第251話知の力
超化とは絶大なパワーアップを可能にするスキルである。
だが同じような性質のロード化と一緒に使おうという発想がなかったのは、どちらも強烈な反動があるからだ。
桃山君は、似たようなスキルを全力で使用した時、血を吹いて倒れた。
僕の場合も似たようなことが起きる予感は、ロード化だけでもあるというのに、攻略君はそこに重ね掛けしろと言う。
それは……なんというか……。
「……最後の、手段にしたいねっ」
『なら早く仕留めることだ。期待しているよ。君ならやってくれるだろうと』
「とんでもない事を言うよね……!」
まったくこの攻略君は無茶を言う。
だが、裏スキル一つでも敵の能力を圧倒するスペック自体は確かにある。
ロード化によって上乗せされたパワーの一撃は敵の大剣を大いに振り回し、明らかに相手よりも速い動きは、楽々と目の前の化け物を翻弄していた。
そしてついに見えた隙にハンマーは吸い込まれ、僕は思い切り暗黒騎士を打ち上げた。
「……ここが決め時でござるな!」
叫んだ瞬間、桃山君の目が赤く光り、フードの下から角が伸びた。
侍専用裏スキル・修羅化によるブーストで、二刀流の刃は雪崩の様な斬撃の津波となった。
刀が閃いた瞬間に、金属音がけたたましく鳴り響く。
暗黒騎士は一息に滅多斬りにされて、空中を跳ねまわっていた。
だが斬れてはいない。
鎧は刃を弾き、体勢を立て直した暗黒騎士は巨大な大剣の斬撃で反撃に転じ、グオンとその一薙ぎで空間が揺らいだ。
「!」
桃山君は咄嗟に大猿を出して身を守ったが、こちらは一瞬で散り散りにされてしまった。
それを見た僕はまた新しい攻撃に舌打ちした。
「ぐわ! また新パターン!」
『形態は様々だが空間に干渉する攻撃手段だ。あの揺らぎに巻き込まれたら守ろうが避けようがダメージがある!』
「グゥ!……」
刀は一本弾き飛ばされたが、桃山君もただではやられない。
刀の代わりに銃を引き抜き、至近距離で撃ち放つ。
「これでも喰らうでござるよ!」
炸裂した黄金の炎は暗黒騎士に命中、爆発した。
ほぼ全力の一撃は桃山君もろとも暗黒騎士を吹き飛ばす。
のけぞり、爆風で跳ね飛ばされた先はしかし、後衛のレイナさんの方向だった。
「チャンスです!」
「……! ダメだ!」
僕は叫んだが、集中したレイナさんに声は届かない。
そして膨大な魔力でフィニッシュを決めようとするレイナさんに騎士は反応した。
レイナさんの扱う魔力は膨大だが、それでも敵の方が強い。
それに誰より先に冥王化を行使したレイナさんの制限時間はそろそろマズイ。
「……!」
当然、暗黒騎士はレイナさんに向かって牙を剥き、一際危険な呪いが剣から滲みだす。
魔法使いがアレに触れたら死ぬ。
ゾゾゾと伸ばされる呪いの手は、死神の手よりもなおタチが悪い。
レイナさんもまたその性質を一目で見抜き、焦りに表情が強張っていた。
僕は咄嗟にカバーに入ろうとしたが、目を見開き、レイナさんがギターのネックをバットのように構えた時点で頭の中に待ったがかかった。
『待て!』
「!」
僕は声に脳を揺さぶられ、グッと踏みとどまる。
「―――フゥ」
もはやカバーも間に合わないその刹那、極限の集中状態でレイナさんの身体から漏れ出た力は、冥王化によって得られた変化とは違う。
その両目に青白い光が灯っているのがかろうじて僕にも見えた。
「……ロックンロール!!!」
光は弾け、いつも以上に派手な吸引力でやたらオドロオドロしいものを吸引してゆくレイナさん。
彼女が放ったギターのフルスイングが暗黒騎士の頭部の芯を捕らえて、クリティカルヒットを叩き出す。
一撃は暗黒騎士の規格外の魔力すら間違いなく圧倒していた。
「……うお!」
本来そんなことをしたらギターは粉々になってしまうはずが、壊れた様子が一切ない。
ドカンとギターの一撃というよりも爆弾でも炸裂したかのような轟音と黒い雷―――いや、雷というよりも空間に走った罅みたいなものは、インパクトの瞬間に敵の纏った魔力をズタズタに破壊してゆく。
「……!一体何が!?」
『覚醒した!?……いや凄まじいな! だが……決めきれてない!』
レイナさんに一体何が起こったのかわからない。
だがその彼女がいきなりガクリとその場で崩れ落ちたのを見て、僕は大いに焦った。
耳が丸い! 要は時間切れである。
「!」
「オオオオォォォ!」
そしてここに来て一際大きく咆哮した暗黒騎士は、まず死にそうな獲物を見逃さなかった。
桃山君も満身創痍でリカバーは無理。
浦島先輩と龍宮院先生は追撃を狙っていたが、レイナさんのカバーには間に合いそうにない。
「――――チェンジ」
僕はレイナさんとの位置を自分と入れ替えて、迫りくる攻撃の前に身をさらす。
そしてすぐさま切り札を切った。
「超化」
目の前の空間がグニャリと歪む。
何が起こっているのか肌で感じるのは、今まさに降りかかろうとする攻撃と同系統の属性を持つゆえだろう。
敵を世界ごと削りとるような攻撃は僕に真っすぐ振り下ろされる。
音にならない気持ちの悪い耳鳴りがして、視界がバツリとシャットダウンされたみたいに黒くなった。
「――――――!」
だが脳みそを引っ掻き回すような悲鳴の思念を上げたのは暗黒騎士の方だった。
僕の視界が戻り、再び見えた敵はその片腕を綺麗に切り取られていた。
「……彩度上げ過ぎたな。まぶしくて見えにくい」
気が付けば、僕の頭の炎は真っ白に燃え上がっていた。
それは僕の身体に起きている変化を、幻術シールが正確に察している証である。
幻影君め、毎度のことながらいい仕事をする。
僕の幻影がキョロリと目を回し、いつものポジションに戻ってくると、満身創痍の暗黒騎士が倍ほどに膨れ上がっているのが見えた。
「……ウゥゥゥゥ」
一応二足歩行だが、再び纏まったそれは、形を完全に保てていない。
再形成した大剣なんて、もはやただの闇の塊だ。
だが剣に全ての力を込めているのか、溢れ出た黒い刀身は天井をぶち抜き、柱よりも長く伸びて、掲げられている。
標的はもちろん、僕だけだ。
「……なんか強そうだな。だけど……なんだ?」
僕は腰を落としてハンマーを構え、全力でオーラを込める。
加減なしで注ぎこんだら、トールハンマーはグニャリと溶け始めてしまった。
これは良くない。
さらにオーラで補強して、無理やりハンマーの形を保つと、頭の中でやたら愉快そうな笑い声が響いた。
『ハッハッハッ! 素晴らしい! 邪神の力なにするものぞ! さぁ! 相棒! 未知を踏破し、緻密に積み上げたそれは紛れもなく君の、人の知恵の集積だ! 胸を張って踏み越えたまえ!』
「……」
えーそんなに?
ただ、テンションは攻略君ほどではないけれど……まぁまるで負ける気はしない。
振り下ろされる馬鹿デカイ剣に合わせて、僕はハンマーを正真正銘全力で振り抜いた。
「フンヌ!!!」
結果は―――拮抗すらしない。
抵抗なんてほとんどない、軽く気持ちいいスイングが円を描く。
「――――ガ!」
当然衝突した大剣は粉々に粉砕され、黒い破片がちりぢりに崩れ去る。
崩壊は剣にとどまらず波及して暗黒騎士の外側が崩壊、元の火の玉君ぬいぐるみが中から零れ落ちている。
だがこれで終わりはもったいない。
「……おっと」
すかさずぬいぐるみを鷲掴みにした僕は弱り切ったぬいぐるみに全力で魔力を流して、組み込んだギミックを発動させた。
手の中の火の玉人形は、今のところ動く気配はない。
僕は長い―――とても長いため息を吐いて天井を仰ぎ見た。
「ふぅ……これで終わりか」
『ふーむ……人生の見せ場とも言うべき一撃の掛け声がフンヌなのはいかがなものか?』
「……うるさいよ」
一応ツッコミを入れられたのは、奇跡だった。
すでに全身がプルプル震えているのが自分でもわかる。
僕は後ろを振り向くと、みんなが僕を見ていた。
レイナさんは気を失っているが大丈夫そう。
桃山君と龍宮院先生は怪我は軽傷だけど、体力はきつそうだ。
浦島先輩はバフと回復を掛け続けた影響で魔力の消耗が激しいらしく、フェイスに顔文字が表示されて(><)なことになっていたけど、この中ではまだ余力があるっぽい。
僕は白から赤に戻りつつある頭のファイアーヘッドでニッコリと笑って、とりあえず浦島先輩にぬいぐるみを手渡す。
「じゃあ先輩……コレお願いしますね」
「えぇ? 渡されても困るんだけど……」
「いや……もう僕限界なんで……」
「は?」
自分の言葉通り、限界は突然やって来てプッツンと何かが切れた。
ドロリと鼻と耳、そして口から血を吹いて、悶絶。
「わ、ワタヌキ君!?」
「ちょ! これはヤバイ! 回復薬!」
ああ、時が見えたらどうしよう……?
そこで僕の意識は完全に真っ白になった。




