第172話さて受け取ってもらおうか
「君達! 突然ごめん! だけど助けて!」
浦島先輩の助けを求める訴えは、全ては仕組まれたものだった。
「キシャアアアアア!」
はっはっは! 小さき人間どもよ怖かろう!
そしてそれを追う僕は……今は謎のモンスターとして炎の魔神へと姿を変えていた。
仮初のボディは精霊達の集合体。精霊合体モンスターワタヌキ君の誕生の瞬間である。
全身燃え盛るボディには様々な精霊がギッチリ詰まっていて、どこからどう見ても姿かたちはモンスターのそれだった。
いえね? 僕は考えたのだ。
女の子に指輪を手渡す? そんな意味深なこと本当にする必要あるの?と。
そしてなおかつすぐに使ってもらわないといけない関係上、一定の説得力は大切だろう。
この閃いた案を説明したら、浦島先輩からはガッカリだよ……とお言葉を頂戴してしまったが、先輩もなんだかんだ協力してくれたわけだ。
わざわざ浦島先輩の協力を仰いだのにだって理由はあった。
指輪をドロップするなら、相応のモンスターを演出しなければならない。
しかし強そうなモンスター相手なら、逃亡は当然選択肢に入って来るだろう。
そこで大事なのが浦島先輩である。
月読さんの所のリーダーである草薙君は、僕が見たところ浦島先輩を憎からず思っている……と思う。
恋愛感情ではなくとも、あの表情をしていて憧れがないことはないんじゃないだろうか?
そんな彼女がモンスターに追われて助けを求めればどうか?
少なくとも逃げると言う選択肢は削れるはずなのだ。
我ながらひどい作戦だが……巻き込ませてもらおう。
そして作戦通りに草薙君がまず食いついた。
「わかった! こっちだ! 任せてくれ!」
「ホント! ありがとう! 助かった! いやぁ……かっこ悪いところを見せちゃったなぁ」
ただ照れてごまかす浦島先輩だったが、言葉を掛けたとたんに振り返ったクサナギ君は目が点になっていた。
「え? ええっと……どこかで会ったことがあったかな?」
「……いや、何でもないヨ」
あ、草薙君ひょっとして本気で気がついてない?
いやそう言えば、今浦島先輩増量期だったか。
しかし声も骨格も同じなんだから気がついてもよさそうなもんだけど……どうにもそういうわけにはいかなかったようだった。
「……」
ほら、背後の浦島先輩の目がまるで虫を見るような目をしていて……いや、見なかったことにしよう。
ちょっと思っていたのとは違うが結果オーライ。目的の第一段階は達成した。
戦闘態勢を整えたクサナギパーティは逃走する気配はなかった。
ぐっと親指を立てた浦島先輩の献身的な活躍に感謝しつつ、僕は動き出した。
「ぐおおおおお!」
今はモンスターとして、精一杯の負けっぷりを披露するだけだ。
分かっているね? 精霊達……では行くぞ?
僕が魔力の出力を急上昇させると、よっしゃやったる!と全身の精霊が応え、幻影の炎が燃え上がり、草薙君達前衛に襲い掛かった。
「なんだこいつ! 見たことないぞ! ハクジャ! 動きを止めろ!」
まずはタンクのハバキリ君が白い蛇の精霊を展開すると、足元が猛烈な勢いで凍り付いて言った。
おお! 水属性の精霊か!
中々の出力の様で、数秒も経てば僕の体の動きがすっかり止められてしまった。
そして動きが止まったところに、草薙君が現れるが―――僕はさすがにギョッとしてしまった。
彼の身体には墨で描かれたような龍が絡みついていたからだ。
「食らえ!」
振りかざした剣に宿るのは強烈な光の魔力。
そして精霊の龍がそこに更に闇の魔力を注ぎ込む。
「……グルルルル」
これは……! 光と闇が合わさって最強に見える!
相反する属性の絡み合うその光景はいっそ神々しくさえ見えて、実際強力なスキルであることは間違いなく、脅威になりえる。
だが―――それはゆくゆく成長したらの話だった。
「グハハハハハ!」
「「!」」
僕は豪快に笑い、拳の一撃でスキルを正面から叩き潰した。
炎の巨人の猛烈な拳の一撃は闇の龍ごとクサナギ君を粉砕した。
「……なに!」
「嘘だろ!」
ハバキリ君とクサナギ君には申し訳ないけど、引きずり出すべきはただ一人なんだ。
僕はこんなところで負けてはいられないのだよ。
そうして見据えるのは最終目標の月読さんである。
まず彼女が出て来て、戦利品を貰う権利を得てもらわないと始まらない。
そんな僕を邪魔するように飛んできた超特大の炎の塊を受け止め、爆炎に飲みこまれたが何の痛みも感じはしない。
僕は無造作に炎の壁を踏み越えると、驚愕した美少女がカタカタ震えているのが見えた。
「ウソ……こんなのが出て来るなんて」
ふははは! 怖かろう!
天音さんが先の結果を見て慄いていたが、精霊単品で相手出来るほど精霊合体ボディは甘くはなかった。
というか、おそらくその炎の精霊もグルだ。
頭の後ろに飛んでいる精霊は少女のようだったがそのヤレヤレって顔は今すぐやめて欲しかった。
さてお膳立ては整った。
「スゥ……」
僕は最後に残った、同じくカオスな魔力を纏った誰かさんに掛かってこいと手招きをする。
現状、限界以上に力があふれている調子に乗ってる月読さんは、まるで悪の女幹部のように優雅に悪いセリフを言い放っていた。
「……いい度胸ね。でもいい気になっていられるのもここまでだわ!」
いつになく勢いのある月読さんは明らかに様子が変だった。
なんかハイ。
とてもハイなテンションだ。
しかしそうなってもおかしくないくらいに、精霊達が助力しているのは確定的に明らかだった。
この茶番も最後のフィナーレである。
敵も味方も精霊達が湧きたっているのが分かる。
いや、僕の方はすでに撤退準備を整えている節はあるか。
「……すごい力が流れ込んでいる。これがあなたたちの力なのね!」
月読さんが叫び、僕は目を細める。
その魔力はあまりにも不安定でスキルとも魔法とも呼べるものではなかった。
単純な数の暴力。しかし破壊力はまぁ、かなり暴力的になりそうだ。
一体一体は大したことなくとも、数が集まれば恐ろしい力を発揮するのは当然の結果だった。
「……」
予定通り―――確かにそのはずだ。
しかし実際に攻撃力として目の前に出来上がりつつある魔力塊を見つめて、僕の頭には不安がよぎっていた。
……でもあれ、喰らって平気かな?
ちょっと自信がなくなって来たわけだが、もう逃げることもできない。現実は非情である。
精霊達は未だかつてない団結を見せた。
正式にテイムモンスターとして組み込まれている者とそうでない者、その両者の利害が一致して混じり合い、凝縮される。
目論見は間違いなく伝わっているはず。つまりあの巨大な力が向けられるのは……。
「……僕なんだよな」
ちょっと涙目になりながら、僕はその時を待つ。
「さあ! 行って!」
「……!」
あらゆる精霊が放つ欲望の一撃が閃光となって飛んできた。
「ぬおああああああああ!」
それは容赦なく巨大モンスターは炸裂し火の玉ボディは、まばゆい魔力の渦に呑まれて消え去った。
「……やったわ!」
そしてキンと音を立てて、転がり出る指輪が一つ。
最大の戦果を挙げた月読さんは、ドロップアイテムだと思われるそれを拾い上げると使い方を精霊達が丁寧に囁いていた。




