第90話友達に会いに行こう
『いや、何も私は冗談を言ってるわけじゃないんだ。ただね? 君は聖騎士だろう?そして敵の攻撃をその身で受けるタンクだ』
「……そうだね」
『だから盾を手に入れるべきだと思うんだ』
「?」
攻略君の提案としてはとても珍しく真っ当な提案ではある。
ただし先の発言がなければの話だった。
「知ってるよ攻略君。この後どうオチを作るつもりなんだい? 大丈夫、心の準備は万端だよ?」
『真っ当な攻略情報しか出しはしないよ。落ち着いて?』
「えぇ? 本当かなぁ……。しかし、盾……盾か。獲物がスレッジハンマーじゃ邪魔じゃないか?」
『まさにそれだよ。君の武器はハンマー。両手を使う武器だ。絶大な打撃力と引き換えに防御を捨てている』
「……そうだね」
『だから腕を生やしたらどうかなって』
「でも無理に……何でもオチを付けようとしなくていいんだよ?」
『いやいやいや。そうすれば盾が使えるだろう?』
「腕生やしてまで盾を使いたいとは思わないけどなぁ」
それに僕は自分の愛用武器に愛着もあるし、どうにもしっくりこないと感じてしまう。
しかし今までも盾は必要かと思ったタイミングがなかったわけではなかった。
それが実現しなかったのは、聖騎士の不思議オーラで事足りてしまったからだった。
「今更いるかな? 結構このままでもやれない?」
『それもいいだろうが、君の仲間なら……例えば桃山氏ならば、君のオーラを抜けるだろう? 君の守りは決して万能ではない』
「そりゃあそうだ。じゃあどうすればいいと? どんなに魔法じみた方法でもニョキニョキ腕を生やせって言われたら断るからね?」
そんな最後の砦である見た目すら捨て去って、人間やめたくないと主張すると、攻略君はそういう事じゃないと否定した。
『なにも本物の腕を生やそうと言っているわけではないんだ。そう例えば……君が自由に動かせるゴーレムの腕なんてどうだろう?』
あまりにも意表を突かれた提案に思考が停止。僕は考えが及ばずに大きく首をかしげてしまった。
「ゴーレムの腕って……それに盾を持たせろって?」
『そうだとも。錬金術を身に着けている君ならば不可能ではない。そうだね……でも時間がないから、既存のゴーレムの腕を流用してみてはどうかと考えているが……君の意見も聞かせてもらえないか?』
「そんなのいたかな?」
『まぁ一番身近なところだと、鉄巨人がおすすめだね』
「ああ、あいつかぁ……待って、デカすぎじゃない?」
鉄巨人というと10階で戦った、学生の敵か。
そして僕にとっては初の大量経験値の相手で、沢山の素材を提供してくれたなんとも思い出深い顔だった。
「……おっかなかったけど、今では何だか友情みたいなものを感じるよ」
『そんなもの感じないでくれ……。やることは簡単だ。文字は消さずに的確に頭を破壊だよ。そして今回なら腕のパーツをいただいて来る。今の君ならそれもできるさ』
「そんな雑で大丈夫? ……頭を破壊ねぇ。できると思うけどやらなきゃダメ?」
『ダメとは言わないが―――カッコイイよ?』
「マジかー……そりゃあやらなきゃダメだなぁ」
攻略君は僕の趣味を理解しつつある。
その彼がこういうのなら、カッコイイ=正義だった。
まぁ、確かに想像を膨らませるとかっこいい気がする。
それにまたあの鉄巨人の顔を見に行くというのもいいかもしれない。
経験値としてはそんなに期待できないんだけれど、なぜか気分としては旧友に会いに行く感覚に近かった。
僕はさっそくダンジョン入り口で受付を済ませると受付のお姉さんが心配そうな顔で僕を見ていることに気がついた。
「……最近ソロの回数が増えて来たんじゃない?」
「そうですかね? 部活のメンバーとは結構一緒に潜ってますけど……」
「そうじゃなくてクラスの方。あの可愛い子とパーティを組んだんでしょう?」
改めて指摘されるが、残念ながらそれは終わったイベントだった。
「ああ、いや、アレは一時的なもので……彼女も正規のパーティがあるし、一緒にはもう潜らないんじゃないかなぁ」
「そうなの? ……実は、あの子も結構ソロで自主練に来ることが多いから、誘ってみたら?」
「あはははは。いやいや、無理強いは良くないですよ。彼女、前線パーティの主力なんですから」
「そう?」
僕はカラカラと笑って手続きを終えると、出来る限り速足でダンジョンの中に入った。
ただ僕はさすがに僕の次に入ってくる生徒が誰であるのか、そんなこと予想出来るわけもない。
「月読さんね……はい。あなたはこれから自主練習?」
「はい、そうです」
「今、ワタヌキ君……あなたがこの間1回だけパーティを組んでいた子なんだけど、あの子もソロでダンジョンに入っていったから、気にかけてくれない? よくソロで潜ってて、なんだか心配なのよね」
「ああ……ええ。わかりました。私も気になるので追ってみますね」
「ありがとう。気を付けてね」
そしてまさかそんなやり取りがあったことなんて、まったく気がつくことは不可能だった




