第174話とある副会長の企み
トンテンカンとリズミカルな音が響くセーフエリアには安全ヘルメットをかぶったケットシーが走り回っていた。
そして今日は八坂生徒会長と如月副会長が彼らを見て感嘆のため息を漏らしていて、そんな二人を浦島先輩が案内していた。
ちなみに僕はお付として一緒にいるわけだけれども、二人の会話に積極的に入れる気はちょっとしない。
「……見たこともないモンスターがうじゃうじゃいて落ち着かないな」
「そう? 慣れたら可愛いものよ? あげないけど」
「いらない」
「そう? それは……だいぶん損しているなぁ」
今にもテイムモンスターとは?なんて演説でもかましそうな顔をしている浦島先輩である。
モンスターは倒すもの、そんな固定観念を拭いきれていない八坂生徒会長に対して、如月副会長の方はモンスターにも寛容のようだった。
「私は欲しい。誰でもモンスターを使役できるものなの?」
「手順を踏めばね」
「なら貰いたい。犬型のモンスターはいない?」
「いるよ? 四足歩行と二足歩行どっちがいい?」
「犬種とかではないのか……ダンジョン恐るべし」
「いや、犬種も頑張れば……選べるかなぁ。うちのケットシーも見た目にけっこう特徴あるし?」
「実に興味深い」
楽しそうに見て回っているようだったが、絶対ただ楽しんでみて回っているわけじゃない。
浦島先輩の改装自体は、本格的とはいえ趣味の入り混じったものだったわけだが、生徒会が絡んだことで少しばかり話が変わってしまうかもしれない。
「ダンジョンの中をこうまでいじれるなら……いっそ改装してしまえばいいんじゃない?」
そんな提案は如月副会長のものだった。
今までの常識を打ち破る提案だが、まぁ今のセーフエリアを一目見れば当然行きつく話でもある。
ただ僕には疑問もあった。
「本当に勝手にいじくりまわしていいんですか?」
「トイレも作っている君が言うんだ。今更では?」
「……それはまぁ。でも怒られたらすぐに潰しますし」
「それはさすがに勿体ない」
僕としては、ちょっと公にそんなことしちゃっていいの?っという不安感もあるんだけど、そう言えばダンジョンの中はまともな法律すら機能しない無法地帯だと僕は思い出していた。
「可能であれば規定はないはず。必要なものがあればこちらでも協力できることはある。そして私はあなたにお願いしたいことがある」
そしていつになく真剣な表情で切り出した如月副会長に、僕は何事かと身構えて心の準備をしてから尋ねた。
「……何でしょう?」
「モンスター料理のお店を作って欲しい」
「お店ですか? 味が……気になるんですね?」
「そう……アレは絶対お金が取れる」
手を握ってからの懇願は、僕には少々攻撃力が高すぎる。
だがその懇願は中々熱烈であり、僕もここのところの研究の成果を披露するのもやぶさかではない。
ただ、八坂生徒会長の方はこの案にもあまり賛成できないようで、一旦無理やり仕切り直していた。
「まぁモンスターを食べるかは置いておくとしてだ……」
「えー?」
「私もあるといいと思うものはある。簡単なものでもいいんだ。案内板や、順路。セーフルームの整備。どれひとつとっても生徒の助けになるはずだ」
すでにダンジョン探索に於いて有効なものを考え始めている八坂先輩にここぞとばかりに浦島先輩が同調した。
「わかる! いるよねそういうの! あとさ! 動く床とか、ワープ床とか……無限に叩き壊せる壺とか欲しくない?」
「……いるかそれ? まぁいいか。夏の休みの間にでも試しに作ってみて欲しいが」
だが、試してみて欲しいと言う時期を聞くと浦島先輩は難しい表情になり、始めて難色を示していた。
「あー……作ることはできるよ。だけど私はいないかも」
「なぜだ?」
怪訝な表情を浮かべる八坂生徒会長は理解できていない。
ただ僕は横で聞いていてその理由を思いついて、ニヒルな笑みを張り付ける浦島先輩を黙って眺めていた。
「夏は忙しいからね。何せ……戦場が待ってる」
「……戦場だと?」
「そうだとも……我々サブカルチャー研究部最大の戦場だよ」
ドヤっと音がしそうなほどいい顔で言った浦島先輩に戦慄して表情を強張らせる八坂生徒会長の対比がいっそ美しいまである。
だけど僕は穏やかな表情でよかったねと頷いた。
「原稿間に合ったんっすね。おめでとうございます」
「……やっぱりそっち?」
「おや。副会長もお分かりで? 詳しいんですか?」
「まぁほどほど?」
それは素晴らしい。
何とは言わないが浦島先輩夏の戦場は、今年はコスプレにも手を伸ばして非常に過酷なものになるはずだった。




