第227話魔女の店
「ひとまず、ここに店を出して欲しいんだけど……」
「…………っ!」
部室から扉を開けるとそこは売店の裏で、15階の植物型モンスターの跋扈する庭園前に繋がっていた。
うんうん、服部さんも驚いてる驚いてる。これがあるからサプライズはやめられない。
移動に使ったのは部室に常設している特製のアイテム。
扉が増えたことで改良を加え100階層分のメモリのある取っ手の付いた扉は、調整することで好きな階層の売店に行くことができる、いよいよどこでもな扉化した素敵アイテムだった。
転移宝玉ではエリアボスの所にしか行けないから、最終的にどの階層にいても売店を探して駆け込めば部室に帰ってこれる裏技である。
レベルが足りない誰かを、特定の階層に案内するのにはとても都合がいい。
毎回僕が送るなんてまどろっこしい真似をしたくない相手には、実に有効なアイテムだった。
服部さんは僕の説明の大半を理解するのを頭が拒絶するのか、特大のクエスチョンマークが浮かんでいそうな困惑の表情を浮かべていたが。
「……転移宝玉とかさらっと言っちゃっていますが、そんなもの持っていない……ですよ? 鉄巨人なんて倒せません」
「だから入る時はここからで。店の場所は動いても、扉はここに繋がるから。後は……この売店をどうにかしよう。キューピッツ、改装するよ」
天使達も人数が増えて、僕は下位天使を一律キューピットと呼ぶことにした。
それで一応は通じているようで、返事は明快である。
「「「はいでち!」」」
キューピット達は元気に挨拶した後飛び出して行って、作ったばかりで中身は少ない店から、一切の道具をあっという間に運び出した。
僕はおおよそ中身が空になったことを確認して、売店そのものを材料にスキルで組み上げ直してゆく。
ゆらりと魔力が揺らめき店に流れると、魔力と店は粘土のように混じり合って、僕のイメージを骨子に再構成してみせた。
そして完成したのは外観は魔女の薬屋さんを思わせる木造三角屋根のお店だった。
「ふぅ。よし。じゃあ。店内整理お願い。彼女が薬剤担当だから指示に従うこと」
「「「了解でち!」」」
「よしよし」
引き渡しの準備が完了して、僕は服部さんを振り返る。
服部さんは、出来上がった店を呆然として見上げていて、ポカンと口を開けていたが僕の視線に気が付くと、かろうじて台詞を絞り出した。
「ちょっと待ちましょう。……え? あなた本当に何者です?」
「それを探りに来たんでしょうに? 何者かなんて自分で決めてよ」
「……そうなんですけど。ダンジョンに住んでる仙人とか言われても今なら信じられてしまうんですけど?」
「おおっと……新解釈。仙人じゃなくって……店長でいいかな?」
「……け、経営者? なんですか?」
「まぁそんな認識で」
「……ダンジョンの?」
「それは違うね? うまい事付き合っていくつもりではあるけど」
「……」
ちょこちょこイメージの修正を加えながら、すり合わせるのは新鮮だった。
そのほんとかな? みたいな顔はやめて欲しいけど、そのうち慣れはするのだろう。
後は死なないようにするための大切な約束も伝えておいた。
「かなり周囲のモンスターのレベルが高めだから、最初の内は店から出ないように。出る時は店員を連れて行けばかなり安心だから」
「……この子達をですか? そんなにお強い?」
何にも考えていなさそうな顔でこっちを見ているキューピット達を見て服部さんは疑わしそうだが、こいつらの力は本物である。
「相当なもんだね。安心して護衛として使ってくれていい。ただ……結構大雑把だから細かい作業は向いていない」
「そうなんですか?」
確認するように服部さんは僕ではなく本人に聞くが、そういう時のキューピット達の答えは信用しない方がよかった。
「そんなことないでち! ふほんいでち!」
「何でもできるでち! なめるなでち!」
「……だそうですが?」
「……まぁ大概の事は? その判断は好きにしてもらっていいよ」
そのうち接していれば嫌でもわかるか。
イラっと来ると案外容赦なく攻撃してくる気質は服部さんとも近い物を感じちゃったりするけど、仲良くやって欲しい物である。
説明を終えて、一旦ホッとしていた僕に、服部さんはしばし黙り込んで店の外観を眺めると僕に訊ねた。
「ところで……ひとつ確認しておきたいんですが?」
「何だろう?」
「ここに来るなりノータイムで、店の外観を魔女の家みたいに変えましたけど……なにか思うところが?」
「ないわけないでしょ。でもこれは魔法の薬のイメージだから深読みはしないように」
「……それもそうですね」
そりゃあ毎度末尾に脅し文句をつけておいて、なんで好意的に見られると思ったんだろう?
「では洋風は好みではないので和風にしてください」
「……ちょいちょい忍者っぽいことを言うなぁ」
「そういうわけではありませんが」
そしてこういう図太いところ油断ならない服部さんだった。
こりゃあ本格的に毒が一切効かなくなるアイテムも探しておこうと心に決めつつ、僕は念のため、釘をさすようにハバキリ君の威光も足しておく。
「この売店、たぶんハバキリ君だって使うことになるんだからね? 15階なんてもうすぐそこだから」
「……私が護衛なのはぼっちゃんには秘密です」
「それでもクラスメイトとして、直接助力できるポジションは大きいでしょ? 僕の名前を出せばいくらでも知識の出所はごまかせるんだから」
「……! そ、そうですね。なるほど……こういうものを見せられていたんだとしたら確かに……」
気を逸らすための方便だけど、たぶん新学期が始まれば草薙君達は15階なんてあっという間にやって来る。
僕はそんな予感はすぐに予想ではなくなると感じていた。




