第221話服部さんと話をしよう
「……」
場所を変えやって来たのは、話し合いにはとっても便利、サブカルチャー研究部部室である。
人気のない校舎の一室、僕という怪しい男子生徒と二人きりでの呼び出しという状況。
警戒されないわけもない……。
というか殺気じみた気迫の籠った視線をバチバチ感じていたわけだが、攻略君の助言通りに用意したとあるお店のケーキと紅茶でまず初手からおもてなしすると、緊張はかなり緩和した。
俯きがちの顔も眉間の皺も変わらないけど、態度の緩和は前進だった。
「……モグモグ、あなたはとても趣味がいいですね……これは素晴らしい」
「ありがとう。喜んでもらえたならよかった」
「そうですね……話くらいなら、確かにすべきかもしれません。……ハバキリぼっちゃんの素晴らしさについて、まずは語らねばならないようです」
「なるほどぉ……え? いやその……」
「そう、ぼっちゃんと私の出会いは――」
よしよし話さえできればどうにかなると、ちょっと気を抜いていた僕は甘かったらしい。
気をよくした服部さんは、思ったよりも饒舌に語り始めてしまった。
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「ハバキリぼっちゃんは本当にすごい人なのです。幼い時より文武に長け。神童として名を知らしめておりました。それでいて私のような下々の者にもお優しく、見目麗しいお姿に誰もがため息をこぼしたものです……モグモグ」
「な、なるほど」
「……本当にわかってますか?」
「たぶん思っていたよりずっとわかったと思うけど?」
「そう……ならいいですが」
やっぱり本当に現代の話かな?
お茶とケーキを嗜みつつ、服部さんのハバキリ君トークが止まらない。
このまま放っておけば重要情報も手に入りそうだけど、先に僕の方がハバキリ君ファンに洗脳されそうな勢いだったので僕は一旦彼女を止めた。
「ええっと……じゃあ、本題を。まぁ旅行では一緒にダンジョンに潜ったんだハバキリ君とは」
すると服部さんもやるべきことを思い出したらしく、厳しめの表情が戻って来た。
「……そこもよくわかりません。あなたはぼっちゃんよりはるかに弱いはずです……」
「あー、まだ僕ってそういう感じなんだ?」
「? そうですね。授業中は浅い階層で遊んでいる姿をよく見ます。最近は見かける事すらないですし……とても最前線で体を張るあの御方が一目置くほどの人間だとは思えません。だからこそ甘言と嗜好品でぼっちゃんを惑わし、ダンジョンで甘い汁を吸う輩と判断して今回警告する運びとなりました」
「うわぁ。思ったよりひどい評価だ」
「妥当な評価では?」
あちゃあ、まぁそう見えちゃうか。
ある意味当然と言えば当然。
他のダンジョンアタックはずいぶん深い層にいるからクラスメイトの目に触れることもなかっただろう。
結構すごいこと頑張っていると思うんだけれど、申し訳程度に施している目立ちすぎない工夫がいい感じに機能しすぎている感じはある。
「じゃあこんな噂はない? 妙なことをたくさん知っているとか……」
「少しだけ。ダンジョンにトイレを作ろうとしている変人だとか」
「わー何それひどーい。トイレは便利でしょう?」
「……さぁ? 私は入ったことがないので。ダンジョンで個室は逆に怖いです」
「えぇ? ……そういう意見もわからなくはない」
「ダンジョンの中に突然できた個室なんてトラップの類でしょう。それ以前に建物をダンジョンの中に建てられないのは常識です」
思っても見なかったが一理ある。
だけど快適に作ったし、それはもったいないと思うんだけどな?
アレを一度でも使ったことがあればもうない生活には戻れないくらいなのに。
僕はしかしナルホドナーと自分の座る椅子の背もたれに体重をかけて、悩む素振りを見せる。
だけど話を前に進めるにあたってちょっとくらい興味を持つきっかけはあって欲しいところだった。
だから僕は一つ思いつきを実行した。
「なるほど、君はそうかもしれない。でも―――ハバキリ君はそうは思わなかった。そういう事でしょう?」
こんなんで効果あるのか? とそう思ったけど服部さんの表情の変化は見ていてわかりやすいほどだった。
「…………確かにそうですね」
ああ……理解は示してくれるものの、ハバキリ君の名前を引き合いに出すだび、敵意のゲージが上がっていく気がする。
たぶんそれは気のせいなんかではなく、鋭く細められた服部さんの目を見たら、今なら無条件に忍者説を信じられそうだった。




