第237話黄金の砂漠
「続いてこの階層も……超やばいです」
僕は淡々と解説した。
するとスッと浦島先輩が何かを思いついたように手を上げ、言った。
「さっきの階層の時点で結構ヤバかったと思います。あと二足歩行のカメも欲しいです」
今一緊張感のないことを言う浦島先輩だが、意識を切り替えて欲しい。
僕はやんわりと首を振って、妥協案を提示した。
「先輩? 今回は一旦我慢してください? 後でもう一回行く時はダンジョン素材でピザ作っていきましょう」
ところがそのテイム条件が琴線に触れたのがレイナさんである。
「……! ピザでいけるんですか! マスターワタヌキ!?」
「ホラー、レイナさんが食いついちゃったじゃないですか。ええ。いけます」
「マスターァァァァァ!」
「レイナさん? 落ち着いて? 次の階層の攻略に集中してね? 超危ないからね?」
色んな意味で新しいダンジョン攻略に興味津々なメンバーを落ち着かせつつ、続いて僕らがたどり着いたのは広大な砂漠の階層だった。
しかもただの砂漠じゃない―――黄金の砂漠である。
「……え? マジで言ってる?」
「ゴージャス!」
「ギラッギラでござるなぁ!」
「……え? うそでしょ? これ全部?」
「はい砂金です」
砂に見えるそれはすべて金で、その真ん中にはちょっと巨大すぎるほどに巨大な三角形の建築物が聳え立っていた。
高い気温でゆらゆら陽炎が揺れているけれど、それはそれそのものが光り輝くピラミッドであった。
普通にヤバい光景だ。
しかし観光気分ももうすぐ終わることを僕は理解していた。
だから相手の領域に踏み入る前に僕はひとつ忠告する。
「では……大切なことを一つ。ここから先は絶対出し惜しみはしないように」
「ワタヌキ君が言わないで欲しいよね」
「右に同じでござるな」
「出し惜しみしすぎて渋滞中です」
「隠していることてんこ盛りそうだよ」
「ワォ。必要なことを必要以上に出してるつもりなんだけどなぁ!……仕方がありません」
今回だって値千金の情報垂れ流し、注意事項だって前もってきちんと忠告したと言うのに、ひどい言い草だ。
そんなに言うなら仕方がない。
僕なら前もっては知りたくないけど、その時が来たら一目でわかる絶望的な情報をお知らせしてあげよう。
僕はきっちり間違いがないほどピラミッドを指差し、これから起こることを告げた。
「あのピラミッド。今から動きます」
そしてピラミッドは動き出した。
本当に根元から……いや地表に出ていた分の倍ほど地下に埋まっていたピラミッドが丸ごとだ。
「「「「は?」」」」
「さっきの島ガメよりでかいですよ? しかもあのゴーレム……丸ごとオリハルコンなので、魔法がすべて効きません」
「めっちゃくちゃじゃないでござるか!」
桃山君がいくら何でもと叫ぶが、実際桃山君が驚くだけのヤバさをあの歩くピラミッドは持ち合わせていた。
「倒す方法は10階の鉄巨人と同じなんだけど……見ての通り規模感が違いすぎます」
「……殴って倒すのはきつそうだね」
「まぁきついですね」
浦島先輩が目を細めるけど、きついと言うか本当にできるのか、疑わしいと感じる感覚は間違ってはいない。
アレの攻略は正攻法の戦闘じゃ厳しい。
つまるところギミックの攻略がモノをいうステージだという事だった。
「だからコアを探し出して破壊するのが正式な倒し方なんですが……今回はもっと簡単な方法で攻略していきます」
「簡単な方法っていうと……テイム系? 容量行ける?」
もう手順については慣れたもので浦島先輩は心配してくれたが、来るとわかっていれば手段を用意してくるのが僕ら流の攻略だった。
「もちろん……この日のために、別のサポジョブつけてきましたからね」
「サポジョブ?」
「そうですよ? ゴーレムの構造を理解し、長く接することで目覚める面白いやつです」
背負い物はちょっと歩きづらいけど、かなりの頻度で使っていて本当によかった。
サポートジョブ”ゴーレムマイスター”は、これまた特定モンスターとの相性とテイム枠の限界を取っ払える、とても面白いゴーレム専用の特殊ジョブである。
「作戦は単純です。僕がアイツをテイムし終えるまで足止めお願いします。では……よろしく!」
仲間達に後を託して、僕は黄金砂漠を走り出す。
アレを止めるのは、攻略君の話を聞く限りたぶん僕じゃないと無理だ。
こうして遠目で眺めている間にも、動き出したピラミッドの金属ブロックがパズルのように組み代わり、不格好ながら手足を形成してこちらを目指してやって来ている。
僕は走って近づくにつれ、そのあまりの大きさに自分の身体を滴り落ちる嫌な汗を感じていた。
「でっか! 攻略君! ナビ頼んだ!」
『承知した。最短を指示するから、ついて来てくれよ?』
「もちろん……自信ないけどね」
僕は狙いを定めて奴の内部に転移。
ブロックの隙間は案外大雑把で侵入経路は多いらしい。
まず第一試練は通過した。
内部までやたら派手な超大型兵器に対して、内部から攻めるこのアプローチは僕的に一切抵抗はなかった。
「テンション上がって来た―――巨大なモンスターの体内に入っての攻略はお約束ってやつだね」
『そんなものかな?』
「……おいおい自覚なし? セオリーは大事だよ? 攻略君の指示に躊躇いなく突っ込めるのはいくらかセオリーのおかげもあるね。攻略君の指示はそういうの多い」
『……嘘だろ?』
さてどうだろうね?
無駄口を叩いている間にも、化け物ピラミッドは大きく揺れ動いている。
ぺしゃんこになりたくなければ、最速で走り抜けた方がよさそうだった。




