第177話そこは押さえておきたい
「いやー。ビックリしましたー。龍宮院先生サブカル研究部さんの顧問やっていらしたんですねぇ」
ニコニコ語らう東雲さんはすっかり落ち着きを取り戻し、肝を冷やした僕と龍宮院先生はちょっとお疲れ気味に彼女の言葉に頷いた。
「そうなんだよ。まぁエキスポがらみの例の件もあるしね。顧問がつかない訳にもいかないだろう?」
「……ですね! ぶっちゃけなんかおかしいですもんこの部活!」
あ、外から見てもそういう感じなんだサブカル研究部。
それはそうだなって相槌を打つのも違うが、否定材料も見つからなかった。
「えーそれで? 例の物が完成したって聞いたけど?」
というわけで僕はさっそく話題変更もかねて楽しみにしていた用件を口にすると、東雲さんは不敵に笑っていた。
「フッフッフッ……いいですよぉ? ええ……お納めください」
大きな布の包みから出てきたのはもちろん、美しく仕上げられた日本刀だった。
怪しい雰囲気を放つそれを見て僕は思わず生唾を飲み込んだが、三本あるはずの刀が二本しかないことに僕は気が付いた。
「自信作です! 自分でも驚きの出来ですよ?」
「……二本?」
一応目に付くところだけに先に指摘すると、気まずい所だったのか東雲さんは今度はしどろもどろに説明を始めた。
「じ、実は……材料を使い切ってしまって。きちんと完成させられたのはこの二本だけなんです。……本当に申し訳ありません!」
猛烈な勢いで頭を下げる東雲さんはテーブルを粉砕しそうな勢いだが、ある意味ではこれは仕方のない事だった。
「ああいやいや! 上出来だよ! ……それにサポートジョブ出て来たんでしょ?」
失敗まで含めて、計算通り。桃山くんだって腕は二本だ、実際は二刀流までが限界である。
そして彼女が真価を発揮できるのはむしろスキルに目覚めてからだと知っていた僕は大切なところを確認すると東雲さんは小声になり、心持ち小さめに頷いた。
「は、はい……出ましたとも。これが手に入ってから、革命的に作業効率上がりましたし……ホ、ホントにいいんですか? こんなすごい事教えてもらって」
「いいよ。回数こなすのが熟練度を稼ぐコツです」
お得情報を漏らしつつ、僕は依頼の品を改めて確認するべく鞘に力を込めた。
鞘から抜き放たれた刀はどれも美しい輝きを宿した立派な刀である。
龍宮院先生も興味津々で刀の刃を覗き込んでいた。
「すごいな。……迫力がある」
「特別製で魂吸い取られるから気を付けてください」
「ヒェ! なんでそんな物騒なものを……」
「桃山君強化計画です」
「えぇ? 桃山君は……強化の必要あるかな?」
「……刀壊しちゃったんで。弁償もコミで」
「ああ……そういう感じ」
何か察した顔でスンとする龍宮院先生だが、そんなに僕はやらかしてないと思います。
魔力を流してみたが実にスムーズ。
切れ味は試してみないとわからないけど、見た目の完成度はダンジョン産アイテムさえ凌駕して、まるで美術品の様だった。
「うん。いやしかし思ったよりもきっちり仕事をしてくれてスキルまで習得してるってすごいよ。東雲さんやるね、期待以上だ」
僕は手放しで褒めると、東雲さんは表情をフニャリと柔らかくして、しきりに頭を掻いていた。
「いやぁ。それほどでも。ああでも! もう一本も頑張れますよ! ……材料をいただければですけど……」
それは僕にしてみれば願ってもない申し出だった。
だがしかし、僕はあえて首を横に振っていた。
「それなんだけど、一旦2本でいいかなって思うんだけどどうだろう?」
「……え? や、やっぱりお払い箱ってことですかね?」
とたん東雲さんの表情は不安で陰るけど、全然そんなことはない。
「ああいや。腕に不満があるとかそういう話じゃないんだ。むしろもっと頼りたい、材料は僕が提供するから、もっと武器を作ってみる気はない?」
「……それはダンジョン用のってことですか?」
「そう。実は近いうちにお店に武器を並べようかと思ってて、質のいい奴を手に入れたい。お願いできない?」
「お店……」
これもまた売店強化計画の一端なのだが、完全に予想していなかったのか東雲さんは背筋をピンと伸ばして元気に即答した。
「は、はい! やります! やらせてください!」
「すごいな……即答しちゃうんだね」
すかさず飛びついた東雲さんに聞いていた龍宮院先生はあきれ声だった。
だが肝心の東雲さんはむしろ当然だと主張した。
「そりゃそうですよ! ダンジョン素材使い放題で、秘蔵のスキルまで教えてもらえるチャンスですよ? 先生も欲しいものがあったら言ってくださいね! 今ならすごいの作らせてもらいます!」
ただ……おいしい話に龍宮院先生はすかさず反応した。
「え? そう?……じゃあ一つ作って欲しいものがあるかも」
「はい! 承ります!」
やはり即答する東雲さんはすごく思い切りがいい。
しかし龍宮院先生は一体何を頼むつもりなんだろうと、僕も興味深く聞いていると先生の注文は予想の斜め上だった。
「……その。金の鎧とか」
おずおずとそんなリクエストをし始めた龍宮院先生だが、今回こそは僕、ピンときましたとも。
「……」
「……何か言いたいことがあるのかな? ワタヌキ君?」
「やっぱり……やりたくなりますよねぇ?」
「そりゃあ……そうだろう? そして黄金は特別だよ」
「?」
ニコニコ笑っている東雲さんはたぶんいまいちわかっていなかったのでこの後入念な打ち合わせが必要のようだった。




