第217話積み重ねが実る時
はて? こうして意識があると言うことは、洗脳は解けたはずだ。
しかしなんでか意識があるのに、目の前が真っ暗なのはどういうことだろう?
「……っ!」
息もできないし、じたばたしてみるが動きづらい……というか上下が逆さまで上半身が完全に埋まっているんだと気づけたのは我ながら洞察力が光っていた。
えー……なんでこんなことに?
人生いろいろあるとは聞いていたが、こんなこともあるのか。
ちょっと僕はリアルを甘く見ていたようだ。
そして突然ズボリと足を掴まれ引き抜かれると、上下逆さまの龍宮院先生と対面した。
「……あっ、どうも。お疲れ様です」
「……お疲れ。君は洗脳されててもされてなくても緊張感を削いでくるなぁ」
「そうですかね? まぁ、最近地面に埋まる経験が豊富なもので、こういうこともあるのかなぁと」
「ないよ普通。……体調はどう?」
「頭と首に鈍痛が……。まぁ予想範囲内ではありますが」
「……ソレハタイヘンダ。早くポーションを飲むといい」
とりあえずその場に下ろされて僕はようやく自由になった体でまずリュックに手を突っ込みポーションを飲む。
痛み的にこれくらいなら下級ポーションでいいだろうと一気に飲み干した。
全身が、特に背骨の辺りがビキビキ治っている気がするが、他には問題はなさそうだった。
「よし!……じゃあこれで今日のテイムは完了です。お疲れさまでした」
「あのぅ……君、元気すぎない?」
軽く運動している僕におずおずと龍宮院先生は聞いてくるけれども、幸いおおよそ全快だった。
「? ポーション飲んだから当たり前じゃないですか? というか、なんで先生不機嫌なんですか?」
「え? いやー? 全然そんなことないけどぉ? そっか、うん、無事で何よりだなぁー」
「???まぁトールハンマーがあったら僕の聖騎士のオーラにも貫通ダメージがいくらか通ったと思うんで心配してないですけどね。……でも想定よりダメージが大きいような?」
「そ、そんなことはないんじゃない? よし! じゃあ、きちんとテイムして帰ろうか! そうしよう!」
ちょっと強引に龍宮院先生は勧めてくるから、ひょっとすると疲れているのかもしれない。
元はと言えば僕が急かすだけ急かしたんだから自業自得の結果に、僕は頭を下げた。
「……そうですね。負担をおかけしてますし、申し訳ない……」
「うぅ……こういう時は、もっと愚痴をこぼしてもいいんだよ? ほら、怪我までさせてしまったわけだし」
「そんな! とんでもない! 織り込み済みでお願いしているわけですから。逆に申し訳なかったくらいですよ」
「……なんか大変申し訳ない」
「?」
龍宮院先生がなぜだか、ものすごくシュンとしていたがちょっと意味が分からない。
だから別に文句を言うでもなく僕は頷いておいた。
それにこれで今日のノルマは達成したことが重要だろう。
「じゃあさっそく終わらせちゃいましょうか」
僕はすぐに跪く天使の輪に手を触れて、テイムを完成させた。
聖騎士のオーラは天使の本質を掴み取り、天使を従属させる。
そして僕と繋がった天使は、僕の影響を受けて豪華なマネキンの様なその姿を光の中で変えていった。
ただ……前例がすでに出来上がったことで、僕は完全に油断していた。
「んがぁ……」
「わぁ……エッチだ」
「そんなことないです!」
その姿は天使というよりも女神に近いものだった。
大きな6枚の翼と天使の輪という共通点はあるものの完全な人型であることに間違いはない。
妙齢の女性の姿は母性に溢れ、波打つ金髪は自ら輝き、額に埋め込まれた石が人間ではないとわずかばかりに主張している。
うっすらと光る黄金の瞳は超然としていてすさまじく神々しかった。
全体的に大人な造形は、体格で言えば極めて豊満で色々溢れんばかりである。
現実にいる女性……というよりはフィクションとの融合だろうか? 理想の具現化という意味では、まさしく天使なのかもしれない。
天使の輪に残る白い炎がかろうじて変化前の面影を残した、洗脳特化の上位天使は極めてダイナマイトであった。
ただ……今までより頭の中から切り取られたようなフェチズム溢れる造形は騒ぎ立てていた分気まずさがマックスで、僕は逆にスンと冷静になった。
「……これで上位天使が3体です」
「それにしても……天使の変化は予測がつかないなぁ。どうなってるのこれ?」
「……いよいよ僕は悟ってきました。こりゃあ気にするだけ無駄ですよね」
なんて気取った様子で言ってみたが内心は背中に冷や汗だらだらである。
最後にテイムした3体。
こいつらについてはもはや元の天使の原型がない方が多い。
ではざっくり説明しよう。
でかいロボ。クマのぬいぐるみ。6枚羽が生えた美女。
うん。意味わかんない……ってバッサリ切って捨てられたらどんなによかったか。
僕ってやつはどこまで欲望に忠実なやつなんだと我ながらビックリした。
なんかロボの天使と、美女辺りは心当たりがないわけでもないのが小憎らしい。
後は……なんだろ? このクマ? 背中に申し訳程度の翼ついてるけど〇ロちゃんかな?
ベースをクマにしているあたり僕ってやつは直接的なイメージを根性で避けたか? どこまでも小賢しい。
頭を抱えたが、僕もここまでくるとうっすらと天使の変化する傾向がわからないでもない。
要するにこいつら自分達のイメージに近い天使の記憶を、テイム相手の記憶から引っ張ってきてんだ。
だから妙にテイムした本人は、天使の姿にしっくり感があると。
まったく天使のテイムは心の鏡を見せられているようだ。
ちょっともうやんなくてもいいかな? なんて考えているとその時、攻略君が僕に囁いた。
『ふむ……ようやく条件が整った。よく頑張ったね』
……条件?
心当たりがないがいったい何が整ったというのか?
すると攻略君は感情を色濃く感じさせる渾身のドヤ声で、今回の最も大きな成果を披露した。
『そうとも。君の”ロード化”の準備が整ったのさ』
ふーん……ロードか……なんて?
なんか聞き覚えのあるようなないようなことを言う攻略君だったが、聞き違いではなかったらしい。
『聖騎士の裏スキルだ。こいつを取得するのはかなり大変なんだよ? 聖騎士の熟練度が一定以上に加えて、天使系のモンスターを100体テイムしなければならないんだが……天使のテイム自体が難しくてね。君もそこまで積極的ではないから一生条件は満たせないかもと心配していたんだ。今日まで随分君にも無理のある手順を踏ませてしまった。悪かったね?』
……超化で終わりじゃなかったんですか?
心から驚いている僕に攻略君は苦笑して、それは別にジョブは関係ないと言った。
『超化はやろうと思えば誰でも覚醒できる裏スキルだよ。しかし……聖騎士の裏スキルはまだ取得していなかっただろう?』
「……!」
言われてみれば確かに。
僕は今までの流れがカチリとハマる感覚に、ちょっと背筋に寒気を覚えた。




