第253話権能の正体
この話は、気軽に誰かに聞かせられる話じゃない。
僕らはできる限り人気のない場所に移動してからちゃんと話をすることにする。
もちろん慎重に話す内容は選ばなければならないんだけど……しかし開口一番僕はレイナさんにしてやられた。
「ワタシのはハデスって言うらしいですよ?」
「!? 簡単に言っちゃダメだよぉ?」
思わず口に出してから、うごごごごと喉の奥を鳴らす僕。
「おや、そうなんですか? これはうっかり秘密を披露してしまいましたね!」
「……!?」
一手で大事なところを一気に引き出されてしまった。
この女子、策士である。
ある意味捨て身の一言で、完全に掌の上で転がされてしまった。
だがレイナさんのたった一つの質問は、僕に思っていた以上の衝撃をもたらした。
権能については、どんなに知識を安売りしても、これだけは語るまいと決めていた絶対防衛ラインだ。
何なら墓まで持っていくつもりだったわけだが、こうもあっさり図星を指されると、言葉が出てこない。
「ええっと……それはどういう?」
結局軽くとぼけてみたら、頭の中の攻略君はあまり意味がないと忠告した。
『まぁ……バレても仕方がないかな? 彼女は先ほど目覚めたようだし……場所が悪い』
は?
『あの扉を開く条件だよ。権能を持つ者3名が必要だ。権能に目覚めたなら、当然条件は理解できる。そうすると……怪しい人間は自ずとわかるというものだ』
そんなまさかと思いながら、ガクリと肩を落として僕はいよいよ観念した。
「……レイナさんは、さっき目覚めた?」
「そうです。ギターでぶん殴る時に。権能だとわかったのは扉を調べてみた時ですね。今この場で持っている人間は2人みたいです」
「はー……そうなんだ」
「ワタヌキは―――最初からですか?」
「……そうだね。ちょっと前から持ってる。ぶん殴っても大した威力にはならないけどね」
「またまたー。あの化け物を一撃だったんでしょう? 必殺です!」
「いやぁ……」
おや? これはなにか勘違いしてる?
それはそれで好都合な話だが、秘密にし過ぎることに少し迷いがあるのも本音のところだ。
黙っておく方がそりゃあ何もかも丸く収まるだろう。
しかしもうすでに権能の名前を聞いてしまった以上、まだ深く事情を知らないだろうレイナさんのある種の核心に触れているところがある。
モヤモヤしたものを感じていると、レイナさんは自分の口元に人差し指を当てて、ニンマリと笑った。
「別にワタヌキは全部説明しなくてもいいですよ。ワタシが勝手にしゃべっただけですから。でも……二人で秘密を共有できたのは最高に楽しいですね!」
「……っ!」
この女子の小悪魔感よ!?
そんな表現は小耳に挟んだことがあったが、まさか僕の人生で体感することがあるとは!
……いやまぁ身近な女性陣に勝てそうにないなと感じるのは割とあるんだけれども、転がされたワタヌキ君は結構お困りである。
だが、からかうだけで終わるような話ではたぶんあるまい。
権能とやらが人によってどれだけ違いがあるのかなんてわからないけれど、おそらく僕だけはある程度説明する能力を備えている。
こうなれば、巻き込んだ自分には説明する義務があった。
「なんです? その困ったカピバラみたいな表情は?」
「そんな顔してるかね? うーん……なんというかその権能って奴、結構すごいはずだから、本当に慎重に扱った方がいい。いい? たぶん、この階層の扉を開く鍵なのは間違いない。だけど、持っている人間を探し当てるのは難しい」
「そうなんですか? じゃあワタシみたいに育てるのは?」
「現状、パーティ全員に目覚めていないところを見ると、狙ってやるのは無理なんだと思う。特に法則性がある話ではないのかも」
レベルが上がったからといって目覚めるものでもない。
条件は単純に運か、それとも何かしらのきっかけで権能を司るなにかに気に入られるか、それとも別のものが関係あるのか?
それこそ―――神のみぞ知ると言ったところだ。
僕はレイナさんを見る。
そしていつになく真剣に言った。
「いい? 権能に関しての先輩としての意見を言わせてもらうと、けっこう扱いの難しい物なのは間違いない。自分で研究してみるのもいいと思うけど、相当にリスキーだ。でも僕は少しばかり力になれるかもしれないから、行き詰まったら言うといい。必ず助けるから」
「……! わ、わかりました。え、ええっと……その、ワタヌキの知識の源もこの権能っていうのに関係あるんですよね?」
「まぁ……あると言えばある」
何とか絞り出した答えに、レイナさんはソワソワしたり視線が定まらなかったり、ずいぶん反応が忙しい。
無理もない。
ではその間にちょっと心の中で一言呟かせてもらおう。
謀ったな攻略君!?
『そんなまさか……不可抗力だよ。私にだってわからないことはある。権能の発現タイミングなんてその最たるものだよ?』
本当かなぁ?
『本当だとも。攻略君が嘘をついたことがあったかな?』
「……」
『まぁまぁ。損はさせないから。それよりもここまで来たらちょっと頼みがあるから聞いておくれよ』
頼みかー。
攻略君の言葉に嘘はないけど、けっこういいように使ってくれてません?
生きているからまだ許せるが、無用な綱渡りに誘導されてはいるんだよな。
そして珍しく、攻略君からお願いがあるという。
そのお願いは、到底受け入れられるものではなかったが、大丈夫だから是非ともと強い嘆願に僕は折れた。
「……じゃあ、ちょっといい? レイナさん。少し付き合って?」
「いいですよ? なんですか?」
レイナさんは頷く。
そんな彼女に僕は言われた通りに自己紹介をした。
「少女に宿った異国の権能よ、改めて挨拶しよう。私の名は“オモイカネ”。今は攻略君などと呼ばれている知を司る権能だ。これも何かの縁なのだろうから、仲よくしてもらえると嬉しいよ」
「……!」
すまんレイナさん。
表情からして相当驚かせてしまったかもしれないけど、今後こう言うことは控えるから、友人の誠意を受け取って欲しい。
こうして攻略君がいった体で秘密を伝えた僕は、きっと卑怯なところが出たなと自己嫌悪にも陥った。




