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ダンジョン学園サブカル同好会の日常  作者: くずもち


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第96話顧問を探そう

 ドラゴンを突破した先に広がる広大な山岳エリアには、地上では入手できない魔力を内包した鉱石が豊富に存在する。


 本当なら特殊鉱石で出来たゴーレムを倒し、その体から採れる鉱石を入手したり、ドロップアイテムとして手に入れるのがセオリーなのだが、普通に採掘して手に入れることも出来るのが、鉱石階層が鉱石階層と言われる所以である。


 普通なら探すのも大変な所だが、アイテムを探索するなら攻略君の独壇場だった。


「片っ端からアイテムボックスに詰めて持って帰ろう!」


「なんであるところがすぐわかるんでござるか!?」


「これだけあれば大金持ちです! 同好会の備品が充実してしまいますね! 機材を新調してもいいですか!?」


「いいねぇ! 拠点があるから場所も気にしなくていいし。売っちゃってグッズまで手を出しちゃおっかなぁ! まぁでも今回は武器かなぁ。頑張んないとだし」


「ドンマイでござるな」


「それはそれで楽しいです!」


「それはそうなんだよなぁ」


 我慢するべきところは我慢して、せいぜい僕なりの浪漫をたっぷり詰め込んで準備をしてみるとしよう。


 何せどうやったら目立てるかなんて毛筋もわからない。


 攻略君にもニュアンスは伝わってるはずだから、攻略情報に従いつつ自分なりにアレンジを入れて手探りでやっていくしかなかった。


「今頃浦島先輩も頑張ってくれてるだろうからねぇ」


 そして今この場にいない浦島先輩に思いを馳せると、ちょっと前まで修羅をやっていた桃山君は首をかしげた。


「そういえば、浦島先輩は今どこに?」


「浦島先輩は顧問の先生を探しているはずだよ。……なんか心当たりがあるとか?」


「浦島先輩は顔が広いでござるからなぁ……」


「そうですね。生徒会長とも友達でした。でも、今から顧問なんて見つかるものですか? もう引き受けてくれそうな先生はどこかしらで顧問をやってる気がします」


 レイナさんの心配ももっともだった。だが、引き受けた浦島先輩を思い出すと、僕はアレは問題ないと確信している節があった。 


「そうなんだよねぇ。でも……浦島先輩ならなんとかする気がする」


 なによりそう思わせるのが我らが部長、浦島 志乃という先輩である。




 この竜桜学園はかなりの生徒数が集まるマンモス校である。


 そしてダンジョン探索者専門学校という歴史の浅い試みに、手探りで抜擢される教員は一般的な教員免許を持った教員の他に軍関係者や、優秀なダンジョン探索者、そして武道やスポーツの経験者と多岐に渡る。


 彼女、龍宮院 遥もそんな教員の一人である。


「龍宮院センセー!」


 女生徒の声に彼女は微笑み、軽く手を振ると楽しそうな黄色い悲鳴が響く。


 優秀なダンジョン探索者にして、有名な武術道場の関係者である彼女は学園内でもちょっとした有名人だった。


 パンツスーツに短く切りそろえている髪型のせいか、妙にボーイッシュで女生徒に人気があるカッコイイ女性。


 探索者としての強さも抜きん出ていて、鮮やかに戦う彼女は男子生徒にも憧憬の眼差しを向けられるようなそんな女性である。


 あまり慣れていない教員生活も、主にダンジョン内での指導という職務の内容は彼女の専門だった。


 それなりにうまくやれていると感じていたそんなある日、龍宮院が職員室の自分の机でコーヒーを飲んでいると、彼女のもとにやって来たのはあまり顔なじみのない眼鏡をかけた女生徒だった。


 それは彼女にとって日常的なことで、龍宮院は見覚えのない女生徒のことも穏やかな笑顔で迎え入れた。


「どうしたの?」


「あの、龍宮院先生! 少しお願いがあるんですけど……いいですか?」


「ああ、構わないよ。なにかな?」


「実は私……とある同好会に所属していまして、今顧問の先生を探しているんです。もしよかったら―――先生顧問になってくれませんか?」


 はにかむ様にそう切り出した女生徒に、龍宮院は困り顔で応えた。


「あー……すまない。顧問はよく頼まれるからすべて断っているんだよ。申し訳ないんだが……」


「ああ、そうなんですか。先生人気がありますもんね。それは仕方がありません」


「わかってくれたなら助かるよ」


 思ったよりもすんなりと引き下がった女生徒に龍宮院はほっと胸を撫でおろす。


 ただその女生徒は穏やかな笑みを浮かべたままなのに、ほんの少し空気が変わった気がして、どうにも視線を逸らせずにいた。


「―――ええっと、じゃあ。生徒としてではなく個人的に先生にお伝えしたいことがあって」


「何かな? ……あまりプライベートな質問は勘弁してほしいけど」


「大したことではないですよ。桃乙姫先生ですよね? ファンです。サインください♡」


「……ッッッ!」


 龍宮院は思わず椅子から腰を浮かせそうになって、何とか踏み留まった。


 そして内心冷や汗が止まらないのをどうにか押し殺し、言葉を喉の奥からひねり出す。


「……何の事かな? 知らない名前だけど」


「いやぁ。失礼かとは思いましたがまさか先生にもう一度出会えるなんて。なんだか昔と印象変わりましたね。 私、浦島というんですけど、当時列に並んでスケブお願いしちゃったんですよ。まだ少年漫画お好きなんです……」


「浦島さんっ!……話を聞こうか?」


「ええ!? いいんですか? 嬉しいなぁ!」


 彼女、龍宮院 遥は優秀な冒険者であり、今は教師でもある。


 しかし必ずしも最初からそうだったわけではなかった。


 ダンジョン探索者や、武道の世界、血の気の多い業界でひとかどの才能を示すために彼女は血の滲むような努力をした。


 だが人並み外れた努力には、当然相応の反動というものがあった。


 彼女はそれに耐える精神力は持ち合わせていたが、辛いものは辛い。


 そして努力をすればするほどに周囲から集まる桁外れの期待という重圧から彼女自身を守るため、というか解放するために彼女はとある趣味に目覚めた。


 だけどそれは―――彼女のトップシークレット。


 まったく自分とは違う自分をさらけ出すための彼女のもう一つの名は『桃乙姫』と言った。


 だからこそ浦島という生徒に、彼女を知る周囲が聞けば驚くほど低い声で龍宮院は尋ねた。


「……何が望みだい?」


「……言いませんでした? 私達同好会の顧問を探しているんです。出来たら同じ趣味に理解のある先生がいいなーと思いまして」


「……ちなみに何の同好会かな?」


「サブカル同好会です♡」


「……断るっ!」


「まぁまぁまぁそう言わずに。先生にとっても決して悪い話ではないと思うんです……」


 ニタリと笑う浦島という女生徒の笑みは、先ほどのものとは明らかに違う。


 逆光で光るメガネの奥の瞳を龍宮院には見通すことが全くできない。


 ただサインのために彼女が持ってきていた一冊の本はこの世の中に10冊ほどしか存在しない本であることを、龍宮院はすぐさま看破した。


 咄嗟に確保しようとして、すさまじい速さで逃げられる。


 他に見えないように微笑む浦島は更にダメ押ししてきた。


「サインしてくれるなら大きくお願いしますね。自分用、保存用、布教用の三冊ありますから♪」


「……!」


 ……どうやら私は逃げられないらしい。


 龍宮院は覚悟を決めた。


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― 新着の感想 ―
助けた亀はどこじゃろな? 玉手箱(黒歴史)は開けちゃいけないw
先生まで手玉に取るとは、これは天才テイマー。
これは、、、腐の者の匂いがするな?
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