第243話ドラゴンの罠
「でっかーい! 説明不要!」
大興奮の浦島先輩がとんでもないデカさのドラゴンを撫でている。
ゴロロロロロ。
喉を鳴らすドラゴンもまんざらでもなさそうで、中々衝撃的な光景である。
しかしハッと正気を取り戻したドラゴンは、悔し気に渋い表情を浮かべてなんと浦島先輩に向かって話をし始めた。
『何なのだお前達は……』
思念でぼやくスマウグ君と名付けられた巨大ドラゴンは、大した奥の手を出す暇すらなく、僕らの軍門に下った。
『まさか人間などによりにもよって使役されることになるとは……というかこんな真似ができる奴がいることが驚きだ』
「いや、私もこんなにドラゴンと話ができるとは思わなかったよ……テイムってされるとどんな感じ?」
ただこんな質問にはさすがにドラゴンも、渋面を浮かべていた。
『……それを聞くか? どうにも抗いがたい強制力を感じる。その辺の自我の薄い奴らなら問題もなかろうが……我ほどの存在ともなれば、違和感もある』
「そんなもんなのかー。なんかゴメンね?」
『……忌々しいが。まんまとしてやられた我の責任である。弱肉強食はダンジョンの掟だ。それは入り口の雑魚であってもわきまえているだろうよ』
おお、そんな自覚があるのか。マジで賢いこのドラゴン。
僕はしっかりドラゴンがテイムされていることを確認してから呪いを振りまく竜玉を魔法で取り出して、彼の魔石を返却することも忘れない。
これで戦力として数えられそうだけど、だいぶん無茶な戦法だっただけに成功して本当によかったと安堵した。
さて、なんだかんだ奇襲が成功して被害は抑えたが、でかい魔法を相当使ったことには違いない。
本当ならこの階層でしばし休息したいところだけど、そうゆったりしているわけにもいかない事情があった。
「じゃあ、すぐにでも100階層に降りようかと思うんで、そのつもりでいてくださいね?」
僕はドラゴン戦を終えて息抜きモードに入っていた他の面々にも声をかけると、物珍しさでドラゴンを観察していたみんなは何で? と言う顔で僕を見た。
「それはさすがに急ぎすぎじゃないかな? 強敵との連戦が続いているんだ。次は一番激しい戦いになるんだろうから、少し休んだ方がいいと思うんだけど?」
龍宮院先生が忠告してくれるけど、残念だがそうするわけにはいかない。
というのもこの階層でゆっくりできないのはギミック的な問題だった。
「この階層まだ終わってないんですよ」
「……終わってないってどういうことだろう?」
「ドラゴンを倒すことで、次の階層への道は開かれます。でもこの後、放っておくと襲ってくるやつらがまだいるってことです。具体的に言うとボスの穴を埋める縄張り争いに巻き込まれちゃいますね」
「……それって。ドラゴンの?」
「ドラゴンのです」
さすがの龍宮院先生も、青くなる。
それは99階層最後の仕掛けである。
このスマウグという絶対者を失った階層では、すでに99階層にふさわしいやばいレベルの他のドラゴンたちが活発に動き出している。
そんな奴らが長時間ここにいると、まず探索者に襲い掛かってくるわけだ。
今回はテイムだからいくらかおとなしいとは思うけど、一体一体が守護者並みのドラゴンに集団で襲われる何気に凶悪なトラップらしい。
そして最大の山場を前に、いったん休息しようとした賢明な探索者はこの天変地異みたいなドラゴンラッシュに叩き込まれて地獄を見るというわけである。
桃山君とレイナさんはちょっと楽しそうだなって顔をしていたが、見なかったことにしておいた。
僕はコホンと咳払いして、確認する。
「だからさっさと次の階層に抜けます。では、みんな。今の実力はここまでの戦闘で存分に試せましたか? 回復も十分にしておいてください。沢山ポーションは持ってきているんで惜しまず使ってくださいよ? いよいよ100階層に突入しますけど本来、僕らは100階層の守護者と戦うためにそいつを守るモンスターと戦い、激戦に勝利して、守護者を討伐することを要求されます」
100階層は守護者の階層である。
しかし今回は、守護者だけが待ち構えているわけじゃない。
いつも以上に広大なエリアに、夥しい数のモンスターが挑戦者を待ち構えている。
そいつらをかいくぐり、ボスのいる部屋に入って初めて100階層の守護者戦へと突入し、戦闘することができるのだが……それを聞いた桃山君は楽しそうに笑っていた。
「はっはっはっ! まるで勇者の様でござるな!」
わかっているじゃないか桃山氏。
100階はまさしくそういう戦いを想定したエリアだと思った方がいいだろう。
「そうなんだよねぇ。そして僕らは今回勇者さながらに敵を正面から叩き潰します。というかそれしかできなさそうなんだけどさ」
「……大丈夫なんでござるかそれ?」
「まぁ大丈夫だと思うよ?」
せっかくの区切りだし最後まで全力を出しつくしてみよう。
ただし……裏技も表技も全部出しは結構容赦がないけれども。それは仕方のない事である。




