第222話服部さんと話をしよう。その2
「ハバキリ君は結局、その不透明な辺りの信憑性を確かめるために僕と一緒にダンジョンに潜ろうって言いだしたんだと思う。 最近なぜかあのパーティと接点が多くなってるっていうのも原因の一つだと思うんだよ」
接点が多いという辺りで服部さんの視線が鋭くなったけれど、ハバキリ君アゲは彼女にとっても有効だった。
「……なるほど。流石はぼっちゃんです」
僕はうなずく。
「それで服部さんは、ハバキリ君を護衛している人ってことなんだよね? あまりに縁のない世界で映画みたいなんだけど?」
「……このことは秘密にしておいてください。特にぼっちゃんには。でないと……哀しいことになってしまうかもしれません」
なら言うんじゃないよ!
心の中でツッコミつつ、僕は苦笑いだけに留めた。
「いちいち脅さないでね? それは別に構わないんだけど、まぁ、とにかく何か納得のいく説明をしないと僕の身がとても危険だってことは分かったから、僕が持ってる変わった知識を披露しようかなって思ってる」
「……知識ですか。あなたの?」
「そう。ちなみに服部さん薬に詳しいって言ってたけど、本当?」
今までの会話を頼りに、何とか糸口を探し出そうと確認したら、また空気はピリついた。
「……そんなこと言ってましたか私? それも内密にお願いします。でないとやはり可哀そうなことになってしまいます……」
「だったらバラさないでね? それでじゃあせっかくだからダンジョン用の薬のレシピなんてどうかなって思うんだけど……どう?」
つまりはポーション関連の知識の一部はどうかという提案はしかし、更なる疑念を服部さんに植え付けてしまったみたいだった。
「……ダンジョン用の薬? ポーションにレシピなんてものは存在しないでしょう? アレはすべてドロップ品のはずですけど?」
「そんなことないよ。ダンジョンの素材は必要だけど、自作できるアイテムだってたくさんあるんだ。薬の類はその一つだから、すごく役に立つと思うよ?」
「……」
ポーションの知識は情報の価値が高すぎる自覚はあった。
しかしだからこそ、一人で持っていてはそのうちひどい目に遭いそうなので、さっさと手放してしまいたい。
彼女が薬の知識を持っている探索者だと言うのなら、ハバキリ君の為でもなんでもいいから、大いに活用してくれれば、自然と広まることだろう。
「それが本当の話なら……すごい発見ですよね?」
「本当だよ? だからハバキリ君だって僕の事を一目置いてくれているんだよ?
」
「……!」
服部さんの顔はとても胡散臭そうだ。
ただしバッサリと与太話として切り捨てられないのは、ひとえにハバキリ君への絶対の忠誠ゆえなのだろう。
ただこのケースはレアだが、僕にとって実に都合がよかった。
服部さんは真偽を確かめない訳にはいかないという一点だけが命綱だ。
それは面白半分な動機よりも確実なスキル習得を保証してくれるだろう。
「ハバキリ君の目は正しい。僕にはとっておきの知識がいくつかあるけど彼の洞察には驚いた。だから助言しておくよ? これからハバキリ君達はもっと速いペースでダンジョンを攻略し始めると思う。そうなった時、影からでも日向からでも手を貸したいと思うのなら悪い話ではないと思うんだ」
「……何がしたいんですあなたは?」
服部さんにしてみれば得体のしれなさだけが膨れ上がっていることは理解できる。
ただしこれはそんなに難しい話ではないと僕は思っていた。
「いやいや、僕に何かしたいのは服部さんでしょう? 正直に言えば僕に危害を加えないでくれればそれだけで十分なんだ。ハバキリ君に近づく云々も同じクラスメイトじゃ難しいし、僕はせめて学校にいる間だけでも仲良く……は難しくても、うまくやっていきたいだけなんだよ。ホラ、まだまだ学校生活長いでしょう?」
「……それはそうですね」
「だからクラスメイト同士、困ったことがあるなら助け合うくらいはあってもいいかなと。ほんの短い間なんだろうけど、重要でしょう?」
「……どうでしょう? 私は今一つあなたを信じられないです」
そりゃあないでしょ服部さん? まぁ僕も人の事は言えないけれどもね。
だけど返事は想定内。
ハバキリ君には悪いけど、もうちょっと彼の信頼を使わせてもらうことにした。
「僕を信じる必要はないでしょ? 服部さんはハバキリ君の目を信じればいい。後々は自分で確かめてくれれば。僕の言うことが本当か、得意分野で判断すれば信用は後からついてくるんじゃない?」
「……なれ合うつもりはありません」
「もちろん。そんなの強制するようなものでもないよ。ただ歩み寄るチャンスが欲しいなと」
「チャンスにしてはめちゃくちゃな話だと思うんですけど……?」
「……毒殺宣言よりマシだと思います。割と必死です」
「……いえ、あのその」
そこで少しは狼狽えてくれる辺り、まだ歩み寄る余地はあるかも。
そして僕はとっておきの一枚の紙を彼女に差し出した。
それは低級のポーションのレシピである。
知名度が高く、有用なことこの上ない。
ただ内容を説明すると、服部さんは怪しい訪問販売を見るような目を僕に向けていた。
「……私には、それが本物かどうか分かりません。本当だとしても重いです」
「それもそうか……なら手始めにこっちにしよう」
指摘を受けて、もう一手。
「化粧品とかどう? ダンジョン産のアイテム化粧品。変化があるのは見た目くらいだから、試してみる分にはちょうどいいかもしれない」
高確率で興味を持ってくれるはずと攻略君一押しレシピだったんだけど、服部さんの表情はますます警戒を色濃くしていた。
「気前がいいんですね……。ダメだったらどうするつもりですか?」
「その時はなるべくハバキリ君とは距離を取る約束にしよう。まぁ……そうはならないと思うけど」
あくまで自信満々に。
ここで日和ったら今までの緊張感が台無しだ。
苦労の甲斐あって、服部さんは納得しないまでもうなずいた。
「……わかりました。ではまずそれで」
「OK」
いったん交渉は成立である。
僕は一度紙に提供できそうな薬の一覧を書いてそれを服部さんに差し出した。
それを見た服部さんはしかし、目が丸くなってなんでか怒り出した。
「……!」
「……どうしたの?」
「やっぱりふざけていますね? いいでしょう。この場をやり過ごす嘘だった時は、大変なことになりますが」
「だから脅さないで欲しいんだけどなぁ」
今回は僕にしても結構な冒険だけど服部さんはこの後どうするか、僕は大いに期待を持っていた。
僕のまず一番の問題は胡散臭い事……! これはもうダンジョン関係で仲間に引き込むつもりならどうしようもない。
どんな動機であれ真偽を見極めるところまで来てくれる熱量が必要だった。
攻略君の助言から考えて今はまだ間接的な信頼でしかないが、服部さんはその点、善意にしろ、悪意にしろ、試す下地が存在した。
だけど……ポーションは薬物。モノがモノだけにただ渡すのも問題があるかもしれない。
「ああ、それと納得がいったらなんだけど……低級ポーションのレシピを渡す時は契約を一つ結んで欲しい」
「…………」
差し出したのは攻略君特製魔法の契約書で、彼女の行動を縛る役割がある。
契約の内容はレシピを卒業まで外部にリークしない事。
これは魔法の契約書で双方同意することで成立する。
この魔法の契約書自体が一般的には知られていないのだが、相手と内容を考えるとある程度譲歩してもらう必要がある。
しかしその契約書を差し出した途端、今までで最高の反応を服部さんは見せた。
「こ、これは……! なんという禍々しさ!? まさかこれでぼっちゃまを……!?」
「それは違うよ!? 違うからね!?」
『まぁ……今出しちゃうところが君らしいが……』
攻略君は呟くけど、そう言わないで欲しい。
いえね? デメリットを先に提示しておいた方がフェアかなって。
成功率はそう悪くないんじゃないかと思っていたが……これはやはり難航しそうだった。




