第55話趣味は国を超える
「というわけで、我が同好会に新しいお友達が入部しました。仲良くしてください」
「えええええ! あの雷神がサブカル同好会に!?……冗談でござろう?」
おや? 桃山君ご存じ?
そんなにすごい人だったのか、すまん無知で。
しかし二つ名とは、僕としてはやっぱりやってんねぇって感じだった。
「二つ名は立派にエンタメしてるんだよなぁ。名付ける過程に同志の存在を感じる。実はみんな鬱憤が溜まってるんじゃないか? ……そして冗談じゃないよ。ビックリだよね、ほらアッチ」
噂の彼女は、大きめのソファーに座って浦島先輩と壮絶なレースを繰り広げていた。
「え?」
「いや、そこにいるでしょ?」
「ハアィ! 雷神です! ここにいますよー」
「……! 御免なさい! いつものノリで!」
不意の本人登場で、めっちゃ頭を下げる桃山君は新鮮だった。
此度正式に同好会のメンバーになってくれた、レイナ=トーレスさんです。
僕らはいったん椅子に座ってぼんやりとゲーム画面を眺める。
何となく他人がやっているゲームを見ていると自然と見入ってしまうのだから不思議なものだ。
ただ楽し気なゲームサウンドと一緒に、浦島先輩とレイナさんとの会話も自然と耳に入って来た。
「でもよかったの? 生徒会に入ってるのに、サブカル同好会もって大変じゃない?」
「問題ないです。ワタシはここでしかできない体験をしに来ました。ダンジョン探索なら自分の国でもできます。でも漫画やアニメが熱いのはこっち! これ重要です!」
まぁ言わんとせんことは分からなくはない。
その点、ここは共通の趣味を持っている人間と顔見知りになるには向いている環境とも言えた。
「おお……なるほど。それはサブカル同好会としても気合を入れなければ! よし、甲羅命中っと!」
「ぎゃああああ! シノ容赦ないです!」
ああ、あとちょっとで1位になれたというのに最後の最後で大逆転だ。
あの手のゲームなんか強いんだよな浦島先輩。
ただ、レイナさんは負けてしまったというのに残念そうというよりもどこか楽しそうな吐息を零していたが。
「はぁ……今満たされている感覚があります……友達と一緒にパーティーゲーム。ダイレクトで見た光景は幻ではなかったのです。しかもジャンルは選び放題」
「いやいや、たぶん自分の部屋でやっても盛り上がれるんじゃない? 今どきジャンルも選び放題みたいなもんでしょ?」
「……リアル友達にその手の趣味の人がいないんです。おかしい……日本はオタクの総本山のはずなのに……」
「まぁ……生徒会じゃ厳しいかもね」
隠れはいるかもしれないが、隠れているものを暴き出すのは至難の業だという事なんだろう。
少なくともレイナさんはまだ発見には至っていない様子だった。
「おかげで暇を見つけて細々とオンゲーです。まぁそれはそれで楽しいけど……こう、思い描いていたのと違うんです! もっとこう……青春ぽいやつ!」
ナルホド。レイナさんには理想のプレイスタイルに一家言あるようだ。
まぁこちらもわからない話ではなかったが、それは意外でもあった。
人気者というか有名人だという彼女は理想の青春を送っていそうなのに、そんなことあるのか。
そして現状は彼女の理想とは少々異なっていて、悩んでいたのはなんとなく察した。
浦島先輩はおもむろに立ち上がると、うーんと伸びをする。
そしてどうやらさっそく動くようで、僕も表情を引き締めた。
「そういう事なら……ちょっと無茶してうちに入ってくれたレイナちゃんのために私達サブカル同好会もとっておきの秘密を明かしましょうか」
「……先輩、今なんですね?」
「当然、今でしょ。心強い仲間は多い方がいい……」
「……了解です」
「?」
この判断が吉と出るか凶と出るかはわからないが、確かに彼女が来てくれるのなら大きな戦力になることは間違いない。
まぁ趣味が合うのが大前提なんだけど、その大前提が確定した今、同志を無碍にするのは同好会のポリシーに反するところだった。
「ではレイナちゃん。私達は部室死守のため、独自にダンジョンに潜ってるんだけど
―――一緒に来る?」
先輩が手を差し出すと、今までとは性質の違うギラついた笑みを浮かべたレイナさんは、軽い声で承諾した。
「……いいですよ? ダンジョンならさっそくワタシもお役に立てます」
「ふっふっふっ。それは頼もしいね。でもサブカル同好会のダンジョンアタックは他と全然違うから……絶対ビックリすると思うよ?」
「そうなんですか? それはとても楽しみです」
「ホントもホント。まぁ期待しておいてよ。今日が終わる頃にはダンジョンの認識がガラリと変わっていることを約束するよ」
たっぷりと雰囲気を出した浦島先輩はなぜだか妙に芝居がかっていた。
一方でレイナさんは、どこかナンセンスなジョークでも聞いたような強気な態度が見て取れる。
だがそんなのは当たり前だ。
一年生とはいえ、最前線でダンジョンアタックを繰り返しているような探索者が木っ端のごときサブカル同好会を自分の領分で下に見ないはずはない。
しかし僕はと言えば―――それはそれで心配だった。




