第21話形から入る者達
浦島先輩曰く。
要するにコスプレ云々は彼女の趣味と、危機管理のために顔を隠そう。そういうことの様だ。
「一石二鳥でしょう? 顔が隠せて身バレを防ぎつつ、ダンジョン攻略も出来る」
「でもコンテンツ力は上がんないでござるよ?」
「そこは頑張り次第でどうにかなる希望が大事です」
「誰かスカウトするってどうです?」
「おいおい……自分らが変わり種だと言う自覚が足りないぞ、ワタヌキ後輩。リアルで大冒険かましてるのに、二次元でも似たようなことしてるのが我々なのだぜ? イケメンの凄腕探索者が今更サブカル同好会に引き抜かれる可能性は絶無だと知り給え」
「おおうー……その通り過ぎてなんも言えないですね」
「何かのアニメキャラでもやるんでござるか?」
「いやいや、まぁオリジナルがいいんじゃない? 考えるの大変だけどね。顔が隠せて防御力高そうなやつ。ハロウィンのアレだってコスプレだよ」
「なるほど……造形ってやつでござるか。拙者そう言うの実は興味あったんでござるよね」
「桃山氏……乗り気じゃないですか」
僕らがチョットワクワクしていると、浦島先輩はごく普通に当然だと釘を刺した。
「まぁ真面目な話すると、ダンジョン系のかなり特殊動画撮るつもりなら、初手身バレはやばいでしょ。リスクが高すぎ」
「そりゃあ……そうですよね」
僕としてもこの先ダンジョンで色々と試すなら、顔がバレていない方が都合がいい。
それにちょっと面白そうと思ったのも本当だった。
「じゃあ決まり。とりあえず自分の衣装は考えてくること。あと何かある?」
「じゃあ拙者。リクエストあれば小物とか作るでござる」
「あ、じゃあ僕、電飾とかするならちょっとやれます」
自分の得意分野を主張すると、部長は大層ご満悦だった。
「ほほう……君らも中々やる気じゃないか」
「まぁ」
「ちょっとは興味ありますよね」
ひとまず、僕らは各々自分の好みで顔を隠すコスプレを考えてくると言うことになったのだが……実は僕は地味に苦戦した。
「ううう……これでいいのか正解が分からない」
いざやるとなると難しいよね。
自作するなら創造性を試されるのは当たり前である。
こんな時こそと攻略君を頼ったが、残念ながら攻略君はこういうことには明るくないようだった。
『こればかりは好みだからね。攻略君には口出し出来ないよ』
「ううう……」
コスプレの攻略法は、攻略君データベースにも乗っていないということか。
つくづくファッションと言うやつは難しい。
困り果てていた僕を見かねた攻略君は、ひとまず一つアイディアをくれた。
『ふーむ。顔を隠すだけでいいならこういうのもあるけど?』
「えぇ?」
結局……色々と試した攻略君と僕が導き出した答えはこれである。
「「な、何それ?」」
「……魔法ですよ?」
「頭燃えてっけど!?」
浦島先輩と桃山君に見せたらすごい驚き方をされたが、確かに僕の頭は顔が見えないくらいにメラメラと燃えていた。
顔が見えなければもう何でもいいんじゃないかと攻略君がひねり出した案だが、兜をかぶってもマスクをしても同じ感じでいけるナイスアイディアだった気がしていた。
「……幻影みたいなもんです。結構お手軽ですよね」
額に文字を書くというやり方の変わった魔法なのだが、後でその文字をシールに印刷して作っておこうと思う。
「はー……そういうのもあるのかー。すごいでござるなぁ」
「私は初めて聞くよこんなの。どこでこんな情報仕入れてくるのよホント」
「そこは一応秘密です。トラの子なので」
「まぁ。わかるけどさ」
先輩は甚く感心していたが、我ながらよくわかんないことになってしまったものだった。
目だけが白く光って見えるのには驚いたが、これはこれで感情が分かる面白い仕様だった。
「これに……スポーツ用品店で買った、リュックにジャージでいいかなって」
「胴体適当でござるなぁ」
「頭がインパクトあるんだから胴体は薄味の方がいいでしょ? ……でも二人は……すごく凝ってるね」
そしてダンジョンのドロップアイテムの中で何か顔を隠せる装備を見繕うとばかり思っていたのに、二人が持って来たのはこだわりの見える一品だった。
「赤いパーカーにガスマスク?」
「指摘しないでくだされ……恥ずかしいでござるよ」
「いや恥ずかしがる割に、めっちゃ派手じゃん」
「パーカーはお気に入りでござる」
さらにそこに剣を二本差している桃山君は元々二刀流のスタイルでダンジョンアタックしていることは知っていた。
「武器は剣で行くんだ」
「本当は刀がいいんでござるけど……ダンジョンじゃまだ見つかってないんでござるよ。幼少期拙者、古武術をかじっていたゆえ、刀が手に馴染むのでござるが……」
「意外な特技だ……」
「で、御座ろう?」
うーんこれはまた、友人の意外な一面を知ってしまった。
今からでも刀に変えて教えてもらおうかな? いやでもハンマーも使ってみると楽しいんだよ。
そして浦島先輩のマスクは、また凝っていた。
フルフェイスの真っ黒なヘルメットは装着するとライトが明滅する仕様だ。
そして全身革製の服装とジャケットを着た先輩はアメコミのヴィランのような威圧感があった。
「サイバーパンク風のフルフェイスヘルメット? ……高かったんじゃないですかそれ?」
「それなりだよ……うん。作るのに時間かかってるけどね」
「……自作!」
「まさか。前にコスプレしようと思って業者に作ってもらったのよん。ダンジョンに一年も潜ってると、そこそこお金も溜まるのさ。でもこの部でチャンネル開設できるなんて! いつかやってみたいなとは思ってたんだけど!」
「……先輩ってひょっとして動画配信狙ってました?」
「実は……小学生からそれ系のVチューバーやってます……はい」
「年季が入ってるなぁ」
どうやら技術的なところは、任せてしまった方がいいかもしれない。
それでは三人分のお披露目も終わったところで、僕らは頷きあう。
「えっと……じゃあ脱いで。モンスター狩りに行きましょうか」
「……そだね。1階じゃ逆に目立ちすぎるでござるな」
「しばらくはお預けですわな」
つい形から入ってしまったが、僕ら同好会に後悔はなかった。




