第195話疑惑の検証
騎士の様な鎧とランスで武装した羽の生えた女性、そんなビジュアルのモンスター達は非常に美しかったが、うちの天使と比べるとかなり大柄に見えた。
おそらく目算で身長は2mほど、それが完全武装で翼で飛行し、隊列を組んでいると恐ろしく威圧感があった。
「これは壮観でござるな……」
「学生が……勝てるような相手じゃない。とはさっきからずっと思ってるんだけどな……ハハハッ」
桃山君は鎧天使というビジュアル的に相当カッコイイ絵面に感動し、ハバキリ君は天の威光とも言うべき圧倒的なプレッシャーを受けて、大いに体を強張らせている。
それでも静かに戦闘態勢を整えている二人を僕はあえて制止した。
「……悪いね。ちょっとここはまかせてくれないか?」
「……いいでござるが」
「えぇ! まさか、一人でアレと戦うのか!」
驚く二人に僕は頷く。
ただし言ったのはいいものの、これは攻略君の指示だった。
桃山君とハバキリ君から十分に距離を取って、僕はヴァルキリーを改めて観察する。
現在は警戒態勢といったところか。しかしあと数歩でも踏み込めば戦闘が始まるぎりぎりの間合いで、僕は攻略君の話に耳を傾けた。
『今回君にテイムをお勧めするモンスターはヴァルキリー。とても美しい女性タイプの天使型モンスターだ』
「……変な恋愛脳発動させてない?」
『させてないさせてない。聖騎士である君に相性がすこぶる良い。魔法も使える強力なアタッカーモンスターだよ』
「そりゃあ、ソロの場合は助かりそうだけど……うちの部活、アタッカー多くない?」
『それでもだね。是非とも仲間にすべきだ』
攻略君の一押しにはすでに十分価値がある。
ただ、僕が今回の指示に納得しているかというとそんなことはなかった。
『テイムする方法は単純明快だ。彼女達をソロ討伐することだね。戦いぶりに応じてテイムの成功率は変動する。ここは相当に武闘派で厄介なダンジョンだが、ゆえにルールもシンプルだ』
「シンプルだけどめんどくさくない? 定義も曖昧だし。……いや、それ以前に流石に気が咎めるというか?」
攻略君の言い分ではソロで戦う事はともかく相当勇猛に戦うか、圧倒的にねじ伏せることが必要になりそうな気配がある。
それに結局の所モンスターとはいえ、僕は女性型のモンスターと戦う事にもテイムすることにも抵抗がある、そういう事なんだろう。
しかしその上で攻略君は頑なだった。
『必要なことだから、頑張って』
「本当にぃ?」
『もちろん。君にとっても決してマイナスにはならないよ?』
「えぇ? そうかなぁ」
どう考えてもマイナスにしか働かなさそうだけど、主に人間関係とか。
しかしそこで攻略君から思っても見なかった角度から切り返されて、僕は耳を疑った。
『そうとも。労働力の確保は急務でもあるし……それに、周囲から見る君のロリコン疑惑の脱却にはちょうどいいと思うんだ』
「いやいや、やっぱり必要な……今なんて言った?」
ちょっと聞き捨てならない言い間違いだけれど、この攻略君、二度同じことを言いやがった。
『だからロリコン疑惑だよ』
「……なんでそんな疑惑が出る?」
思わず真顔になってしまったわけだが、攻略君の提示した理由はシンプルだった。
『そりゃあ、天使をテイムしたら子供に姿を変えたからだろうね』
「いや! だからアレはだね!」
『私に言い訳したところで意味はないだろう? だが嗜好がどうという話でぐだぐだ言うメンバーは君の所にいやしない。気にしないのならそれでもいいだろう」
「それはそうだ……」
『まぁ問題があるとすればおおらかすぎる事だろうな。君の仲間は驚くほど簡単にすべてを受け入れてくれるだろう。だけど君が少しでも不本意だと感じるのであれば……必要なんじゃないか? 身をもっての証明が? 疑惑が確信に変わる前にね』
「……それはさすがにずるくない?」
僕はゆっくりとゴールデンマサカリアックスを持ち上げながら長い……とても長い息を吐き、天を仰ぎ見ていた。
空は美しかったが、神様は意地悪であると僕は思う。
「……それは僕の為を想って言ってくれているのかな?」
『無論、でなければここまでおすすめはしないよ』
「ならあいつらを狩るのも大事なことなわけだ」
『その通りだとも』
「じゃあ最後に……アレを倒してテイムしたとして、ちびっ子になることはないんだね?」
『イメージの補強のために念を押しておこうか……アレはヴァルキリー! 死者を導く戦乙女を模したモンスターだ! 子供のイメージなど君にはない!』
やっぱり姿を変える可能性あるんじゃん! これはある意味で、僕の心の真実を映す試練だった。
ビジュアル面を分析しよう。
まず現状鎧姿と白い翼の女性型はとても美しい、もしくは神々しいと形容するのがふさわしい大人の女性である。
2m近い長身に整った人形のような造形はおおよそロリショタとは一線を画し、体格の良い引き締まった肉体は戦士のそれを想起させる。
なにより人類の常識を超えた胸のサイズは、レッテルを跳ねのけるに十分な迫力を備えていた。
ヴァルキリーとはこういうものだ。うん、僕のイメージに違いもない。
だから僕はあえて宣言しよう! 僕はロリコンでもなければショタコンでもない!
ならば……躊躇う理由などどこにもない。
それでも気が咎めるのならば、こういう時、背を推すのにピッタリの言葉を頭に思い浮かべるべきだ。
僕はスゥっと息を吸い込み、吐き出すと同時に唱えた。
「攻略君の言葉は絶対だ」
それはダンジョンにおいて唯一絶対の掟であった。




