第192話ずいぶん捗ったようだ
「いやーいい物が見つかってよかった」
一先ず間に合わせなので衣装をちゃちゃっと適当に選び、桃山君にスキルでの簡易的な強化を任せると、僕はすぐに専門店の方に戻った。
うーんしかしこのジャージの安心感よ。
新品の赤いジャージはビックリ来るくらい身体に馴染んで、このまま寝れるほどだった。
できる限り手早く選んだつもりだったが、待たせてしまったかもしれないと心配していたが、ハバキリ君は今ようやく装備選びが終わった所のようだった。
「お疲れさまー。選び終わった……みたいだね?」
「……うん。まぁ……うん」
ただ今の自分の格好をハバキリ君は気に入っているとはいいがたいようだ。
対して店員さんは大変満足した表情を浮かべて大量の着せ替えの後をせっせと片付けていた。
「いやー眼福……ではなく、スタイルがよろしいからどんな装備でも映えて、目移りしてしまいました。しかし最善を尽くしたと自負しています!」
「……これはまた、白ランに槍とは……本当に最善なんですよね?」
しかし僕は自分がジャージをチョイスしたことは一旦棚に上げて、疑問を口にした。
すると店員さんはもちろんだとむしろ胸を張った。
「当然でございます。当店では、日々ビジュアルイメージを損なわず、かつ装備の特性を殺さないアイテムの研究を続けております。特に制服は、より機能的な研究が進んでいるのは、ダンジョン専門学校に通われている皆様方の方が実感されているところだと思いますよ?」
「それは……そうですね」
「そうでしょうとも。元は探索者が寄合い、どうにかカッコよい上に強い装備が出来ないかと、試行錯誤していた店が母体となったのが、この”ユグドラシル”なのです。我々はコスプレ文化を心から愛しています」
「そ、そうなんですね。見た目は重要ですよね」
「ええ重要ですとも」
そりゃあハバキリ君はいい素材だったことだろう。
店員さん、めっちゃ早口で不安になったけど、言ってることは本当だった。
うちの学校もダンジョンに潜る時は制服姿のままの人が結構多いし、そこに部分的に武器や防具を装備するのは割とメジャーだったりする。
この白ランだって……おそらくベースは同じというのなら普通にすごい代物だった。
こんなに趣味性が滲み出ているのに全然安っぽくなく、かつダンジョンに潜れるだけのグレードを兼ね備えているんだとしたらそのこだわりは変態じみた熱量なのは間違いなかった。
そこにプラスして、かなり高性能だと思われる白い素材の槍と手に付けた籠手からは、かなりの魔力を感じとることができて、ダンジョン探索者用の装備としていい物に見えた。
ただ、いい品だからこそ今更店員さんは冷静になって来たみたいだった。
「しかし……思わず全力でコーディネートしてしまったのですが、問題もあります」
「なんです?」
「冷静に考えると、学生の方が払うには少々お値段がですね……」
目が泳ぐ店員さんの疑念は結構致命的だった。
「そこ大事なところですよねー」
「ええ、まったくです。店長としてお恥ずかしい……。探索者の皆様方に美しくも有用な装備を提供すべきところを」
あんた店長だったんかい。
うーんそしてやっぱり予算無視だったか。
ハバキリ君の魅力のなせる業だとしたら、罪な話もあったものだった。
そしてその心配は一般的な基準に照らし合わせると何も間違ってはいなかった。
「一応現在の値段を確認させていただいても?」
「……こちらです」
差し出された電卓には、ちょっと学生の金銭感覚ではとてもじゃないが手が出ないお値段が刻まれていた。
うおっほっほい! これは中々探索者専門店舐めてたかも!
なるほどなるほど。こいつはさすがに普通の学生ならば不可能だろう。
店員さんも、もうすでに頭の中では撤退する判断を下す寸前に見える。
「まぁ残念ですがこういった装備があるということを心に留めておいていただけたら嬉しいです。とても有用な装備ですから、いつか探索者を本格的に目指す時には……」
「いえ! ちょっと待ってください。僕も欲しいものがありますからケースから出しておいてください。そしてハバキリ君が今着ているもの……すべて買わせていただきます」
「……え!?」
しかし―――甘く見ないでくれないか?
無数の回復薬を売り払い、ドラゴンの巣を攻略した探索者の底力、ここで見せつけてあげるとしよう。
しかしメンタルは小僧のままなので若干震えた喉からゆっくり息を吐いて、心の準備は欠かせない。
そして僕は真新しいカードを取り出すと、このセリフを言い放つことができた。
「一括払いでお願いします!」
「「!!!」」
僕はムフーと熱い鼻息を漏らして、脳に溜まった熱を排熱した。
しかしこいつは先行投資。
命を懸ける代価としてはむしろ安い方だった。




