第75話たどり着いた一つ目の答え
「うーん……出来ちゃったな」
攻略君の提案にまんまと乗って、売店1号店が完成してしまった。
僕はとりあえず無人即売所という事にして、看板と商品を何点か置いて様子を見てみることにした。
「しかし大変だけど、建物を建てるのも工夫し甲斐がある。商品もスキルで作れるし、装飾もスキルで製作可能。……確かにこれは一気にやることの幅が増えるなぁ」
『何なら武器も売るといいよ』
「ええ? それありかな? 捕まりそうじゃない?」
『ダンジョンの中は治外法権だよ。なにがあっても自己責任が原則だろう?』
「自己で責任……取れるかなぁ」
『さて買うのも自己責任だ。あとは知らぬ存ぜぬもいいさ』
あら攻略君。ずいぶん悪い事を言うじゃない。
まぁでも僕は堅実な男なので、まずは無難なものから並べて様子を見てみることににしよう。
しばしディスプレイに拘ってみる。
うん。中々の出来栄え。
その見た目はまるで駅の売店だった。
「そのうち、コンビニみたいな店に出来たらいいね。いや……それだと店員がいよいよいるかな?」
『当てはあるよ?』
「えぇ? 何だか嫌な予感がするなぁ」
その当てとやらは、きっと想像を絶する何かの様な気がした。
だがまぁ、今はやめておこう。授業もそろそろ終わりそうだ。
僕は少し早めに切り上げて、放課後に備えることにした。
授業が終わり、僕は部室にいったん立ち寄って、誰もいないことを確認するとダンジョンに向かう。
そしてセーフエリアの拠点に向かったのだが、そこでは何かいつもと違う空気を感じていた。
「なんだ?」
僕にはなにか予感があった。
心がざわめき、とにかく浮足立つ自分が止められない。
そして僕は拠点に踏み入ると、恐るべき歓待が待ち受けていた。
「「「いらっしゃいませー」」」
「!!!!」
そこには給仕姿の見覚えのない女の子達が見事なスマイルでお出迎えする姿があった。
いや、見覚えは確かにある―――これは!
「……まさか今期アニメのヒロイン? しかも人気が高いヒロインばかり……いや,
この好みは!」
「そうだよ……さすがだね一目で看破するとは、私はとても嬉しいよ」
声を掛けられ振り返る。
そこには大きなソファーに黒豹のワカンダ君を侍らして、美女の給仕にミルクを注がせている浦島先輩と、スマホで撮影しまくるレイナさんの姿があった。
優雅にソファー席で足を組み直す浦島先輩は、非常に満足そうに拠点の光景を眺めていた。
「ああ……いい眺めだ。とてもいい眺めだよ。そうは思わんかね? ワタヌキ後輩」
「ええ……本当に凄いっすね。三次元というよりも2.5次元? いや2.25って感じですか? 絶妙にアニメキャラです」
「うんむ! 私の指導の賜物だよ! どうだね? 夢の光景がまさにここにあるだろう! あーっはっはっはっは!」
完全に有頂天な浦島先輩は高笑いだ。
しかし自慢するだけのことはある。ここまで欲望を具現化して見せたのは、素直に脱帽だった。
「正直ビビりました。抜け出してきてる感じありますよ。これ全部サキュバスが?」
「そうだよ? 彼女達の擬態スキルは素晴らしい……完成を目撃した時、思わず泣きそうになってしまったね」
「確かに。あ、でもインキュバスは結局テイムしなかったんですね」
「この空間に男はいらん。なぜわからんのだワタヌキ後輩」
「あ、ワタシは全然アリです。男の子メンバー入り歓迎ですね。コラボカフェ好きー」
「こだわりが強いなぁ。そのうち僕らも追い出されそうだ……」
「そんなことはしないさ。むしろ君も楽しみたまえよワタヌキ君。私は大いに楽しんでいる。こいつは私の資料フォルダーが分厚くなってしまうな」
「楽しむどころか、めちゃめちゃ勤勉じゃないですか。薄い本が厚くなりそうですね」
「ああ、今から夏の戦いにも気合が入るというものだ。彼女達がアシスタントとして使えるか試そうとも思っていてね。モデルはこの上ないだろうが……せめてベタくらいは塗れて欲しいものだよ」
ああ、様子のおかしい浦島先輩がすっかりテイマーをしていた。
そして悪魔達は想像を絶する過酷な労働を強いられる未来でも予感したのか、ビクリと身をすくめていた。
そして浦島先輩が作り上げた画期的なアニメヒロイン空間を堪能しているレイナさんは自身のフォルダーに満足するまでデータを保存できたのか、満ち足りた表情を浮かべ胸に手を当てながら、用意していたカフェラテを啜り始めた。
「はぁ……胸がいっぱいです。私のために彼女が入れてくれたカフェラテ……生涯最高の味です」
うん。楽しんでいそうで何より。
余韻に浸るタイプの彼女は邪魔すべきではないようだ。
ああ、でも僕は思った。
「こりゃあ……猫カフェまでの道のりはまだ長いな」
「聞こえているよ! 一つずつ、一つずつだよワタヌキ後輩!」
「……そうですね」
おそらく現状でもちょっと満足しかけていたであろう浦島先輩が初心を思い出して、顔の真ん中にパーツをキュッと寄せていたが、更なる情熱が復活するかどうかは五分五分くらいかなって僕は思った。
「……なるほど」
僕は刺激の強い店内を離脱して、いったん拠点の外に出る。
こいつは浦島先輩の目論見は大成功という事なのだろう。
しかしあの浦島先輩の欲望に一直線なところは本当に見習いたい。
アレだって悪魔をテイムした後、好みの変身を教え込み、料理まで仕込んで僕が来るまでにすべての準備を整えたのだと思うと、そのバイタリティは想像を絶するものがあった。
ひとまず給仕としてカフェラテは入れられるようだし、店員までいて料理が提供されるなら店と言っても差しさわりはないと思う。
「……なんかメイド喫茶みたいになってきたけど、そこはまぁ浦島先輩の言う通り一個ずつという事かな?」
僕が急展開に思いを馳せていると、転移してくる桃山君を発見した。
ただ、遠目で見た桃山君はどこかフラフラと足取りが頼りなく見えた。