第229話毒ガエルテスト
37階層の独特な匂いのある崩壊した工場を思わせる階層には、毒々しい紫色をしたカエル型のモンスターがいて、いかにもヤバそうな発光する緑の沼からこちらの様子を窺っていた。
今回のターゲットはこの毒ガエル、ポイズントードである。
うっかりまったく毒に耐性のない探索者が触れでもしたら、皮膚からでも全身を蝕む強力な毒を持ったモンスターである。
見たこともない階層にいきなり連れてこられた東雲さんはいかにも危険なカエルを僕の背中の後ろから恐々眺めていた。
「な、なんなんここ……ダンジョンなんですよね?」
「ダンジョンだよ。この階層のエリアは、毒属性ばっかりだからあんまり行きたくなかったんだよ。でもさっきの銃の理屈を聞いた時、いけそうだなって」
「えぇ? そんなモンスターがこのダンジョンにいるなんて聞いたことないですけど……」
「まぁ、そういうことはあんまり気にしないように」
「そ、そうですか?」
解毒することはできるけど、やばい毒を喰らうたびにいちいち気分が悪くなるのも正直しんどい。
しかしこの銃が機能するなら危険な毒ガエル相手でも問題ないはずだった。
「じゃあさっそく……まずはあいつでテストしよう」
「は、はい……よろしくお願いします!」
僕は東雲さんから預かった銃を構えると、液だまりに陣取る毒ガエルに狙いを定めて―――引き金を引いた。
まずは一発。
思ったよりも反動はない。
放たれた魔法弾は毒ガエルに命中して吹っ飛ばすと、カエルは毒液にボチャンと落下した。
「当たった!」
「おお! 威力もなかなか!」
ショックの魔法のような範囲の広い打撃に近いものかと思ったら、もっと小さく凝縮されたまさに銃弾のようだ。
一撃では仕留められなかったようだが、よろめいて浮いて来た毒ガエルは明らかにダメージがあった。
階層のレベルを考えると現状の成果でも、大したもんだ。
じゃあ続いて、魔石にチャージ済みの魔力は使い果たしたので自前の魔力でやってみよう。
容量の限界を見極めて集中。
「……今」
攻撃されたことで目つきが変わり、飛び掛かってきた毒ガエルに向かってもう一度引き金を引いた。
ドンと体に風穴を開けて弾け飛んだ毒ガエルは一撃で戦闘不能。銃弾は明らかに威力が増していた。
「ヤッター! 倒した! 倒しましたよ! っていうか何ですあの威力!」
大はしゃぎでピョンピョコ跳ねる東雲さんは感極まってバシバシ僕の肩を叩き。
僕はこの武器の可能性を見た気がした。
「まぁまぁ落ち着いて? まだダンジョンの中だから……でもこれいいな」
「そ、そうですか!?」
「うん。もう少し試していい?」
「もちろんです! こちらこそよろしくお願いします!」
では実験を続けよう。
僕は今度は、先ほど毒ガエルがいた液だまりを覗き込む。
そこには大量のウネウネ動くでっかいオタマジャクシが相当数いて、なるほどと頷いた。
「召喚」
呼び出したのは上位天使、時を司るロボである。
「このモンスターの時を進めろ」
端的に指示すると上位天使は頷き、空中に時計の様なエフェクトが現れるとものすごい勢いで廻り始めた。
「よし、東雲さん今度は少し離れるよ?」
「は、はい!」
するとものすごい勢いでオタマジャクシが毒ガエルに変化してゆくのが見えてビビったが、怖気づいている場合じゃない。
僕らは一端距離を取ると銃を構えた。
「……」
「な、何が起こるんです?」
スキルの効果が終了して、成長が終わる。
そしてバシャバシャと毒液から次々飛び出す毒ガエルに、東雲さんは悲鳴を上げて僕をチョークで締めあげた。
「ぎゃあああ! ぬめぬめしとる!」
「……じっとしててね!」
では次のテスト。
常に魔力を流しながら引き金を引いた。
呪文を使うことのなく次々撃ち出される魔法弾は毒ガエルを撃ち抜いて仕留め、チャリンチャリンとそのいくつかは小さなメダルを残して消滅した。
ほっほう! チャージだけでなく連射も可能と! 気分はちょっとした〇ックマンだ。
「いいじゃない! この連射性は魔法にはない強みだね!」
「そ、そうですか! 父もめっちゃ喜びますよ!」
それ以上に東雲さんがすでに喜んでいる時点で、協力した甲斐はあったというものだった。
僕は転がったドロップアイテムを回収して確認する。
毒ガエルの落とすカエルコインは持っているだけで、毒物の一切を無効化してくれるありがたいコインなのだ。
けっこうドロップしていて運がよかった。
そして僕はその中の一つを東雲さんに差し出した。
「はい。これあげる」
「何ですかこれ? カエルの模様の入ったコインですか? なんかかわいいですね」
「そうそう。身に着けているだけで毒状態にならないから。持っているといいよ」
「……えぇ何ですその備え」
「授業でダンジョン潜ったりもするでしょ? それに……」
銃なんてものが画期的であればあるほど、この備えは効いてくる気がする。
まぁ映画の観すぎかもしれないが。
「何です!? 最後まで言ってくれないと不安になるんですけど!?」
「言っても不安になると思うんだけどなぁ」
でも、身近に毒を使いこなせる知り合いができたから……というわけじゃあないけど、うちのメンバーには全員渡しておくつもりだった。




