第32話僕らの優先度
ダンジョンの中がレベルやジョブの概念がある世界だと聞いて、ダンジョン探索者の中に潜んでいた世界中のゲーマーはだいたい同じことを考えた。
自分をいかに成長させようか? そして誰よりも高いレベルに最高のジョブを手に入れたい。
ダンジョン資源が世界を潤せば潤すほど希望が膨らんだが、ダンジョンは同時にそのすべての人間を絶望させた。
なんとなくこんなこと出来たらいいなと思うことがあっても、制約で出来ない。
モンスターを倒すには魔力が必要で、最強の攻撃手段である銃ではインパクトの瞬間、魔力を纏わせることが出来ない。
そして銃を取り上げられた人類はあまりに貧弱で、モンスター達はあまりにも強すぎた。
しかし攻略君によってもたらされた情報の中には、いくつかそれを取っ払う効果は間違いなく存在した。
桃山君と浦島先輩は僕がメモに書き写した、今後の育成チャート候補をそれぞれ眺めて穴が開くほど見つめていた。
「侍! 断固侍でござる!」
侍好きの桃山君は戦士で我慢していたところ、開けた可能性に早々に方針変更を決定したようだった。
その勢いはちょっと必死で不安になるくらいだったが、それもまた良しである。
「侍をメインジョブにするなら、先に忍者を取得して、スピードを上げるスキルを取ってから転職するといいらしいよ」
「忍者ぁ、それも捨てがたい……逆じゃダメなんでござるか?」
「加速ってスキルが有用らしい。それに比較的覚えるのが早いんだよ。だから加速だけ取って侍にいくとかなり使える。桃山君のビルドならではだよ」
スピードと攻撃力にすべて注ぎ込んだからこそ侍と忍者を両立させられる。
解放条件がその二つのパラメーターが一定値以上あることだからだ。
「ただ、シーフをある程度育てなきゃだから。戦士からシーフに行って、忍者からの侍だね」
「……長くないでござるか!?」
「ジョブの熟練度が稼ぎやすいのは今だけだから」
桃山君はまだレベル20には到達していない。今からレベリングすれば、侍までアッという間に到達出来るはずだった。
なんならジャングルもぐら叩き(僕命名)なら一人でだって熟練度上げが可能だろう。
「遠回りなようだけど、早い段階で侍のスペックを引き出せるはずだ」
「ふーむ……そしてゆくゆくは侍でござるな……こんなジョブがあるとは思わなかったでござるけど」
桃山君はしぶしぶだが普通なら到達出来ないジョブだけにここは僕の助言に従うことにしたようである。
一方で浦島先輩も僕のメモの中に気になる項目を見つけたようで、ワナワナ震え出したかと思うと、すごい勢いで詰め寄って来た。
「これって本当なの!?」
「な、何がですか?」
「これよこれ! テイマー! 私なれないわよこんなジョブ!」
確かに浦島先輩の指摘通り、メモ書きの転職可能ジョブの中にはテイマーの文字が存在した。
「それはちょっと変わり種の育成ですね。特殊条件を満たせばなれるジョブです」
「……特殊条件か。なんだか難しそうだけど、それをやるだけの可能性に満ちてる気がするわ」
テイマーはその響きだけで浦島先輩を奮い立たせるには十分だったようだ。
おそらく浦島先輩が予想している通り、モンスターを仲間にして使役するテイマーは同時にバフ、デバフのスペシャリストでもある。
そして特殊条件さえ満たせば先輩ならすぐにでも転職可能となるだろう。
二人の理想のビルド、その雛型が出来上がるまでそんなに時間はかからなかった。
僕らは目標も決まり、うむと頷きあう。
そして浦島先輩は挑戦的な笑みを浮かべて力強く言った。
「私は夏コミの準備もあるから、ほどほどに頑張りましょう!」
「「うい」」
でもオタ活はダンジョン活動より優先される。これ大切なことである。




