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ダンジョン学園サブカル同好会の日常  作者: くずもち


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第26話効率的レベル上げの極致

「……」


 扉が開く。20階層を守る巨大モンスターは二股の頭を持った巨大な百足だった。


 その口からいかにも危険そうな紫色の液体を滴らせていたが、攻略君の指示はまさかの突撃である。


『真っすぐ突撃! 防御は気にしなくていい!』


「うおおおおおお!」


 だが身体はすでに突撃態勢だ。


 それはもはや生きるための条件反射だった。


 急激に上がった身体能力に任せて地面を蹴る。


 驚くほどの勢いで飛び出した僕は、いつの間にか百足の眼前にいた。


「はぁ!?」


『思い切りフルスイングだ! 思い出せ! 君のハンマーにつけた効果は耐久上昇だけじゃない!―――』

 

 すべての力をハンマーに込めて、僕は行く。


 ああなるほど、あの蜂の素材はこう使うわけだ。


『防御貫通だ!』


「……!」


 そしてハンマーを叩きつけた。


 百足は全くこちらを目で追えておらず、ハンマーは容易く頭部を粉砕した。


 だがその瞬間、毒の血液を浴びて体に痛みが走ったがこれは問題ないらしい。


『ステータス異常回復は習得済みだ。毒は僧侶を極めた君に効果はない。こいつは毒でジリジリ削っていくタイプのモンスターだから、君のビルドの敵じゃないよ。だけどもたもたしてると頭が再生して振り出しに戻るから、なるべく速やかに二つとも頭を潰すこと』


「了解! でも戦う前に教えて欲しかったな!」


 僕のパラメーターは百足を圧倒していたようで、幸い攻略はすぐに終わって転移宝玉をゲットすることが出来た。


「やったー! よかったもう一回手に入れられた!」


『……すごい喜びようだね。どれだけ大事だったんだい、転移宝玉』


「貴重品だろぅ! それに記念すべき一個目だったんだ」


 鉄巨人のドロップアイテムは、一般に知られたトロフィーのようなものだ。


 それをお気に入りのリュックと混ぜた僕は、大切なものを一つ失ったのだ。


『……これから10階おきに手に入るよ』


「……普通の人間が10階進むのに何年かかると思ってるんだい」


『君は一日で踏破するじゃないか。最短で行けばそれくらいでいけるんだよ。嘆かわしいことだね』


 いやいやいや。それは道を完全に把握していて、モンスターをすべて回避し、トラップの位置と性質を全部把握しているからだ。


 その上、慎重さの欠片もないレベルアップで上がった身体能力頼りの全力疾走で初めて短時間攻略は可能になる。


 すべてはギリギリの無茶ぶりに応えた結果だと言うことを忘れてもらっては困る。


 だが今はそのすべてがうまくいったことを素直に喜ぼう。


 再び手に入ったレアアイテムに、僕は思わずキス。


 そしてレベルは上がり。上級職、聖騎士とやらが解放されていた。


「ついになれるのか上級職……」


『いいね。じゃあ戦士の役立つスキルはだいたい取得しているし、さっさと転職だね』


「……せわしなくない?」


『時間をかける意味がないね』


 確かに。断る理由もないが、もっとこう……なにかあってもいいと思う。


 おそらく最初の僕ならこのうち一つでも泣くほど喜ぶこと疑いなかった。


「テンポの速さで、マヒしちゃってるよなぁ……」


『聖騎士のジョブに変更したら、安定性は一気に増すよ。ここからはもう少し本気でレベル上げだね。地力を上げてダンジョンの中を歩けるようになる』


「今以上? ……いやでもさ。何で毎回命懸けで駆け降りるの? 正直生きた心地がしないんだけど?」


『そりゃあ君のリクエストじゃないか。一刻も早く安定感が欲しいって』


「階層を10段飛ばしで攻略することを安定感があると言うんだろうか?」


『何言ってるんだい。君も気がついていると思うけど、守護者のいる階層は突破すべき関門ではあるけど、ゲームで言うところのセーブポイントだ。押さえられるなら早めに抑えておくべきだよ。それにどの階層に行ってもモーニング前に帰ってこられることを安定してるっていうんだ』


「この攻略君……今更気がついたけど要求する水準が高すぎじゃない?」


『仲間を巻き込んだ自責の念が晴れるくらいの強さを求めているんだろう?』


「……わかってらっしゃる」


 色々言ったが、図星をつかれてしまったならしかたがない。


 多少愚痴ったところで、今の僕は大人しく多少の無謀にも首を突っ込む覚悟はあった。


 そしてこの無茶無謀を通してしまえるからこその攻略君だと僕もいい加減理解していた。


「……問題は僕が一回でもミスしない保証はないってことだよな。……ハハッ」


 だが精一杯楽しもう。


 実際20階を突破して、やって来た新たな階はまさに新境地だ。


 僕は深呼吸で未知の階層の空気を胸いっぱいに取り込む。


 ああそうだ。今僕は―――絶体絶命だ。


 本来であれば1階降りるだけでも何か月も懸けるはずのダンジョンを、全力で駆け降りた。


 人生で二度目の無謀チャレンジだった。


 21層って、もう身動き取れないからね? 帰れない気しかしない。


 そこにいるモンスター達の気配に僕は完全に足がすくんでいた。


『急いだ理由はちゃんとある。ここはね? レベル上げには最高なんだよ』


「……本当に? 除草剤のとこより?」


『目じゃないね。まずは真っすぐ進んで水辺があるから、そこで昨日届いたゴムボートを開くんだ』


「……おうとも」


 今は言葉を信じるしか、生き残ることが出来ないのは毎度のことだった。


 ボートで水辺を上り、やってきたのは周囲をジャングルのような密林に囲まれた、湿地帯。


 そして今いる沼の上に僕はゴムボートで浮いていた。


『ここから、岸に向かって一発。魔法を撃ってくれ』


「ショックバレットでいい?」


『ああ。何でもいい』


 僧侶の時に覚えた無属性の衝撃を飛ばす魔法だが、使い勝手は割といい。


 僕は手のひらを言われた通りに岸に向けると一発魔法を放った。


 ドンと大きな音をたてて岸の岩が拭き飛ぶ。


 そのとたん、森が動いた。


 そして恐ろしい殺気が山ほど音に反応していた。


「……ヒィ!」


『―――この階層はこういうところなんだ。音に反応して無数のモンスターが襲い掛かって来る』


「どどどどうすんのこれ! こんな数、絶対死んで……」


『まさにモンスターのトラップみたいな階層なんだけど、こいつらの血の気の多さが決め手なんだよ』


 目の前に世界の終わりみたいな光景が広がっているというのに攻略君の声色は妙に穏やか過ぎた。


 密林から飛び出してきた巨大モンスター達は俺に襲い掛かり、真っすぐ突っ込んでくると……めっちゃ沈んだ。


 そしてもう浮き上がってくることはなかった。


「……え?」


『この通り勝手に溺れちゃうんだよ』


 四方八方から、モンスター達は飛び出して来る。


 そして例外なく、沼にはまって姿を消すと……身体が猛烈に軽くなってゆく。


 レベルアップによる肉体の変化は、露骨なハイペースで僕の体を書き換えていった。


「……おかしいだろこんなの!」


『グズグズしてる暇はないよ! ホラ! ハンマー振り回して、沈めて沈めて! 熟練度も荒稼ぎだよ!』


「……なんかこう……君の言う特訓方法って楽と効率に振り切れてない?」


『いいだろう? そっちの方が?』


「まぁ……そうなんだろうけど」


 おかげできっと僕は学園一のスキル持ちで、成長率だけならトップクラスの自信がついてしまった。


『そしてここが効率がいいと言った最大の理由は別にある』


 攻略君は何かを岸に見つけて、楽しげに笑う。


 何事かと思っていたが、僕も密林にギラリと輝く金色の輝きを見た。


 そしてやったら素早い金色も沼に飛び込んでくる。


 ガチンとハンマーで叩いた後は他のモンスターと同じだったが……得られるものは段違いだった。


「う、うお! レベルが……一気に!」


『ここにはキング系……体が金色の小型モンスターなんだが、要するにべらぼうに経験値が多いモンスターが出る。トラップにハマったら経験値の量は普通のモンスターの10倍くらいは期待していいよ』


「……」


 なるほどそいつは桁違いだ。


 確かに驚くほど効率がいい。


 しかしたまに溺れて沈むモンスターが跳ね上げる泥がピチャリと顔に飛んでくると、なんとも言えない罪悪感が胸に飛来する。


「やっぱなんか……心にくるものがあるんだよ、君のレベル上げ。除草剤の時も思ったけど、思っていた方向性と違うというか……」


『そんなセリフはいっちょ前にダンジョンを歩き回れるようになってから言ってほしいね』


「……そりゃあそうだけど」


 まぁ楽なのには違いない。絵面がとんでもないだけで。


 やっていることは命のやり取りだし、溺れているこいつらは僕を食おうとしているに違いないのはわかってる。


 でもハンマーでぶん殴るとすごい勢いで沈むモンスターを見ていると、目を逸らしたくなるわけだ。


 それでも僕には仲間にこの先を道先案内する責任もある。


 引くわけにもいかない僕は強制モグラたたき地獄で、実に効率的に経験値を稼ぎつつ、精神的ダメージを受け続けた。

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― 新着の感想 ―
地形を想定してないとか行動ルーチン手抜きかな?www
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