみたいなもんですけど、一緒に参加する子に迷惑を掛けたくないので、ちょっと派手にしたいなと悪あがきを」
「それで腕!? おもろいな君……」
「いや……まぁ挑戦したらできたみたいな?」
ギュインとサブアームを動かしてサムズアップをしてみると、東雲さんは感心しつつも困惑もあったようだった。
「……でも、これ、自作やとしたら大したもんやで。君が作ったん? だとしたら金属の加工とか出来るんやない? なんでわざわざ外注を?」
鉄巨人の腕を見てそんなことまで分かるのか。いやあ、まぁ普通にわかるか。
だがそれには僕にも理由があった。
「ああ。それは。僕のやる金属の加工法って大雑把なのは得意なんですけど精度は甘いんですよ。だから絶対にずれない盾の固定器具とかには自信がないし、……想像するにパイルバンカーって要はでっかい銃器でしょう? 火薬を使うから弾代わりの杭にだってどうしても精度がいるかなって。その点可能かどうかプロの方に相談したいなって思いまして」
魔法はどうしたって感覚頼りの部分があるし、実際に作業するのは攻略君ではなく僕になる。
同じ物を作ったとしても、わずかにズレが出来るような錬金術で、銃器のような精密な危険物を作るのは、危険極まりないという判断だった。
その辺り察してくれた東雲さんは膝を打った。
「……なるほど。わかりました。でもワタクシ共も初の試みです。うまくいくかわからんけど……それでも依頼されますか?」
「可能そうであれば、お願いしたいです」
「じゃあもう一つ……これ絶対高くつくで? 君、学生さんやろ? お金払える?」
そんな当然の懸念を聞いて、僕は一端リュックに手を突っ込む。
そしてどんどん出していったのは、ドラゴンの巣で手に入れた黄金のインゴットと鉱石階層のダンジョンでしか手に入らないレア鉱石のインゴット各種の欲張りセットだった。
「現金でも構いません。ダンジョン探索者専門の学校って出土品を換金する仕組みは
かなり整ってるんです。依頼品の材料はある程度提供できますから、それも踏まえて請求してくれると助かります」
「……!」
金属を扱うものなら、そしてダンジョン武器を扱うものなら喉から手が出るほどに欲しいであろう鉱石の数々を目にして、ゴクリと東雲さんは喉を鳴らす。
「……あかん。めっちゃ面白くなりそうやん」
「そう言ってくれる人を探したかったんですよ」
こんなんで行けるのか?と思ったけど、大丈夫そうだな。
本気でこればっかりはどうなるのかわかんないけど、攻略君の話ではうまくいくはずだった。
「それじゃあ……私からも一つ」
「なんです?」
「……今日、この腕、私に預けてくれません?」
「え? いやしかし、この腕はエキスポで……まさか?」
「ええ、間に合わせてみせますよ。まぁ任せといてください」
不敵に笑う東雲さんは、完全に本気の目をしていた。
マジか。プロってすごいんだな。




