第179話桃山君はすっかり目覚めている
桃山君が一人でこんな危険階層になぜ挑んでいたのか?
訊ねた僕に桃山君が告げた理由は、なかなかどうして最高に阿修羅していた。
「……修行でござるね」
「……もう最近、桃山君は語尾がネタじゃなくって求道者か何かのオプションかのような説得力が生まれ始めているよね」
「えぇ~そうでござるかぁ? 照れるでござるよ~」
なんかその返しは、その道に憧れがある証拠だった。
というか実際にこうしてハイリスクな階層で修行と称して戦闘をこなしているんだからもうすでに修羅道に突入しているようなものだった。
「いやぁ、人型ですごく強い相手を求めて修行をしていたんでござるが、ここが最適解かなと」
「大猿相手に訓練とか……最近、極まりすぎじゃない?」
「レベルが上がったんだから仕方がないでござろう? ……オーガ相手じゃもの足りないんでござるよ」
ガスマスクの下からくぐもった声が聞こえるが、オーガで物足りないというのはいただけなかった。
目覚めさせてしまったなぁと思いつつ、しかし僕はそれでもこいつを渡すのだ。
「実は桃山君に僕から渡したいものがあってね。遂に出来たよ……アレが」
「アレ?……ま! まさか! アレでござるか!」
「そうとも。新しい刀二本セットだ!」
僕がリュックサックから取り出した二振りの刀を見せると、ガスマスクから漏れ出る呼吸が荒くなった。
「おおー!! ……三本じゃなかったでござるか?」
「あー……ちょっと資材足りなかったって……」
「そ、そうでござるか……」
若干ションボリして呼吸音のため息バージョンが聞こえたけれど、桃山君はすぐに気を取り直して、差し出した刀を掴んだ。
「……了解でござる! 一から鍛え上げたニューウエポン、堪能させてもらうでござるよ!」
「いや、堪能しちゃまずい。いい? この刀はまだ完成してないんだ」
ただ忘れていたら困るので僕は念押ししてみる。
すると桃山君はそうだったでござると、禍々しい気配を放つ刀の刃を抜いて確認した。
「……ではどうすればいいんでござる?」
「うん。結構難しいからよく聞いて? これだ! って思うモンスターをこいつで止めを刺すこと。それが完成の条件だ」
「なんだ。簡単じゃないでござるか?」
「未完成の武器で、強敵を仕留めるのは簡単じゃない」
「あー……」
刀の力は最初に倒したモンスターに依存する。
その辺のモンスターで手を打てば比較的簡単に終わる話なんだけど、そんなに簡単に妥協できるわけもない。
長く使おうと思えばなおさらである。
そして桃山君はまず最初のターゲットにすでに目星をつけていた。
「だったら……おあつらえ向きでござるな」
「と言うと?」
「ちょうどそろそろヤツを仕留めようと思っていたんでござる……。この島のボス、最も強い皇帝をこの剣に捧げるでござるよ」
「!……おお、マジか桃山氏」
ガスマスクのゴーグル越しに見える瞳はとても楽しそうに、いつか行った島の中心に建てられた、属性を変える神殿を見ている。
確かにあそこには強力な個体がいる。
しかもそいつは階層の守護者をも凌ぐでたらめな化け物だった。




