第2話サブカル同好会
ここ国立竜桜高校は、世界各地に生まれたダンジョンを攻略する人材を育成すべく作り上げられた学校である。
誰が呼んだかダンジョン学園なんて呼ばれているこの学校は、割と世間の話題に上がるダンジョン探索者専用の学校だ。
中学の診断の後、ダンジョン適性ありますよ? みたいなメールが突然送られて来たと思ったらあっという間に、進路の選択肢にこの学校が組み込まれたから適性があればそんなに入学は難しくない。
ゲーム好きの僕は、伝え聞いたダンジョンに興味があるのも入学理由の一つだったりする。
まぁダンジョン学校に通うとダンジョンに入る免許ももらえるし、ダンジョンがそこら中にある昨今、自衛の手段にもなるから取るだけ取っておいた方がいい。
僕の目標は、とりあえず卒業かなくらいに思っているが……それはともかくせっかくの学生生活を楽しみたいとも思っていた。
「と今でも思ってるけど……なーんか、ギスギスしてるよねー」
僕は机に突っ伏してそう愚痴る。
すると友達の桃山 花臣君もわかるわかると頷いていた。
背が高く優しい印象の彼は、趣味と妙に気の合う友人で歴史系を得意とするオタクである。
手先が器用で小物位なら自作してしまえる頼りになる男だ。
ただ彼も、ダンジョン攻略に関しては中々苦労しているようだった。
「そうでござるなぁ。レベルとか事実上カーストでござるよな」
「もうちょっと淡々と事務的にやってほしいもんだよ。あんまり荒っぽいノリだと、陰キャにはきっつい。……この部室に来ている時が、唯一の癒しですよね」
そんな僕の愚痴を聞きつけて恰幅のいい体を揺らし笑ったのは、浦島先輩だ。
浦島 志乃先輩は我らがサブカル研究会の紅一点。
この戦闘力至上主義の学校で、文系同好会を切り盛りする女傑であり、筋金入りのオタクである。
浦島先輩はメガネをクイッと上げて、ニヤリと口角を上げた。
「嬉しいこと言ってくれるじゃん。あんまり同好会が部室を持ってること自体、良く思われないからねー」
「あ、やっぱそんな感じなんですか?」
「そうなんよ。ダンジョン学園のくせにサブカルに厳しいってありえなくない?」
「いやー……十年前ならいざ知らず、現代はちと厳しいっすよ」
こういう感じが僕が所属したサブカル同好会のいつもの風景である。
言ってしまえばこの学園、ダンジョンに潜る人材を育てるための学園なのだから、ノリが荒っぽくなるのは避けられない。
そんな中で同好会とはいえ今この空間が許されているのは奇跡のように思えた。
「考えてみれば、よく許してくれましたよね。サブカルチャー同好会なんて」
「まぁ、そこは私の手腕のなせる技?っと言いたいとこだけど……元々文学部で部員が減っただけだねぇ。でもたぶん先生方も、校風が殺伐としてるってわかってたんじゃないかなぁ。案外息抜き出来る場所を作るのにちょうどよかったのかもね」
「なるほど……まぁダンジョン攻略危ないですしねぇ」
実際非常に癒されているのだから、許した先生の慧眼には祈りを捧げたい。
結局は化け物を倒すためにちょうど良い人材を集めていると言うのも本当のところなのだろう。
ゲームの様だと言えばそうなのだが、実際は人食い熊のうろうろする山に武器一本で入山を強制されるのは大半の人間は嫌がる。
人材確保には必要なことだと割り切っていても、罪悪感がまるでないわけではないのかもしれない。
そして僕は3年間この竜桜学園で勉学とダンジョン探索に励みつつ、ほどほどにサブカルを楽しむ青春を送る予定なのだが……僕にはほんの少し予定と違う日課があった。
部室を後にして、僕は一人ダンジョンに向かう。
自由時間に自己鍛錬は認められていたが中に入るのはあくまで自己責任で、放課後
に一人でダンジョンに入る生徒はほとんどいない。
そんな中、人目を忍び一人で僕がことを奨めるのは頭の中にいる妙なスキルのせいでもあった。
『うんうん。まぁでももうちょっと名声に興味を持ってもいいと思うんだけどねぼかー』
「いやいや攻略君、ちゃんと攻略はやってるだろう?」
『そうだけどさ。方針がね、こっそり実力を付けつつ、卒業後にでもダンジョン攻略ってなんで今じゃダメなのかなって。やろうと思えばクラスカーストを一気に駆け上がれるのに?』
「何それいらない」
『そうかなぁ』
わかっていない攻略君に、やれやれと僕は肩をすくめた。
まぁこの無駄口の多い相棒は言っていることのどこまで信用できるのかも分からない。
つまり僕は現在こっそりとだがダンジョンに通って、慎重に攻略君についても見極め中なのだった。