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第68話それぞれの戦い

 火付け班は奮戦していた。


 ただ選択肢の無い人選とはいえ、あまり火起こしの経験はなかったらしい浦島先輩とレイナさんは、授業用のサバイバルキットを引っ張り出して大慌てでかまどの設営中だった。


「かまどを組んで薪を組んで……マッチで紙に火をつける……」


「風が入る様に木を組まないとダメ……だったはずです! あ……マッチの火が」


「あああイライラする! せめてガス式はないの!? あ! ガス管ぶち込んで爆破させたらどうかな!?」


「たぶんダメです! 一個着火したらあっという間ですよ! あ! メタルマッチあります!」


「それはマッチより逆にめんどくさい奴ぅー。思い出した! 授業でやったら全く付けられなくてマッチ買ったんだったよ!」



 

 超不安。


 だが僕の方も十分不安なんだから、人の事をどうこう言えるわけではない。


 願わくば、僕が死なない内に目標を達成してくれたら、死ぬほど嬉しいので頑張って欲しい。


「……」


 敵はこちらを見ていた。


 異形だが、人型であるとそれだけで様々な恐怖が沸き起こって来る。


 特徴的な山羊のような角に真っ赤な瞳、そこに翼と尻尾までついているそいつを悪魔と呼ばずしてなんと言えばいいのかわからない。


 だが、あふれ出るおぞ気がするような魔力と金属のような光沢を持つイカれた筋肉はいかにも戦闘力が高そうだった。


 ただ残念ながら相手がいくら強そうでも、僕の役目はあいつの目を引き付ける事だ。


 まずは、こっちを向いてもらわないと始まらない。


 僕はハンマーを握り締め全身にオーラをみなぎらせると全力で吼え、ウォークライを叩きつける。


「うおおおお!」


 無事注意を引くことには成功したが、繰り出された剣は文字通り人間離れした勢いで飛んできた。


 肉弾戦を得意としているのか剣で猛攻を仕掛けてくる悪魔の斬撃を僕はオーラで弾く。


 一撃食らうだけですべて剥がれ落ちそうな圧力に何とか耐えて隙を突くとハンマーの一撃で地面だけが派手に弾け飛んだ。


「……すばしっこい! のあ!」


 舌打ちする暇もなく、首が持っていかれるところだった。


 更に悪魔は無造作に手をかざし闇色のエネルギーの塊を無数に空から降らして来るのだからひどい話だ。


 避けたいところだが、後ろに火起こし組がいる時が一層つらいところだった。


「障壁を前に……!」


 僕は正面にオーラを集め盾を形成すると、腰を入れて踏ん張った。


 聖騎士のオーラは聖属性。悪魔相手に相性がいい。


 だが相性がいいにもかかわらずキツイ時点で相手のレベルの高さが伺える。


「もういっちょ!」


 守りからハンマーにオーラを流し、魔法の撃ち終わりを叩き潰す。


 だが僕の攻撃は残像を打ち据えただけで、また避けられた。


 悪魔に飛びのいて躱されると空中に逃げられて、いったんリセットされるのもいちいち攻めきれずに厄介だった。


「……速い」


 ああ、一瞬で方を付けるられれば楽なのに、やっぱりこいつは今までの様に楽には勝てそうになかった。



 かまど組は頑張っていた。


 入り口近くでどんどん並べられるかまどは、確実に煙を上げ始めていた。


「「ふーふーふー!」」


 浦島先輩とレイナさんは必死に炎に息を吹きかけている。


 焚火は3つ目。


 中々火力が上がらず苦戦していたが、鍋のお湯はまだ沸いてはいないようだ。




 僕のハンマーは十分に悪魔にダメージを与える威力はある。


 しかし小回りが利かないのはどうにかしないと本当にマズイ。


 だが今回はパーティ戦だ。


 頼りになる前衛はもう一人いた。


 恐ろしく鋭い踏み込みで斬りかかる桃山君は、普段の穏やかな様子とはかけ離れた勇猛果敢なアタックで悪魔と切り結ぶ。


「クロハナサクヤ―――合わせるでござる!」


 更にひょうたんから飛び出して赤いパーカーの表面に乱れ咲く影の桜も彼の猛攻の手助けをしていた。


 黒く散る花弁は、時折悪魔の身を裂き、神速の居合には黒い魔力が乗る。


 ブオンと背筋が凍るような音を立てて、無数の影の刃が悪魔に飛んだ。


 悪魔は持っていた大剣で刃を受け、斬撃を黒い粒子に霧散させる。


「……! 効かないなら何度でも!」


 立て続けに放たれた影の斬撃と大剣のぶつかり合いは、残念ながら悪魔が優勢に見えた。


 桃山君の赤いパーカーが悪魔の振るう剣に裂かれた。


 だがその瞬間、桃山君の身体はスゥっと幽霊のようにかき消えて、悪魔の背後に現れた。


「分身……二連影断ち!」


 今度は二刀による斬撃は悪魔の羽根を傷つけて、悪魔の表情が歪む。


「ギ!」


 いい一撃が命中したことでヘイトがいよいよ桃山君に完全に向かうが、それはさすがにまずいだろう。


 空中で三回転半。


 僕の十分に加速を加えたハンマーの大振りは、悪魔の脇腹に深くめり込んだ。


「良し! クリティカル!」


「まだでござる!」


 だが体制を崩しながらも今度は影の槍が無数に飛び出して、僕らを貫こうとする。


「桃山君! 僕を盾に!」


「!」


 咄嗟に叫び、身体を悪魔と桃山君の間に滑り込ませるとすさまじい衝撃が体を襲って桃山君ごと僕を弾き飛ばした。


 槍で貫かれるのだけは阻止したが、衝撃で肺の空気を持っていかれる。


「……ゴェ!」


 危うく意識まで失いかけたのは、相当にヤバかった。


「ゴホッ! ゴホッ!……はぁ、やってくれるわ」


「だ、大丈夫でござるか!」


「当然……でもいいのが一発入った。必殺ワタヌキクラッシュと名付けよう」


「ハハハ。内蔵ぶちまけそうな名前でござるな。でも、そこまでは無理だったみたいでござるよ?」


「……ああ、本当だ」


 ハンマーが当たった所を押さえていた悪魔だったが、あっという間にダメージ痕らしきものは修復され、装甲はツルリと元通り。


 そして結構いいのが決まったと思ったが、そいつはフワリと浮き上がるとズドンと黒い炎を全身から噴出させ目が四つに増える。


 それを見た僕らの表情はヒクリと引きつって、同時に叫んでいた。


「「やばい! 第二形態だ!!」」




 一方その頃、火起こし組は成し遂げていた。


 汲んで来た水すべてをかまどにくべて、派手に沸騰する音がボコボコと部屋中に聞こえ始めた。


「よし! よーし! 沸騰してる沸騰してる! この後どうする!?」


「火力上げましょう! 薪をありったけぶち込みます!」


「バーベキュー用の炭も全部入れよう!」


「……なんか火力落ちてませんか?」


「……なんか、勢いが」


「あ、さっき入れたばっかりの薪が炎を遮ってるんじゃないですか?」


「……そんなことある?」




 ちょっと勘弁して!


 ビュンビュンと飛んで来るのは影で形作られた無数の鞭で、もはや目で追えないような乱打が僕らをオーラごと打ち据える。


 剣の時でもヤバかったのに鞭は更に速度が増していて、バチバチ僕のオーラは命中のたびに削れていくのが分かった。


 しかし目で追えない回避不能の攻撃だからこそ、僕はこの攻撃を受けるしかなかった。


 パーティメンバーの誰もが急所に受けたら、まず死ぬ。


 それを肌で感じるからだ。


 だが僕も精神の集中が崩れたら一巻の終わりだった。


「ふぅー……」


 僕は深く息を吐いて気分をいったん落ち着かせると、桃山君に語り掛けた。


「……今からちょっと攻めよう。このままじゃ削り殺される」


「……そうでござるな」


「一瞬でいい……あいつの動きを止められないか?」


 そう尋ねると桃山君は、渋い表情だが確かに肯定した。


「分かったでござる……一瞬でござるな」


 僕らは頷きあって、悪魔を見据える。


 そして桃山君は僕の背中で地面に刀を突き立てると、叫んだ。


「今!」


「……っ!」


 叫びが耳に届いた瞬間、僕は走る。


 悪魔の足元から無数の枝が突き出て、悪魔の体に絡みつくのが僕にも見えた。


 意識の外からの攻撃に悪魔が一瞬怯む。


 そして僕はインパクトの瞬間、切り札を切った。


「食らえぇぇ!」


 頭の炎が、赤から青へと変わって燃え上がる。


 僕の魔力の性質が変わったことに反応するこの変化は超化の証だ。


 10倍に跳ね上がった攻撃力でハンマー先に全オーラを集中させると、まるで爆弾のような衝撃が悪魔の頭に直撃した。


「どうだ!」


「やったでござる!」


 桃山君の歓声が衝撃波でキーンと耳鳴りのする耳に届いたが、僕は同時に見てしまった。


 吹き飛んだ頭の肉片が元に戻って行く。


 それが再生しているのだと気がつくと、さすがに呼吸が浅くなった。


「ヒュッ」


 あ、やばいこれ。ダメかも。


 いいとこ見せられたのかは知らないが、攻略君の攻略は妙なノイズのせいで失敗パターンを引いたかもしれない。


 まぁダンジョンの攻略って、そもそもこういうものだよなって、そんな感想が頭に浮かんだ僕は案外いさぎがいいのかもしれなかった。


 悪魔が再起動する。


「早すぎじゃない!? ……くそ!」


 だがせっかく超化したんだ、死ぬまでぶん殴ってやると自分でも意外な闘志を燃やしていると、悪魔は蘇生の瞬間口を大きく開けて呼吸をして、目を見開いた。


「が、ガガゲゴ!」


 そして全身に血管を浮き出させると―――苦し気に表情を歪めて爆散したのだ。


「へ?」


「な、何事でござる?」


 僕は困惑し、警戒していたが、すぐに今回の作戦を思い出す。


 そして悪魔を警戒しつつ、焚火係に視線を向けると、大量に湯気を吐き出す寸胴鍋が見えて、思わず僕はその場にへたり込んでいた。


「はぁぁぁぁ……ようやく効いたぁ」


『あっぶなかったなぁ。お疲れ様!』


「……攻略君にはあとで話があるから」


 死ぬかと思ったが、とりあえずは攻略成功という事のようだった。

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― 新着の感想 ―
悪魔は後二回変身を残している この意味が分かるね
TRPGでよくある松明やオイルランプなどで火種を用意しておけばよかったのでは? 思わず首を傾げるワタクシであった。
順当に死闘をする経験も必要だよね!と言わんばかりの仕打ち…でも今回一人だとちょっと無理な内容でもあったけど、一人なら別の方法取ってたのかな?それってもっと綱渡りになりそう。
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