第316話鬼を斬る鬼
オーガ達の姿が全くない。
テイムしているオーガ達に加えて、天然でリポップするオーガ達までいるこのフロアは、モンスターの密度が普通のフロアよりも多いはずだ。
それなのに、全く遭遇しないのはあまりにもおかしい。
繋いだ手を自然に放し、花臣は二本の刀に手をかける。
いつでも抜けるように慎重に神経を張り巡らせるが、やはりいない。
一人なら、このまま原因を調査したいところだったが、今は一人ではないのが問題だった。
「生徒会長、すまないでござる。ちょっと予想と違うようで、一旦引き返して……」
だが言いかけた台詞を遮ったのは生徒会長だった。
「いや! このまま進もう……何かが起こっているんだろう? なら原因は究明するべきだ」
「しかし……危険かもしれないでござるし……」
「それは百も承知だ。だがオーガがいないのだろう? それどころか、この階層はモンスターが少なすぎる。思うにそれが問題なんじゃないか?」
妙に鋭い生徒会長に花臣は思わず頷いていた。
「そ、そうでござる。本当なら、普通よりも多くないとおかしいんでござるが……」
「なら調査は必要だ。それに私はオーガを仲間にするためにここにいるんだ。すべていなくなられては困るのは私だよ。だから……進もう」
「……わかったでござる。ならちょっと待って」
確かに少し慎重になりすぎているかもしれない。
様子がおかしいとは言っても、この階層はレベル的にはかなり余裕があった。
だとしても、それでも念のため、花臣は保険の意味も兼ねて友人に電話をかけた。
気の早いSOSではあったが、状況的にも心理的にも助けが欲しいのは本当だ。
花臣は友人と連絡を取ったことで、動揺を静め改めて小さく頷いた。
「では……行くでござるよ」
「ああ。頼りにしている」
「―――任されたでござる」
深く息を吐いて気を取り直し、花臣と生徒会長は探索を再開した。
この階層はいわゆる迷宮型だが、現状のマップは把握済みだ。
だがマップを辿るまでもなく、ガスマスク越しにも分かる気配に肌が泡立つ感覚があった。
空気で伝わる戦闘の気配。
ここ最近、妙に研ぎ澄まされているこの感覚を花臣はそれなりに信用していた。
ガスマスクをつけ直し、気合を入れる。
そして二人はそれを見た。
真っ二つに両断される鬼。
そして―――斬ったのもまた鬼だ。
まだ消えていないオーガ達の数だけ見ても、夥しい数のオーガが倒れ伏している。
花臣はマスクの下の目を細めて、ただ一体立っているそいつを睨み据えた。
「まったく……ヤバそうだと思ったでござるが、まさに地獄絵図でござるな。鬼だけに」
「……うっ」
生徒会長が後ずさっていた。それは正常な反応だ。
目の前のモンスターと生徒会長の間には、天と地ほどの絶望的な差が存在する。
真っ赤な刃の剣を肩に担いだそのオーガは、たぶん尋常なモンスターではない。
花臣は刀を抜いた。
敵の圧力が深層に比べても遜色がない。その時点で死闘の気配が濃厚に漂っている。
「じゃあ―――始めようか?」
これは―――実に面白くなりそうだ。
花臣は自分の血のざわめきを感じながら、一歩その地獄に足を踏み入れた。




